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だいハチわ★犬も歩けば棒に当たれば、急いで回って転ぶ時もある!

「それでは。返答を聴かせて戴きましょうか」


 さっきまでのノホホンとした空気から一辺して急に冷めた口調に変わる。どうやら向こうもこれ以上無駄話をする気はないらしい。

 俺はほんの数時間前にクソガキ達との打ち合わせを思い出す。




『よいか。貴様に良い事を教えておいてやる』


 メイルさんには魔力の余裕がまだ多少は残ってるという話を聞いて(それでも、全く無いクソガキよりはマシという程度らしい)(ちなみに最初に無いような事を言っていたのはクソガキに気を遣っていたと本人は弁解している)クソガキが散々愚痴を呟いた後。

 メイルさんに今度一緒に寝てもらう約束を取り付けて機嫌が直ったクソガキが開口一番に俺に言った。


『ア奴ら天使というのは、大抵は人間に良い顔をしたがる』


『へぇー、いいんじゃーの。天使って優しいイメージだし』


『貴様ら人間の事を神の大事にするペットかなんかだとでも思っておるのだろう』


『…………』


 あ、そっちっスか。そうゆー認識っスか。

 クソガキは悪魔で天使をよく思ってないにしても、そういう表現で聞かされると複雑な心情にさせられる。だってペットだよ? ペットってなんだよ。


『と、いうのは冗談でだ』


『うぉおい! さっきからの流れからしてどうでもいい情報にどうでもいい冗談挟む時間的余裕って俺らにありましたっけ!?』


 自然に右手をピンと張ってツッコミの形をとっていた。

 それを見て二人共「何やってんのコイツ?」みたいな目で一瞬俺を見て直ぐにいつも通りの表情に戻った。

 ゴメン読者のみんな。最終局面行く前に俺絶命するわ。ブロウクンハートで再起不能になるわ。


『まぁそう声を荒げるでない。冗談と言ったが、ア奴らが人間共にぬるいのは確かだ。そしてそこに今回の打開策はあると~、儂は見た!』


 ビシッと俺に人さし指をして言い放つクソガキ。「流石です」と、メイルさんがパチパチ横でやってるが、なんていうかこう……クソガキの見た目故の頼り無さが全面に出てて俺は嫌な予感しかしないのだった。




『よいか。ア奴らは人間には基本的に危害は加えん。その習性を利用する。ん? 別にあんな奴らの性格なぞ習性で構わん! いちいち貴様は人の話の腰を折るの! ……続けるぞ。そこでだ。貴様があの天使に体当たりをかまして本をブン盗るのだ!』

 凄く、テキトーです。(ゴクリ)

 もの凄いアバウトな説明をされ、その俺の後ろをクソガキが付いていき、メイルさんが緊急要員で控えるという、どこのジェトス○リームア○ックだよと言わんばかりの至極単純なものだった。

 クソガキの話だと本命は二番手のクソガキが隙を見極めて本を奪うことらしいが、勿論全員本気で取りに行くべしと、なんか言い方だけは指揮官らしいがその実しょうもない事この上ない作戦で決定した。

 どちらにしろ俺も良い案が思いつかないし、夕方の時もエリナーセは俺よりもクソガキに敵意を向けていたという余りにも不確定な感覚に神頼みするしかなかった。相手は天使だし上司の神様に頼んどけば大丈夫……なはず。

 このまま何もしないよりかはマシだ。それにこのまま何もしなくてもクソガキの自然消滅は確定している訳だし、最後の悪あがきというわけだ。

 と、俺は考えていた。天使だと言うエリナーセが「消します」と俺とクソガキに言った時の目は本気だったような気がする。その時になれば俺には何の慈悲もくれずにクソガキを消滅させられ俺も死ぬんだろうというのがなんとなく察せた。

 いざこういう場面に迫られるとなんだか覚悟みたいなのが嫌でも固まるらしい。今更自分でも気付かなかったような自分の一面に少し励まされる思いだった。

 が、もう後戻りは出来ない。「もう」というか最初から出来なかった気がするけど。

 目の前には返答を待つエリナーセ。横にはできるだけ警戒させないように突っ立っているだけだが、恐らく既に準備万端なクソガキ。

 俺は意を決して走り出した。目指すはエリナーセのおっぱ……アイツが持っている本≪小さき鍵≫だ!


「!?」


 突然走り出した俺に警戒したエリナーセは本を持った左手を後ろに回し、空いているもう片方の腕を軽く横に振る。

 俺は慌てて急ブレーキを掛けて止まった。


「うえぇ?」


「何をしておる!」


 すかさず後ろからクソガキの怒声が飛んでくる。

 何って見りゃ解かんだろ! 止まったんだよ!


