19話 買取額
四人で串焼きを食べながら『天海屋』に向かっている。桃火に食べさせるのは建前で、小腹が空いただけだけど。ただ、「私も食べたい」と美奈から恨み言を言われてしまった。
『天海屋』に着いたところで秋を探しに二階に向かう。程なくして売り場にいるのを見つけた。
「「ただいま」」
「美奈、八尋おかえりなさい。依頼の方はどうでしたか?」
「上々かな。それで、〈中華人草の茸〉を見て欲しいのだけど、今大丈夫?」
「ええ、良いですよ。でも、此処では何ですから作業場の方に行きましょうか」
「分かったわ」
「えっと。ところでその子達は?」
一緒にいた桃火と千花を見て疑問に思ったのだろう。二人について簡単に説明する。
「この子達の依頼を受けたんだけど、報酬の事でちょっと付いてきてもらったのよ」
「そうなんですか。私は天海 秋津、よろしくね」
二人も自己紹介をし、五人で二階の作業場に移動する。作業場は従業員しか来ない場所で、商品が置いてあったり作業をするための机がある。秋が机のところで立ち止まり、八尋がずだ袋を渡した。
「それ、胞子とかは大丈夫なの?」
秋に不思議に思ったことを聞いてみる。
「切り取ってすぐは胞子が出ますけど、時間が経てば大丈夫ですよ」
「へぇ~そうなんだ」
「それじゃあ査定しますね」
ずだ袋から茸を取り出し机に置いていく。並べられていくのを見てあれが背中から生えてたのかと思うと、ちょっと気持ち悪い。秋が〈中華人草の茸〉を感触を確かめたり、匂いを嗅いだりしながら査定していく。
「状態も悪く無いですし、結構大きいですね」
六本全部が大人の腕位の太さと長さがある。これは期待して良いかもしれない。
「いくら位になりそうなの?」
「そうですね。うちだと一つ十万で買い取らせてもらいますね」
かなりの高額にちょっと驚いた。他の三人も驚いている。依頼は五万~、になっていたけど、色でも付けてあるのだろうか?
「友達だからって色付けなくても良いのよ」
「状態も良いですし、このくらいが適正な金額ですよ」
秋が微笑んでそう言った。依頼よりも高額だし、売ることにしよう。
「それじゃあ、買い取ってもらうことにするわ。でも、半分はこの子達のものだからね」
「「「え!!」」」
桃火と千花の二人が驚いて僕を見ている。八尋も「任せる」といったんだから、驚くんじゃありません。美奈は黙って成り行きを見守るつもりのようだ。
「どういうことですか……?」
千花の疑問に答えるように説明する。
「まあ、茸が手に入ったのは千花達お陰でもあるしね。内訳は、一つ目は桃火から切り取ったんだから桃火の物。二つ目は私達だけじゃ見つけられなかったし、情報料として受け取って。三つ目はあげる。でも、依頼の報酬として貰うけど、それでも良い?」
「わたし達は、それで十分です。でも、美奈さんはそれで良いんですか?」
「私達は十分元が取れてるから良いのよ。そうよね、八尋?」
まだ驚きで放心している八尋に確認する。
「え? ああ、確かに元は取れてるね」
立ち直った八尋が答える。
「ほら、八尋もああ言ってるから気にしないで」
「……はい、分かりました」
千花は遠慮がちに了承した。少々強引な理由付けだった気もするが。
「八尋と桃火も、これは決まったことだから良いわね?」
「分かった」
「僕も良いです」
二人にも一応納得してもらった。
『美奈もこれで良い?』
『誰も損して無いから良いんじゃない』
美奈はあっさり納得した。あまり金欲が無いのかもしれない。戦闘欲はかなりのものなんだけど。
「じゃあ、茸を買い取って貰うわね。あ、でも、桃火達は一つは必要なんでしょ?」
「はい、母に食べさせたいので残して下さい」
「分かったわ。あれ? でも、これってどうやって食べたら良いの?」
そのまま食べるにしては不味そうだし、調理法でもあるのだろうか?
「味はしないので、加工したものをスープなどに入れて食べるのが普通ですね」
「そうなんだ。じゃあ、加工しないとダメなのね」
「はい。加工には、一週間位は掛かると思います」
一週間は長すぎる気がする。桃火達としては直ぐにでも欲しい筈だ。
「一週間か……桃火、待てる?」
「う~ん……できれば早いほうが良いかなと……」
「そういうことなら、すでに加工したものと交換でどうでしょうか?」
「はい! それでお願いします!」
秋が提案すると、桃火は即座に答えた。やっぱり、出来るだけ早く手に入れたかったようだ。
「それでは、金貨五十枚と加工した茸をいくつかお渡ししますね」
「私達は後で受け取るわ。金貨四十枚とか重そうだしね」
「それもそうですね。では、金貨は十枚だけ持ってきますね」
秋は作業場から出て行った。
「思ったより上手くいって良かったわ」
「まさか折半するとは思わなかったけどね」
「損はしてないから良いでしょ」
「任せたんだから別に文句はないよ」
八尋も不満は無いようなので良かった。
ただ、桃火と千花を見れば「良いのかな?」「わかんない」と二人で相談している。そんな二人を見て、ふと疑問に思う。二人にとって自分のしたことはどう思われたのだろうか?
偽善、それとも親切の押し売り、結果だけ見れば誰も損はしていない筈だが、良く分からない。
『自分が良いと思ったなら、相手にどう思われてもいいじゃないの』
『そうかな?』
『私はそう。思ったことをするだけよ』
『美奈らしいね』
美奈と会話したことで少しは気が楽になる。そうこうしていると、袋を持って秋が戻ってきた。
「お待たせしました。金貨十枚と「万能茸」4つをお渡ししますね」
秋が持っていた袋を桃火に渡す。桃火が渡された袋を開け中身を確認した。
「へぇー〈中華人草の茸〉を加工すると万能茸になるのね」
思ったことがつい口に出てしまった。
「はい。乾燥させて食べ易いように加工してあります。食べる時はスープなどに入れて下さいね」
「分かりました。ありがとうございます!」
桃火はよっぽど嬉しかったのか、深々と頭をさげる。
茸も買い取って貰いそろそろ店を出ようとしたところで、秋に頼み事があったのを思い出す。
「そういえば、秋にお願いがあったのを忘れてたわ」
「何でしょうか?」
千花の後ろにまわり、両肩に手を置く。
「この娘何でもするそうだから、秋のところで何か仕事を紹介してくれないかしら」
「何でもですか……」
「ええ、何でもよ」
二人で口元に笑みを浮かべる。それを見た千花は体が固まっていた。
「この件は父に言っておきます。店の者に言えば分かるようにしておくので、千花さんは明日また尋ねてきて下さい」
千花は恐る恐る頷いた。秋のことだから悪いようにはしないだろうけど、また余計なお節介をしたのだろうか。千花の不安そうな顔を見てると、そう思えて仕方がない。
「そろそろ暗くなるし、この子達を家まで送ってくるわ。秋、また後でね」
店を出ると空が朱と金に染まっていた。




