10話 お風呂
脱衣所は六畳ほどある。やっぱりここも広かった。この屋敷の広さにはもう驚かない。
僕がウキウキしている一方で、機嫌の悪い人がいた。美奈だ。
『何をウキウキしているのよ。絶対見ちゃだめよ。目を瞑りなさい』
美奈は怖いけど、ここは譲ることが出来ない。
『えー、それは無理でしょ。美奈は目を瞑ってお風呂に入れるの?』
『出来るわ! だから渚も出来るわよ!』
『はいはい、分かったから。努力はしてみるよ』
多分無理だと思うけどね。
一応目を瞑り、白のブラウスと黒のスラックスを脱ぎ、用意された脱衣かごの中に入れていく。しかし、困ったことにブラの外し方が分からない。
『ブラってどうやって外すの?』
『……後ろについているホックを、摘むように外すのよ』
言われた通りにホックを摘むと、あっさり外すことが出来た。こうやって外すのかと少し感動した。白のショーツを脱ぎ、手拭いで前を隠して目を開けた。
『一応見てないよ』
『まあ、このくらいはしょうがないわね』
浴室には三、四人並べる洗い場があり、明らかに多人数で入るようになっていた。浴槽も三、四人は手足を伸ばせる広さだし、流石、豪邸って感じがする。一人で使うには広すぎるけどね。
身体を洗うために洗い場に座ったが、美奈がここに来て無茶を言い始めた。
『身体を洗うなら、絶~~対触らないで!』
『無茶なこと言わないでよ。触らないでどうやって洗うのさ?』
『何か考えて』
『はいはい』
美奈にはそろそろ諦めてもらわないといけない気がする。直接触らなければいいかと考え、手拭いで洗うことにした。手拭いで洗うと色々見えるけど、これは不可抗力だろう。美奈も文句は言ってなかったし、大丈夫だ。
手拭いで身体を洗っていると、誰かが浴室に入って来た。ふり返ると手拭いで前を隠した秋津さんが立っている。秋津さんの一部分を見て、思わずカッと見開いてしまう。
手拭いからはみ出ている!!
秋津さんの巨大な二つの塊は、手拭いで隠しきれずはみ出ていた。大きいと思ってはいたけど、これほどとは。
「美奈さんお背中を流させて下さい」
「あ、うん、どうぞ」
意識が集中しすぎた所為か、適当に返事をしていた。
『渚、見過ぎ。確かに大きいけど……』
『ごめん。目が離せなかった』
美奈はそこまで強く注意をして来なかった。見てしまうのは、しょうがないということか。
秋津さんが僕の側までやって来た。
「あんまり、見ないで下さい。恥ずかしいです」
「あ、ごめんなさい」
凝視していたのを咎められ、秋津さんに背中を向けた。手拭いを渡し背中を洗ってもらう。力加減もちょうど良い。他人に洗ってもらうのがこんなに気持ちいいとは、正直、毎日洗ってもらいたい。僕が触っていないので、美奈は願ったり叶ったりだろう。
「終わりました。ついでですから頭も洗いますね」
秋津さんはそう言うと頭も洗い始めた。後頭部辺りに、巨大なものが揺れている気配を感じる。やばい、物凄く振り向きたい!
『絶対ダメ! 振り向いたら許さないわよ』
『ちょっとだけでも』
『ちょっとでもダメ!』
美奈にダメ出しを食らってしまった。何か良い方法はないだろうか。
そうだ! 振り向けないなら前に来てもらおう。
「秋津さん、前からの方が洗いやすいんじゃないかしら?」
「そうでしょうか? では、試しに洗ってみますね」
そうして、秋津さんは前に移動し頭を洗い始める。
拳を握りしめ、僕は内心ほくそ笑む。一方、美奈は呆れて物が言えないようだ。
秋津さんが動くたび、たゆんと揺れるものが目の前にある。流石にずっと見ているわけにもいかずチラ見する程度に抑えたが、圧倒的な存在感に興奮を覚えずに入られない。正に凶器。理性が破壊されそうだ。美奈が何かを言っているが、全く頭に入ってこない。本能のまま目の前の豊満に手を伸ばす。だがしかし、掴む寸前頭からお湯を掛けられ、理性を取り戻した。
「終わりました。ん? この手は……」
気付いてなかったのか、秋津さんは伸ばされた手を見てキョトンとしている。絶体絶命。大ピンチ。とっさの言い訳が口をついて出る。
「ごめんなさい。大きくて柔らかそうだから、羨ましくてつい……」
『それは私のが小さいってことかしら?』
怒気をはらんだ美奈の言葉は無視した。今はこの場を切り抜けることだけ考える。切り抜けられれば、後は野となれ山となれ。
「美奈さんだって大きいと思いますよ。形も綺麗ですし、私の方が羨ましいくらいです」
秋津さんは恥ずかしいのか、両腕で胸を隠しながらそう言った。確かにチラッと見た美奈の胸は、形と大きさのバランスは素晴らしいと思う。ただ、迫力という点で完全に負けていた。
美奈の抗議の声が聞こえるがここもスルーだ。
「ありがと。それなら、ちょっと触ってみる?」
「え? 良いんですか?」
「良いよ。そのかわり私も触っても良い?」
「……ちょっとだけなら」
何とか切り抜け、ピンチをチャンスに変えた。触りやすように胸を突き出す。秋津さんの手が優しく触ってくる。他人から触られる感触はこんなものなのか。物凄くくすぐったい。何とか堪えて、目の前の豊満な膨らみをそっと触る。触った瞬間ズッシリと重みを感じた。
何これヤバイ! デカイ! 柔い! 吸い付く!
