虎穴に入ったら虎児を得るどころではなかった
俺は震えている。
寒いからではない、怯えているのだ。
虎の子は高く売れるからと、チュンザンの山奥にある洞穴に単身で潜り込んだ俺の判断は間違っていた。本当に愚かな事をしたと思っても、最早遅い。
持ってきた散弾銃には十分に玉は入っている。しかし、使うことはできない。動くことが出来ないからだ。あまりの恐怖に、足は立って体を支えることを忘れてしまっている。
洞窟の主である大きな白虎は、猛々しく吠える。
まるで、空に光る月を食べてしまうかのように。
おお月よ、お前だけは逃げてくれ。俺はもうすぐ奴の餌になることだろう。
さあ、早く、空の彼方に逃げておくれ。