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22話 出発

 疲れを癒やし、目の保養にもなったお風呂タイムは終了した。これからの生活のためにも、やっぱり、お風呂は必要だ。東京に行ってもお風呂付きに住もうと決めた。

 髪をしっかり乾かし、貸してもらった浴衣を着る。秋は寝間着を着て髪はタオルで纏めている。何かいい感じです。

 秋の支度が終わり二人で脱衣所を出る。廊下の階段のところで、夜の挨拶を交わして秋と別れた。別れるときに、「寝坊しないで下さいね」と釘を刺されたけど。


 客間に戻ってくると、八尋が退屈そうにしていた。


「お待たせ。お風呂空いたから入っていいわよ」

「長かったね。することが無くて寝るとこだったよ」

「女子には色々とあるのよ」

「ふ~ん。まあいいや。お風呂行ってくるよ」

「いってらっしゃい。先に寝ておくから明日はちゃんと起こしてね」

「もう寝ちゃうの?」

「早起きは苦手だから、早めに寝ないと起きれそうもないしね」


 まあ、戦闘で疲れたんで早く寝てしまいたい、というのもあるけど。そして、横になったら直ぐ寝てしまう自信があった。


「じゃあ、寝るから後はよろしくね。おやすみなさい」

「はいはい。おやすみ」


『美奈もおやすみ。寝坊したら頼むね』

『起こせる自信はないけど、りょーかい』


 敷かれている布団に入り目を閉じた。横になると直ぐに意識が無くなった。





 眠りから覚醒へとスイッチを切り替えたように突然目が覚めた。部屋は薄暗く隣では八尋が寝ている。今何時頃かは分からないが、まだ起きるのには早い時間だと思う。また寝ようかとも思ったが、尿意を感じたので止めておいた。目が覚めたのはこの所為だろう。


『もう起きたの?』

『うん。花を摘みたくなった』

『バカ』


 八尋を起こさないように客間を出てお手洗いに行く。廊下から見える中庭は少し明るくなっている。日の出はもうすぐか。お手洗いから客間に戻っても八尋はまだ寝ていた。起こすには少し早い時間なので、先に支度を済ませることにした。

 再びトイレに戻り、洗面台で顔を洗って歯を磨く。髪をとかすと結構時間が掛かる。


『毎回思うけど、朝から大変だよね』

『そう? 毎日のことだし大変だと思ったことないけど』


 慣れるとそんなものかもしれない。何とか髪をとかし終えて客間に戻ると、八尋が起きていた。


「八尋、おはよう」

「ふぁ~、おはよー」


 八尋はまだ眠いのか布団から動こうとしない。そろそろ支度しないとダメな時間だろう。


「いい加減、布団から出て顔でも洗ってきたら? 早くしないと遅れるよ」

「うん、顔洗ってくる」


 のそのそと布団から這い出し、客間から出ていこうとしている八尋に声をかけた。


「そうそう、着替えるから声をかけて入って来てね」

「分かったよ」

「覗いたらお仕置きよ」

「の、覗かなってば!」


 ビシャ!と少し強めに襖が閉められた。八尋はからかうと面白い。


『あんまり面白がらないでよ』

『ごめん、ごめん。程々にしておくよ』


 覗いてないか確認してから着替え始める。浴衣からいつものブラウスとスラックスに着替えるだけなので、そんなに時間はかからない。


「美奈、着替え終わった?」


 客間の外から声が掛かる。タイミング良いなと少し思いながら返事をした。


「終わったから入っていいわよ」


 八尋が入って来た。顔を洗ったことで目が覚めたのか、寝ぼけ眼がパッチリと開いている。


「目が覚めたなら、早く着替えを済ませて」

「何だかやけに急かせるね」

「遅れたら秋に迷惑がかかるし当然でしょ」

「まあそうだね。なら早く着替えたいんだけど」


 八尋は着替えずに何かを待っているようだ。何となく察したもののあえて無視をする。


「ん? 着替えたらいいでしょ。何、恥ずかしいの?」

「は、恥ずかしいわけ無いだろ! 着替えるよ」


 顔を真っ赤にして否定すると、手早く着替え始める。そんな八尋が着替え終わるのを、ニヤニヤしながら待つ。着替えそのものには興味は無いけどね。


『またやってるじゃない』

『ごめん。八尋の反応が面白いから、ついね』


 そろそろ、美奈がキレそうだし止めておくか。

 八尋が着替え終わった頃、廊下から声がかけられた。


「美奈、起きてますか?」

「起きてるわ。どうぞ入って」


 襖がスッと開かれ秋が入って来た。


「美奈、八尋、おはようございます」

「おはよう」

「おはよー」


 秋はゆったり目のペプラム風の上着にカーゴパンツ、縁の大きい赤い眼鏡と長髪を片側で纏めているだけというラフな格好だ。今日は移動だけということなので動きやすさ重視だろう。ゆったりした服を見て思ったが、秋は胸が強調される服装は好まないようだ。


「支度は済ませたから、いつ出かけてもいいわよ。まあ、秋の方もバッチリみたいだしね」

「はい、私の方も大丈夫です。それでは朝食を取りながら、これからの旅程を話しますね」


 三人で食堂に移動する。食堂にはすでに朝食が三人分用意してあった。ご飯に味噌汁、焼き魚と玉子焼き、朝食の定番メニューだ。お腹も空いたことだし早速いただくことにした。


「食べながらであれだけど、どういう予定で行くのか教えて」

「東京まで二日の予定です。一日目は大宮まで行きますが、七時から出発しても夕方くらいまで掛かるでしょうね」

「そんなに掛かるの?」

「ええ、大宮まで途中に街も在りませんししょうがないです。それから、御者としてもう一人付いて来ることになってます」

「あ、そうなんだ」

「高崎まで馬車で戻って来てもらわないといけませんしね」


 秋は東京に常駐するから戻ってこないが、馬車は誰かが乗って高崎まで戻る必要がある。そう考えるともう一人必要になってくるのか。気付かなかった。


「言われてみればそうね」

「予定としては今話した通りです」

「分かったわ」


 今後の予定も聞いたところで、朝食を手早く済ませる。もうこの料理を食べることは無いし味わって食べた。しかし、お弁当が作ってあったので、また食べられることになったけど。


 外に出て馬車置場に行ってみると、出発の準備はほぼ終わっていた。後は僕達が乗るだけになっている。元春さん達が朝早くから馬車置場に来て色々と準備していたようだ。まだ、寝ているのかと思ってました、ごめんなさい。


 馬車に乗り込み元春さん達と別れを済ませる。僕達は御者の人を加え大宮に向けて出発した。


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