色んな感覚が頭を駆け巡る。興奮で脳が沸騰しそうだ。これ以上触ると歯止めが効かなくなる。理性を総動員して手を離す。やはり凶器。離すのがもう少し遅れたらどうなるか分からなかった。
「満足したわ。ありがとう、秋津さん」
「はあ? 満足されたなら良かったです」
「大きいって素晴らしいのね」
「そうでしょうか? 良い事なんて無い気がしますけど」
秋津さんは大きい事で嫌なことがあったように感じる。
「私は羨ましいけどね。何があったのか分からないけど、小さくはならないんだし、自信持ったほうが良いと思うわ」
「……そうなんでしょうか?」
「うん」
「分かりました。これからは自信持ってみますね」
秋津さんが自信を持ってくれて何よりです。
『何が「何よりです」なのよ。人の身体で勝手なことしないで!』
『お風呂何だからしょうがないでしょ。裸の付き合いってやつだよ』
『うるさーい! 言い訳するなー!』
美奈は相当お冠の様だ。落ち着くまで、しばらく放っておこう。
「秋津さん、お返しに背中を流してあげる」
「え? そんな悪いですよ」
「良いから良いから。遠慮しないで座って」
遠慮する秋津さんをよそに、背中を流し始めた。しかし、手は動かしているものの、白い背中と腰のくびれに目が離せない。余分な肉が付いていないので、何かやっているのかもしれないな。
「ハイ終わり。頭も洗ってあげたいけど、どう洗っていいのか分からないわ」
背中を流し終えたが、長い髪をどう洗うのか、さっぱり分からない。なので、最初から洗わない事にした。
「大丈夫ですよ。後は自分で洗います」
「ごめんなさい」
身体を洗い終えたので、湯船に浸かる。当たり前だが、手拭いで隠すことはしない。秋津さんが居るので目も瞑れないし、全身隈無く見えてしまっていた。ここまで来たら美奈も諦めるだろう。湯船で手足を伸ばして寝転がり、秋津さんの様子を眺める。洗い場には髪を洗う美女一人。うん、眼福、眼福、素晴らしいです。こんな役得があると、このまま美奈の身体で良いかなと思えてしまう。不思議だ。
『他のことはもう諦めたけど、このままの私の身体で良いってのは許さないわよ!』
『あー、ごめん。流石に、その考えはダメだね。元に戻る方法はちゃんと探すから』
『約束よ!』
美奈にはああ言ったけど、東京に着くまでは手掛かりもないし、このままなんだけどね。いつ元に戻れるか分からないし、しばらくこの状態を楽しんでおくことにした。
眺めていると、髪を洗い終えた秋津さんが湯船に浸かる。湯に浸かる姿が色っぽい。思わず見とれてしまった。
「ふぅ、気持ちいい……」
「確かに気持ち良いわね。こんなお風呂に入れるなんて思っていなかったわ。ありがとね」
「いえ、お風呂くらいでお礼なんて言わないで下さい。命を助けられたのですし、このくらいでは足りないくらいです」
「助けたのは偶然なんだけどね。強いて言うなら、秋津さんの運が良かったって事だと思うわ。十分なお礼をしてもらっているし、そんなに気にしなくて良いのよ」
「でも、それでは……」
そんなに気にしなくても良いと思うんだけどな。さて、どうしようか。
「じゃあ、個人的なお願いを聞いてもらっても良い?」
「はい、何でしょうか」
「友達になってもらえないかしら? 東京には知り合いも居ないし、色々と相談に乗って欲しいの」
「そんなお願いなら喜んで」
「良かった。それじゃあ、これからは美奈って呼んで。秋津さんを何て呼んだら良い?」
「秋で良いですよ、美奈」
「秋、これからよろしくね」
「はい、こちらこそ」
秋と友達になれたことは単純に嬉しかった。美奈と八尋以外の人間で、この世界で初めての友達。心が暖まる。
『私達は友達じゃないのね』
『う~ん? 美奈達はどっちかといえば、家族みたいなものなんだよね。小さい時からの記憶もあるし、友達っていう感じじゃないんだ』
『ふん! そんなこと言っても、裸を見た事は許さないんだからね』
また怒らせちゃったか。美奈には嘘が付けないし、思ったことをそのまま言ったんだけど。まあ、許してもらえないのはしょうがないかな。
しばらくの間お湯を楽しむ。
「ふふ……」
ふと笑い声がしたので秋を見ると、いかにも嬉しそうな表情をしている。
「秋、何か嬉しい事があったの?」
「ええ、美奈と友達になれたことが嬉しくて、つい声が出てしまいました」
「秋も嬉しかったのね。同じだわ」
「美奈も同じだったんですね。私、仕事が忙しいのもあって友達がいなかったんです」
「秋なら一杯友達がいそうな気もするんだけど」
「学生の時に言い寄ってくる男の人はいましたけど、女性には嫌われていたみたいで……」
何となく理由はわかるけど。
『美人でスタイルが良くてお金持ちなら、嫉妬するんじゃない。私はそういうの嫌いだけどね』
『美奈はそうかもしれないね』
美奈がそういうことされたら、力で解決しそうだけどな。
「あれね、昔のことは良いじゃない」
「そうですね」
まあ、秋が嬉しそうなので、友達になったのは良かったかな。お風呂の間、色んな事を話し秋との友情を深めあう。
お風呂は最高だ。
大変だった上に予定より文字数多いという。