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25話 吟遊詩人

 食事とお酒を満喫し、初めての酒場の雰囲気に酔っていた。出された料理は食べ尽くし、追加した料理が来るのを待っている。

 腹も八分程満たされ、酒場を見渡す余裕も生まれた。酒場の客は殆どが冒険者だ。丸腰の人間がいないからすぐに分かる。それぞれのグループごとに固まっているので、いきなり絡まれる心配はなさそうだ。

 しばらく周りを観察していると、不意に吟遊詩人の詩が始まった。吟遊詩人は木製のギターを奏で軽快に唄う。その詩は今まで聞いたことがなく、詩の部分にとても興味が湧いた。





「時代が終わりを迎える時、空から大王がやってきた。

 奪い・犯し・殺戮する、人々の醜さに大王は憤怒した。

 怒り狂った大王は人々から先ず道具を奪った。

 道具に頼っていた人々は何もできなくなった。

 怒りが治まらない大王は次に万の鉄槌を下した。

 泣き叫び、逃げ惑う人々は大地に平伏していった。

 やり過ぎた大王は最後に苗木を与えた。

 大地に残った人々は七日七夜苗木を育てた。

 苗木は大樹となり世界樹と呼ばれた。

 世界樹は人々に試練を課す。

 人々は試練を乗り越え恩恵を得た。

 人々は繁栄し幸福に暮らしました。」





 詩は災厄から人々が幸せになるというありきたりな内容だったが、非常に気になってしまった。


『何か考えてるみたいだけど、どうかしたの?』

『う~ん? あの詩が気になってさ』

『何が気になっているのか分からないけど、『大王と世界樹』って詩で割りと有名よ。私は御祖父様からよく聞かされたわ』

『あ、有名なんだ』

『確か、百年位昔に実際に起きた事が元になっているみたいね』

『なるほどね。ねえ、お祖父さんから他に何か聞いてない?』

『そうねえ……。隕石がどうとか言ってた様な気がするわ』

『そうなんだ。うん、色々分かってきた』


 美奈の話と詩の内容から推察すると、隕石によって世界が荒廃させられたという事だろう。「世界樹」が何か分からないが、それも隕石由来のものらしい。意外なところで荒廃の原因が判明した。この詩については、後で詳しく調べる必要があるかもしれない。ただ、今は他に知りたいことがある。


『世界樹って何か知ってる?』

『魔物や迷宮を生み出してるって聞いたわ。この辺りだと富士山の近くにあった筈だけど、強力な魔物がいるから、用がない人は近付かないでしょうね』

『!? 美奈が知ってて意外だった』

『このくらい誰でも知ってるわ。ふん! そんなこと言うなら、もう何聞かれても答えないわよ』

『気を悪くしたなら謝るよ。ごめん』


 美奈を怒らせてしまった。しかし、実際のところ記憶を探れば分かるので、困ったりはしない。怒らせると単に面倒くさいというだけだ。

 世界樹のことも分かったし、後は食事を楽しもう。せっかくの時間を考え事で潰したくない。そんな結論に達すると、丁度追加した料理が運ばれてきた。

 運ばれてきた料理を食べようとして、ふと気付く。秋の前に空の瓶が何本も置いてある。いつの間にか増えていた空き瓶に驚いたが、秋の飲みっぷりを見て納得できた。


「ねえ秋、そんなに飲んで大丈夫なの?」


 結構な量飲んでいるので心配になった。


「大丈夫れーす。まだ酔ってないれすよー」


 口調がおかしくなっている。大分ヤバそうだ。他の二人を見ると、二人もヤバイと感じたのか頷いている。お腹も良い具合に膨れたし、追加した料理も無くなってきている。そろそろ、頃合いかもしれない。


「秋、明日もあるしそろそろ帰ろうか?」

「まーだ帰るには早いれすよー。それにー美奈は全然飲んれーないじゃなーい」


 秋は絡み酒だったのか。これ以上飲ませると厄介なことになる。八尋と田中さんを見ると、苦笑しているだけで何もしようとしていない。どう対処すればいいのか分からないようだ。二人はあてにならないので、自分で何とかするしかない。


「ねえ、お風呂に入りたいから早く帰りたいんだけど、秋はお風呂に入らなくて良いの?」

「……入りたいれす」

「そうよね。今から帰るとちょうど良い時間だと思うの。だから、そろそろ帰りましょうよ?」

「美奈がーそこまで言うならーしょうがないれすねー」


 安易な策だったが、何とか説得することに成功した。

 支払いを済ませ店を出ようと立ち上がと、秋の足元が覚束無かったので肩を貸す。旅館まで歩いて帰れそうにない。


「ほら秋、フラフラして危ないからおんぶしてあげる」


 『ウラミヤ』を出てから、おぶさりやすいようにしゃがんで背中を向ける。


「はーい」


 ドサッという音とともに急に背中へ負荷がかかる。思わず前に倒れそうになり何とか持ち堪えたが、背中から伸ばされた腕がしっかりとしがみついてきた。そんな秋が落ちないように足を抱えて立ち上がる。


「しゅっぱーつ」

「はいはい」


 秋の号令に適当に相槌を打ち旅館への帰路についた。

 帰る途中の路地で変な連中に絡まれたが、田中さんの顔を見た瞬間逃げていった。まあ、暗がりで見たら僕も逃げ出すかもしれないが。それにしても、また絡まれると面倒だ。僕達は早足で旅館に向かった。


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