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朽ちた思い出

作者: 比紗由

 廃墟を歩くのが趣味だ。

 誰かにそう言うと、大抵の場合変な顔をされるので、この頃は趣味の話をしなくなったんだ。

 本当は、語りたくて仕方がなくてね。

 君は聞いてくれるのか?

 嬉しいね、だけど実は、君なら聞いてくれると思ったよ。

 

 廃墟の素晴らしさを知ったのは、いつの事だったか……。そうだ、あれは俺がまだ小学生か……ひょっとしたら幼稚園児だったかもしれない。

 のどかに流れる川の、緑あふれる土手の上だ。土手の上には小さな祠のある林があった。

 どうしてそこに行ったのか、それは覚えていない。祠から続く小道の奥に、その廃墟はあった。

 俺はそのときひとりだった。遠くからは友達の遊ぶ声が聞こえた気がする。ということは、遠足の時でもあったのかもしれないな。

 木漏れ日にゆれる廃墟は、静かに俺の前にあった。壁はトタンでできていた。扉は蝶つがいが外れていてキイキイと音をたてていた。

 俺はその中に入りたくて仕方なかった。扉が俺を誘っているように感じた。

 中は荒れ放題で、草が生い茂っていた。足元でかさりと音がして、その時は少し驚いた。棒きれを拾って足元を探ると、蛇の抜け殻が出てきた。かさかさに乾いていた抜け殻は、棒で持ち上げると体の途中で切れて草の上に落ちた。

 あのときのことを今まで思い出しもしなかったくせに、こうして記憶を探ると、色鮮やかによみがえるから不思議だ。君が楽しそうに聞いてくれるからかもしれない。

 俺はどんどん廃墟の奥に入っていった。そこは工場でもあったのだろうか、金槌や名前も分からない工具が朽ちかけた木箱に積んであった。

 今思えば、あんな不便なところに工場作るなんて変な話だとも思う。とにかく俺は、その廃墟を工場だと思い込んだ。

 奥には階段があった。二階にじゃないさ、地下に降りていたんだ。

 地下には何があったとおもう? こんなものは、いくつもの廃墟を巡っても見つけられなかったが。

 ……君はすごいね、当たりだよ。そう牢屋があったのさ。

 牢の扉は閉じていてね、頑丈そうな鉄格子が一部歪んでいた。

 俺はそこから牢に入った。

 中には何があったっけ……割れた姿見、欠けた茶碗。漢字の混じった手紙は、残念ながら当時の俺には読めなかったが。

 写真はなかったかって?

 そうだ、モノクロの写真があったよ。そうだそうだ、俺はあの写真をなんで置いてきたかと後悔したんだった。

 若い女がうつっていたよ、カラーじゃないのが残念なくらいだった。今思えば、俺の初恋かもしれない。

 大きな瞳をしていた、吸い込まれそうな。


 そう、君の瞳のようにね。

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