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18話 報酬

 森から組合まで急いで戻ってきた。途中、南門で守衛に止められ、少年の通行料を払う羽目になったけど。

 組合の入り口には少女が待っていたが、僕達の姿を見つけると脇目も振らず駆け寄ってくる。少女は兄の無事を確認すると、目に涙を浮かべお礼を言ってきた。


「あ、ありがとうございます……」


 お礼を言うのがやっとの様子で、それ以上は感極まって言葉に出来ないでいた。落ち着くのを待って、少女に提案してみる。


「此処で話すのもなんだから、休憩所に行きましょうか?」

「あ、はい。すみません」

「良いのよ。気にしないで」


 休憩所に着くと少年を椅子に下ろし、自分も席に着く。八尋と少女が席に着いたのを確認してから話を始めた。


「話の前に名前を聞いても良いかな?」

「あ、名前も言ってなくてすみません。わたしは『比良坂 千花(ひらさか ちか)』、こっちが兄の『桃火(とうか)』です」

「美奈よ。こっちは八尋、よろしくね」


 千花は恐縮して頭を下げていた。


「とりあえず、桃火が無事で良かったわ。人違いだったら、どうしようかと思ったけどね」

「はい、本当にありがとうございました。それと、特徴のない兄さんですみません」


 千花は口元に笑みを浮かべ冗談めかして言った。冗談を言えるくらいには落ち着いたようだ。


「それにしても、短剣だけで魔物狩りなんて無茶な事するわね。何か理由でもあるの?」

「……はい、それがその――――」


 一瞬の躊躇いの後千花が話し始めた。

 千花の説明によると、母親と三人で暮らしていたが、ある日母親が病気で寝込んでしまう。代わりに桃火が生活費を何とか稼いでいたが、母親の病気は一向に良くならない。そんなある日、どんな病気にも効くという〈中華人草の茸〉の話を聞いた桃火は、何日も探した結果ついに見つけ今朝討伐に出かけた、とういう事だった。


「なるほどね」

「それで……あの、報酬の方は……」

「あーそれは、どうしようかな?」


 話を聞いた限りでは、千花達に報酬を払えるだけの余裕はないだろう。ここは美奈と相談して決めよう。


『さて、美奈はどうしたら良いと思う?』

『〈中華人草の茸〉もあるし、別に報酬は要らないんじゃない?』

『確かに美奈の言う通りだけど、依頼だし報酬無しは違うような気がするんだよね』

『じゃあ、どうするのよ』

『ちょっと考えがあるから任せてもらえるかな』

『丸く収めるなら別に良いわよ』

『ありがとう』


 美奈から許可も貰ったし、後はどう話を切り出すか考えていると、千花がすごいことを言い出した。


「すみません、お金が無いので報酬を払えません。その代わり、わたし何でもします」


 千花の言葉を黙って聞いていたが、ふと閃いたことがある。


「今何でもするって言ったの?」

「はい……」

「そう。じゃあ素材を売って色々決めたいから、ちょっと付き合ってもらえる?」

「わかりました」


「八尋も、この件は任せてね」

「良いけど、どうする気なの?」

「まず、秋のところに行って〈中華人草の茸〉の買取額を聞いてこようと思うわ」

「まあ、良いんじゃない。秋の方が高いかもしれないしね」

「流石、良く分かってるわね」

「まあね」


 八尋は気付いていたけど、あの依頼の買取価格は実は安いのでは? と薄々思っていた。それに、秋からも売って下さいと頼まれたこともある。


「そろそろ桃火に起きてもらわないと。千花お願いね」


 かなりの時間が経っても一向に起きてこないので、千花に起こしてもらうことにする。除菌薬が効いていれば身体の方は大丈夫なはずだ。千花は中々起きない桃火をビシバシと音がしそうな勢いで叩いて起こした。これをみるとどっちの立場が上なのかが分かる。


「んぁ~よく寝た。あれ、ここ何処?」


 桃火はかなり寝ぼけているようだ。千花からこれまでの経緯いきさつを聞いている。


「助けてくれたみたいで、ありがとうございます。魔物に襲われたのは覚えてるんですが、その後の記憶が曖昧で……」

「そっか。それで、体の方は大丈夫なの?」

「すごく疲れてますが大丈夫です」


 疲れてるのは《中華人草》の養分にされてたからだと思う。ともかく、除菌薬が効いたようで良かった。


「《中華人草》から栄養を取られたかもね。疲れてるならポーションでも飲むと良いわ」


 八尋にポーションを出してもらい桃火に渡す。喉が乾いていたのか、桃火はゴクゴクとポーションを飲んでいる。そういえば、寄生されてると飲食出来ない気がする。何か食べさせようかとも思ったが、夕食の時間も近いので止めておいた。


「少しは楽になった?」

「はい。ポーションってすごいですね」

「まあね」


 飲んだことがないのでなんとも言えないが、適当に相槌を打っておいた。


「じゃあ桃火、色々あって疲れてるでしょうけど、ちょっと付き合ってもらえる?」

「え? あ、はい。付き合うのは良いですけど、何処に行くんですか?」

「素材を売りに行くんだけど、まあ悪いようにはしないわ」

「……分かりました」


 桃火は〈中華人草の茸〉を見て少しの間考えていたようだったが、一応了承してくれた。桃火が〈中華人草の茸〉を欲しがってるのは分かっている。でも、今はちょっと我慢してもらおう。

 それから、組合を出て四人で『天海屋』に向かう。桃火に対してちょっとだけ罪悪感を感じ、途中の屋台で全員分の串焼きを買ってしまったけど。


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