20話 別れ
通りは買い物客で溢れている。時間的に夕食の買い出しだろう。
「二人共、家に送る前にちょっと寄り道して良い?」
「良いですよ」
桃火が千花の方を見てから答えた。許可を得て、今朝買い物した武器屋へ向かう。
『今度は何をするの?』
『拾ったものを有効活用しようかと思って』
『ふーん。まあ、良いけど』
詳しく説明する時間も無く、歩いて直ぐの武器屋に入る。
「こんにちわ」
「いらっしゃい」
おじさんが店の奥から返事をした。
「朝はありがとうございました。お薦めの武器、役に立ちました」
「朝のお嬢さんかい。そいつは良かった。で、今度は何の用だい?」
おじさんが早く話せとばかりに聞いてくる。
「えっと、武器を拾ったので見てもらいたいんです」
「ほう、どんな武器だい?」
八尋は長剣を取り出しおじさんに渡した。
「どれどれ。うーん? 特に変わったところはないな。普通の長剣だ」
骸骨兵が持ってたから何かあるのかと思ったけど何も無いのか。
「そうですか。じゃあ、その長剣に合う鞘を下さい」
「鞘だけかい? 今すぐには無理だな。明日には用意出来るが」
「明日で良いですよ。料金は先に払っておきますね」
「先払いかね。まあ、うちは構わんけど、銀貨二枚だな」
八尋に銀貨二枚を支払って貰う。
「では、長剣は置いていきます。明日、鞘と一緒にこの子に渡して下さい」
桃火の肩にポンと手を置く。桃火が驚いて僕の顔を見ている。
「明日だな。了解だ」
用事も終わり、おじさんに挨拶してから店を出た。
桃火が、何か言いたげの顔をしている。二人の家は南西側とのことなので、歩きながら説明する。
「桃火は、また魔物が出る場所に行くんでしょ?」
「はい、薬草とかは川を渡ったところにあるから」
「魔物と出会ったら戦う時もあるよね?」
「逃げられない時は、多分戦うと思う」
「じゃあ武器は良い物を持っとかなきゃね。あの長剣は拾った物だからあげるわ」
「でも、貰ってばっかりじゃ悪いですし……」
「そんなこと言って、また死にかけたらどうするの? 魔物と戦うんだったら、予備の武器は持っておくべきよ。何かあってからじゃ遅いしね」
「オイラ達も準備はちゃんとしていったもんね」
「八尋の言う通りよ」
八尋の助け舟もあったおかげか、桃火は納得したようだった。
「じゃあ桃火、明日ちゃんと受け取りに行く事」
「オイラ達、明日には街を出て行くし、遠慮しない方が良いよ」
「え、街を出るんですか?」
「そうよ。もう何かあっても助けられないし、後は自分達で何とかするしか無いわよ」
ややあって、桃火には決意の程が表情ににじみ出ていた。
「分かりました。それじゃあ遠慮なく受け取ります」
「うん。桃火が家族を守っていかないとね。でも、今日みたいな無茶をしたら許さないわよ」
「……はい」
なんか偉そうな事を言ってしまった。話題を変えるため千花に話し掛ける。
「千花、さっきは勝手に色々決めちゃってごめんね」
「いえ、わたしも兄さんに頼ってばかりじゃダメだと思ってました。ちょうど良かったです」
「それなら良いけど、ちょっと強引だったかなと思ってたのよ」
「あれ? 反省とかするんだね」
美奈はどうか知らないけど反省ぐらいするわ! と突っ込みたいが止めておく。八尋には何かお返しをしようと思う。
『人の事言えないよね』
という、突っ込みが恐ろしかったので聞こえない振りをした。反省してます。
南門に向かう通りを右に曲がり裏通りに入っていく。この辺りは工業地区になっているのか鍛冶屋等の工房が多い。
桃火達の家は工業地区を抜けたところにあるらしい。しばらく歩き、工業地区を抜けると水路があり、橋を渡った先に家はある。しかし、家まで送るのは断られたので、橋のところで別れることにした。
「それじゃあ、二人共元気でね。色々お節介な事をしたけど、後はお母さんと三人で頑張るのよ」
「はい、色々とありがとうございました」
桃火が頭を下げると、一緒に千花も下げていた。千花が少し震えている。気付かない振りをし二人に背を向け歩き出した。
「オイラ達は行くから、それじゃあ」
後ろから八尋の声がしたと思ったら、もう隣を並んで歩いていた。
「あの二人これから大丈夫だと思う?」
「大丈夫でしょ。心配しすぎだよ」
「そうかな?」
「そうだよ。この世界、逞しくないと生きていけないよ」
確かに八尋の言う通りだ。魔物がいる世界なんだ、弱いままだとと生きていけないだろう。でも、何となく気になってしまう。二人の家庭環境が僕に似ているからかもしれない。僕の家も母子家庭だった。母親もそれなりに苦労していたように思う。母親のことを少し思い出してしまった。
今どうしているだろうか? と思っても何か分かるわけでもない。考えると寂しさが増すばかりだ。これ以上考えるのを止めた。
『へぇー、やけに親身になってると思ったらそういう事なの?』
『な、何の事かな』
『うん、わかるわ~。お母さんは大事よね』
美奈は大げさに頷いていた。拙いことを知られてしまった。からかった仕返しをされるのは確実だ。美奈のニヤニヤしている表情が物語る。
『あー、暗くなってきたから早く帰らないと秋に怒られるね』
『ん~? そうかもね~』
話を逸らしてもダメそうだ。諦めて帰路を急ぐ。辺りは既に薄暗く街灯が点き始めている。
「八尋急いで帰るわよ」
「寄り道が時間掛かり過ぎなんだよ。あーお腹空いた」
八尋と同じくお腹が空いた。天海家の人達を待たせるのも悪いし、急いで天海邸に向かう。着いたら、美奈にからかわれるのを覚悟しておこう。




