16話 緊急依頼
骸骨兵達を何とか撃退し、魔物と遭遇することもなく登りとは別の道から下りてきた。位置的に南門の方が近いため、そっちから帰ることにする。もう一つの理由として、同じ道を通っても《中華人草》は見つからないというのもある。
もう少しで橋が見えるところまで来たが、道沿いに進むと途中で森を通ることになる。盛り上がっているようにも見える森は怪しい雰囲気満載だ。
「今度は森ね……。怪しいわ」
「まあ、避けて通ると遠回りになるし、気を付ければ大丈夫じゃないかな?」
「それもそうだけど、油断は禁物よ」
森に差し掛かったところで、キラリと光るものが道に落ちている。遠くからではよく分からない。近付いてみると抜身の短剣が落ちていた。短剣の周囲をみると争った形跡があり、誰かが落としたのは間違いない。
『どう思う?』
『何かあったのは間違いないわね。こういうのは八尋に任せた方が良いわよ』
そういえば、探索や捜索といったことは、八尋の方が得意だったと記憶がある。
「八尋、何か分からない?」
「う~ん? 争った形跡だけじゃ、情報不足でよく分からないや。でも、少なくとも三、四人はいたと思う」
「それだけじゃどうにも出来ないわね。とりあえず短剣は持ち帰って、組合で聞いてみましょう。こんな所に来るのは、冒険者か依頼を受けた人くらいでしょ」
「そうだね。でも、美奈なら森を捜索するとか無茶なことを言うんじゃないかな?」
「流石に、短剣が落ちてたくらいで、そこまで言わないでしょ。今のところ、特に何も言ってないしね」
「甘い。無茶なことばっかり言うのが美奈なんだよ」
八尋は相当無茶ぶりされていたと思われる。こういうのは、本人は覚えていないことが多い。現に記憶を探っても思い出せないし。
『八尋はああ言ってるけど?』
『今回は止めておくわ』
八尋の言うことが正しかったらしい。危ないところだった。
短剣を拾い調べてみると、柄に花柄の装飾がされている。素人仕事だという事が見て分かった。装飾自体は珍しくもないが、多少の手掛かりにはなるだろう。短剣は八尋に預け、警戒しつつ森を通り過ぎた。何事も無く橋まで到着する。行きと同じようにして橋を渡り、南門に向かう。しばらく歩いて南門に着くと、短剣を見せながら守衛に聞いてみた。
「すみません、短剣を拾ったのですが、持ってた人覚えてませんか?」
「うん? 通ったのかもしれないが、分からないな。すまんね」
「そうですか。ありがとうございました」
守衛に通行料を払い街に入った。組合に行く前に〈骸骨兵の骨〉の納品を済ませる。〈骸骨の骨〉二十個とついでに〈骸骨兵の骨〉を一個五百で売る。銀貨三枚の収入だったが、元は全く取れてない。
元が取れないのはしょうがないと思いながら組合に着くと、受付で何か揉めている。何だろうか? 様子を眺めていると、十二、三歳くらいの少女が頻りに「お願いします」と頭を下げている。そして、今朝会った受付の人が、困った表情で断っていた。
『どうしようか?』
『気になるから行ってみて』
『はいはい』
僕も気になっていたし、素通りするのもどうかと思う。
「どうかしたんですか?」
受付の人に尋ねると、僕を見てホッとした表情をした。
「ああ、良かった。すみませんが、こちらの方の話を聞いていただけませんか?」
組合員でもない僕達にどうして? と疑問に思っていると、表情を察したのか、
「今朝言ったとおり、冒険者が全て出払っていまして、申し訳ありませんがお願いできませんか?」
と理由を説明してきた。そういえば、冒険者全員《迷宮》に行くとか言ってたな。特に断る理由もない。
「分かりました。出来る事であれば良いですが」
少女に向き直り話を促そうと口を開く前に、少女が言葉を発した。
「お願いします! 兄さんを、兄さんを助けて下さい!」
少女の勢いに少したじろいだ後、気持ちを落ち着かせるように言い話を促した。
「兄さんが魔物の素材を取りに行ったきり帰って来ません。昼までには帰ってくると言っていたんですが……」
「どんな魔物の素材なの?」
「〈中華人草の茸〉です。居場所を見つけたと言ってました」
「山の方まで行ったけど出会わなかったわね。何処に居るか分かる?」
少女は首を横に振る。
「兄さんは教えてくれませんでした。なので、何処に居るかは……」
少女は最後まで言葉を紡ぐことが出来ず俯いてしまった。何の手掛かりもないんじゃ探しようがない。僕は頭を悩ませ、何か手掛かりを得ようと少女に兄のことを聞いてみる。
「お兄さんの特徴を聞いても良いかしら? 外見とか聞いておかないと探しようが無いしね」
「特にこれといった特徴は……。黒髪でわたしより少し背が高いくらいしか……」
八尋と少女が同じくらいの身長だから、僕よりは低いのか。でも、これだけの情報では探せない。
「他には何か無いの?」
「他に……。そういえば兄さんが使っている短剣の柄には、私が細工をした装飾があります」
短剣と聞いて心に引っかかるものがある。
「どんな装飾なの?」
「はい、花柄の……」
みなまで聞かず八尋を見た。八尋と目が合う。八尋が荷物から短剣を取り出し少女に見せる。
「もしかして、これじゃないの?」
八尋が言うと、少女が目を皿のようにして驚く。
「こ、これ兄さんのです! 何処でこれを!?」
八尋と見つめ合い、やっぱりという感じでお互いに頷く。こうなると、一刻も早くあの場所に行かなければならない。『急ぐのよ!』と、美奈も言ってるし行かない訳にはいかない。
「お兄さんの居場所が分かったわ。早速行ってくるわね」
「あ、あの報酬は……」
「それは、お兄さんを助けてからゆっくり聞く。今は一刻を争うわ。八尋、急ぐわよ」
「はぁ……。話を聞いたからにはほっとけないよね。じゃあ、チャチャッと行ってくるかな」
八尋はやれやれといった感じで言うと、僕に続いて走りだす。目指すはあの森。
少女の兄は無事だろうか、出来る限りの早さで森へと向かった。