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9話 天海邸

 秋津さんの案内で、夕方まで街を見て回る。屋台で買い食いをしながら、商店街を回ったりして結構楽しめた。


 夕方まで時間を潰し、僕達は天海邸の前に来ていた。近くで見ると凝った造りの屋敷なのが分かり、立派すぎて入るのに躊躇してしまう。


「ようこそいらっしゃいました。娘を助けていただき有難うございます。さあ、どうぞお上がり下さい」


 中年の女性が頭を下げ、中に入る様に勧められた。女性は秋津さんの母親で『天海 夏愛(あまみ なつめ)』さん。僕達は挨拶を交わし、応接間に通された。


「しばらくしましたら、主人が帰宅します。それまではこちらでお待ち下さい」


 そう言って、夏愛さんは出て行った。色々と準備があるんだろう。

 広い応接間が何となく落ち着かないので、出されたお茶を飲んで気を落ち着ける。


「美奈さん、こちらが護衛の報酬です。受け取って下さい」


 そう言って、秋津さんがずっしり詰まった重そうな布袋をテーブルに置く。多分、お金だと思うけど、それにしては多いなと思う。


「護衛の報酬にしては、多すぎる気がするわ。実際、護衛の仕事って大した事していないし、泊めてもらうだけで十分な気もするんだけど」

「これは正当な報酬ですよ。ぜひ受け取って下さい」


 秋津さんの有無を言わさずの迫力に、どうしようかと考え込む。


『せっかくだし、貰っとけば良いじゃない』

『そういうものなの?』

『そういうものよ。渚がどうしても受け取りたくないなら、しょうがないけどね。受け取らないなら、何か代案がないと失礼かな。例えば、報酬で毛皮の加工を頼むとか』

『あ、それ良いね』


 毛皮が結構な荷物になっていたので、早めにどうにかしたいと思っていた。美奈の案を採用しよう。


「そこまで言われるなら受け取るわ。でも、ちょっと頼みたいことがあるんだけど良いかしら?」

「はい、何でしょうか?」

「この報酬で毛皮の加工を頼みたいの。出来るかしら?」

「加工ですか? 分かりました。受け取りの方法は、後でお知らせしますね」

「お願いね。八尋もそれで良い?」


 一応、八尋に確認してみる。


「良いんじゃない。オイラは別に言うこと無いよ」


 八尋から言質も取ったので、毛皮は秋津さんに任せることになった。毛皮を秋津さんに渡していると、元春さんが応接間に入って来た。


「やあ、お待たせしましたかな。お腹も空いたでしょうから、早速食事にしましょうか」


 食堂に移動し夕食が始まった。豪勢な料理に舌鼓をうつ。ある程度食事も進み、一頻りお腹も膨れたところで、元春さんが話題を振ってきた。


「美奈さんは、十六夜道場の娘さんなんだろう?」

「はい、そうですけど」

「やはりそうかね。それなら実力があるのも頷ける。そこで、相談なんだが良いかね?」

「どんな事でしょうか?」

「美奈さん達が東京に行くのは聞いた。そこでだ、東京に着くまでの間、秋津の護衛を頼みたいのだが、引き受けてくれんかね?」

「引き受けるのは構いませんが、出発はいつになるんでしょうか? でも、実力がある人は他にもいるんじゃないですか?」


 他に冒険者はいるだろうに、何故僕達に頼むのだろうか?


「出発は早くても明後日になるだろう。美奈さん達に護衛を頼むのには訳がある。街の冒険者は、街道の魔物が増えて討伐で忙しいらしくてね。東京まで護衛をしてくれる冒険者がいないんだよ。特に女性の冒険者がね」

「ああ、そういうことですか」

「そこでだ、街道も何かと危険だということで、秋津には東京の店舗に常駐してもらうことにした」

「お父様! そんな話は聞いていません」


 初耳なのか秋津さんは驚いた表情だ。


「そろそろ行商も慣れてきただろうから、常駐してもらおうかと思ってたんだよ。そんな矢先に今日の出来事だ。儂達は、秋津の身に何かあったら心配なんだよ」

「それは……」

「それにな、美奈さん達が東京に行くと聞いて、これはと思ったんだよ。美奈さん達が一緒なら大丈夫なんじゃないか、とね」


 そこまで信頼されても困るな、僕は苦笑いを浮かべ話を聞いていた。


「うん、美奈さん達と一緒なら大丈夫かも……」

「そうだろう、そうだろう」


 僕達を置き去りにして、二人だけでドンドン決まっていく。まあ、良いけど。

 話が纏まったところで夕食を終え、客間に案内される。客間は二十四畳もあり、かなり広い。逆に広すぎて落ち着かないけど。

 そういえば食事中の話合いで、今後の予定が決まった。出発は明後日で、出発まで天海邸に泊まって良いということだ。日程的には、馬車で移動する分早く着くらしい。報酬をもらって楽ができるなんて、僕達にはメリットしか無い依頼なので有り難く受けた。


 しばらくして、秋津さんが僕達が居る客間にやって来る。


「美奈さん、お先にお風呂どうぞ」


 待望のお風呂の時間がやって来た。返り血を浴びて身体がベトベトしていたので、早くお風呂に入りたい。僕は着替えを持って、ウキウキした気分で風呂場へ向かった。


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