表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/60

11話 話し合い

 お風呂での至福の時間を終え脱衣所を出た。隣には湯上がり美人。目には上気したうなじ、石鹸の良い香りが鼻孔をくすぐる。抱きしめたい衝動に駆られたが何とか堪えた。

 秋は美人でスタイルも良く、おまけにお嬢様で非の打ち所がない。しかし、友人と呼べるものがいないという。まあ、友人になったことだし、これから親密になっていこうと思う。秋は二十歳ということもあり、歳も近いので問題はないだろう。


「秋、それじゃあおやすみなさい」

「美奈、おやすみなさい」


 秋と別れて客間に戻ってきた。

 仕切りがされて布団が一組敷いてある。もう一組は仕切りの向こう側だろう。


「八尋、お風呂入って来て良いよ」

「うん。わかった、入ってくるよ」


 八尋はお風呂に入るため客間を出て行く。

 僕は寝転がり、美奈と今後の事を話し合う事にした。


『とりあえず、東京に着くまでは何も出来ないと思うけど、これからどうしようか?』

『そうね、明後日まで時間があるし、実戦経験を積んだほうが良いわ。という訳で明日は魔物狩りよ』

『だね。今日の戦闘で魔物の恐ろしさを思い知ったしね。それで、どんな魔物を狩るの?』

『組合に行ってみないと分からないけど、依頼の内容次第かしらね。お金も稼げば一石二鳥になるし』

『強いのは勘弁してよ』

『あんまり弱いと意味ないんだけど』


 美奈はスパルタだから安心できない。強そうな魔物の依頼が無いように祈ろう。

 後は東京に着いてからどうするか決めとこうかな。


『美奈、東京に着いたらやることが色々あるけど、どれからやる?』

『着いたらまず、冒険者登録かしらね。組合員じゃないと書庫が使えない気がするわ』

『まあ、そうだろうね』


 希少な文献があるということだし、一般開放されているとは思えない。


『じゃあ、【取り替え子】について調べるのは登録した後だね』

『ここまで来たら調べるのは、落ち着いてからでも良いけど。今日は色々(・・)とあったし、焦る必要もないわ』


 急に美奈の声が殺気を孕む。あまりの突然の出来事に背筋が凍りつく。美奈がキレているのは風呂場での一件だろうな。


『ごめんなさい』

『済んだことはもう良いわ。ただ、私が恥ずかしくって死にたくなったのは、覚えておくことね。次は許さないわよ』

『はい』


 最後通告か、次は無さそうだし気を付けよう。まあ、今日以上のことはもう無いでしょ。


『そういえば、八尋にはいつ話をする?』

『変だと思っているような気もするし、早いほうが良いかもね。八尋がお風呂から上がったらで良いんじゃない? 任せるわ』

『やっぱり八尋は気付いてるのかな?』

『確信は無いでしょうけど、何となく気付いていると思うわ』

『そうなると、問題はどう話を切り出すか、か……』


 どう話をしようか考えていると、八尋がお風呂から戻ってきた。


「おかえり、お風呂気持ち良かったでしょ?」

「いや~広いお風呂でびっくりしたけど、さっぱり出来て気持ち良かったよ」

「一人だから泳いだりしたんじゃないの?」

「いや、泳がないからね」


 冷静に返された。冗談で言っただけなのに。

 八尋にどう話を切り出すかまだ思いつかないので、明日の予定から話すことにした。


「ねえ、明日暇になったから、魔物を狩りに行こうと思うんだけど、どうかな?」

「明日暇なら冒険者の登録をしても良いんじゃない?」

「あ、そういえばそうね」


 言われてみれば、一日あるなら登録できそうだ。美奈に確認したら『良いんじゃない』と言ってたし、予定を変更することにした。


「じゃあ、明日は登録の試験を受けるってことで良いわね」

「りょーかい」


 明日の予定も決まったので、後は八尋に打ち明けるだけだが、正直なんて言って良いか分からない。


「…………」

「……何か言いたいことがあるんじゃない?」


 言い淀んでいると、八尋から図星を突かれた。僕は観念して話し始める。


「ある……けど、信じてもらえるかどうか」

「信じるか信じないかは、話してくれないと分からないよ」

「分かった、話すね」


 八尋に美奈と入れ替わった経緯と、僕の事を一部を隠して話した。


「何となく様子が可怪しいとは思っていたけど、【取り替え子】の事は聞いたことがあったし信じるよ。それで、美奈はどうしてるの?」

「傍にいて「あんたの所為なんだから、責任取って協力しなさい!」って言ってるよ」

「アハハ、美奈らしいね。元気みたいで良かった」

「元気すぎて地獄の特訓させられたり、怒られてばっかりで大変なんだけど」

「まあ、それはしょうがないね。オイラもしょっちゅう怒られてたしね。あ、という事は、もう殴られないで済むのか、これは良いや」


 八尋は殴られないことを喜んでいるが、そう甘くはないと思い知ることになるだろう。僕の体が勝手に動き、八尋の頭を殴るとパッカーン! と良い音がした。


「あ痛! いきなり何するんだよ!」

「ごめん、言ってなかったけど、ちょっとの間なら美奈が身体を操れるんだ」

「確かに今の殴り方は美奈そっくりだったけど、それはもっと早く言って欲しかったよ」


 八尋は涙目になりながら、頭を抑えていた。やり過ぎじゃないの? と美奈に尋ねたが、『いい気味よ』と言ったのでそれ以上追求しないことにした。

 秘密を話したことで気が楽になったが、まだ言っていない事もあるので後ろめたい気もする。


『ねえ、「男」だって事は言わなくていいの?』

『美奈が良いなら言ってもいいけど、おしっこする所と裸を見たって言う事になるよ』

『ダメー! それは言わないで!』

『でしょ?』


 僕が八尋の立場だったら、美奈の中身が「男」だって言われたら嫌だろうなと思う。バレたらしょうがないけど、こちらからあえていう必要はないな。

 まあ、それは置いとくとして、八尋には美奈の事で聞きたいことがある。


「ちょっと聞きたいんだけど、美奈ってどういう娘なの?」

「う~ん? 一言で言うと美奈って何も考えてないよ。後先考え無いから、付き合う方は大変」

「あー、それは今日一日で何となく分かった」


 八尋は相当苦労していたようだ。話してる顔が老けて見えるのは気のせいだろうか。


「でも、憎めないから何だかんだで付き合っちゃうんだよね」

「そうなんだ」


 そういえば、色々言われたけど別に嫌な気はしなかった。僕が困らない様に特訓してくれたのが分かったし、意外な事にからかうと面白いしね。僕も美奈のことは憎めそうに無いや。でも、ついからかっちゃうな。


『良かったね。八尋から嫌われて無くて』

『そ、そんなこと、言われなくても知ってるわよ!』

『はいはい』


 まあ、からかうのはこのくらいにして、そろそろ話を締めないと。結構長い時間話をしていたので、段々と眠くなってきた。


「じゃあ、八尋そういうことだから、よろしくね」

「うん。こちらこそよろしく」


 初めての魔物との戦いで疲れていたのか、物凄く眠い。もう、耐えられそうにない。


「もうダメ、眠い……。おやすみ……」

「ちょっと、こんなところで寝ないで布団で寝て!」

「もう動けない……。布団持ってきて……」

「持ってくるから、まだ寝ないでよ!」


 八尋が持ってきてくれた布団に入ると、すぐに深い眠りに落ちた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