「だっていきなりあの人が手を振ったし! なんか怖いだろ!」


「貴様はアホか! ア奴ら天使がそうそう人間に手を出さない事くらい教えてやったろう! 理解力の乏しい奴め!」


「だって天使だぜ!? ぶっちゃけあんなファンタジー全開の相手に突っ込むとか怖くてできるか! あんな軽い説明だけではいそうですかって思えるか! お前は現代の日本男子高校生に何を期待してんだ!」


 突然走り出した俺が急に止まりクソガキと口喧嘩し出す。傍から見ればもう何がしたいのか解らないだろう。

 そんな俺らの様を見ていたエリナーセが何を思ったのか補足説明を挟んでくれた。


「えっと……。今のわたくしの行為は決して貴方を害する類のものではありませんよ。そんなに怖れずとも問題はありません」


「えっ!?」


「ほーらみろ。だからさっさと突っ込めばよかったのだ」


「今の行為は、神聖気というものを展開しただけですので人の子である貴方が気に病む事はありません。ご安心を」


「分かったらさっさと走れこのグズが!」


 ぐおぉぉぉ、なんだこれはぁぁぁ。

 優しさと厳しさに挟まれてもみくちゃにされてるぅぅぅ。


「……もう帰って寝たい」


 なんだか今のやり取りで緊張の糸が切れたのと、不安からの不眠が祟って思わずその場に膝をついてしまった。

 そんな俺を見下ろしながらクソガキがイライラと喚く。


「ええい! 立て! 輪太郎! ここで立たねば貴様に明日あすは無いぞ! 貴様はこんなところで死んでも良いのか! 『バキューン』のまま逝ってもよいのか!?」


 はっ! そうだった!

 俺にはまだヤリ残した事がある!

 こんなところで、志半ばで逝けない……、いや、イケるわけがない!


「…………(スッ)」


「ふっ、ようやくヤル気になったようではないか」


 無言で立ち上がる俺にクソガキが静かに拳を突き出す。

 俺もその突き出されたクソガキの拳に自分の拳を当てる。


「ああ。俺だってここまで来たら……ヤルしかない!」


「うむ、その意気や良し!」


 俺とクソガキは二人で再びエリナーセに向き直る。

 そこには少し顔を赤らめたエリナーセがさっきと同じ姿勢で身構えていた。


「一応教えておいて差し上げますが、神聖気を浴びた低級悪魔はそれだけで消滅しますよ」


「そんな脅しに儂が引っ掛かるとでも?」


「争いは私の本意ではありません」


「あの~、一応確認ですけど、俺は大丈夫なんですよね? そのシンセイキとかいうのは」


「はい、大丈夫ですよ。何を考えているのか図りかねますが、穏便に解決したいと私は考えておりますので無謀な事はお薦め致しませんよ」


「さっさと行け、『バキューン』が。(ボソリ)」


「うぐぅ」



 このクソガキはどっちの味方なんだよ。

 俺はクソガキへの怒りを原動力に再びエリナーセへ走り出そうと身構える。今度は本気で体当たりするつもりで!


 ドンッ。


「「「???」」」


 俺がエリナーセの方へ向きを直した直後、エリナーセが何かに押されたのか前によろめいていた。

 エリナーセが驚いた顔でこっちを見ている。信じられない、と。

 一体何が起きているのか解らないが、これは紛れも無いチャンスだろう。どう考えても悪魔とその契約者を助けてくれるのは神様ではないのだろうが、俺はこのチャンスをくれたであろう誰かに敢えてこう言わせてもらおう。神様ありがとう!

 そして俺はそのチャンスを逃すほど間抜けではないぜ!

 全速力で一気に距離を詰めて腰に抱きつくようにダイブした。

 見た目よりも動揺しているようでエリナーセは手をアタフタと空を泳がしながら2歩3歩と前によろめいてから体勢を立て直そうとしている。

 これならギリギリ間に合う!


「ひゃっ!?」


「よっしゃーーーーー!!!! おい! 捕まえたぞ! 今のうちにっ――」


 俺が飛び込んだ勢いで前によろめいていたエリナーセが今度は後ろに倒れこむ。

 渾身の力で抱きつき動けないように押さえ込む。こんな風に女に抱きつくなんて普段の俺なら鼻血でも出しそうな状態だが、今は緊張と焦りでそれどころじゃないと云う事は俺の体も理解してくれてるらしい。

 不意に後ろから短い叫び声が聞こえた。


「あっつぅ!!!!」


 は?

 俺は必死になって押さえつけてるので、首を曲げるだけでも一苦労だが、あんまり予想外の声に思わずそちらに顔が向いていた。


「神聖気熱い! 儂無理ぃ!」


 ええええええええええええええええええ!!?!!?

 ついさっき大見得切ってたクセにやっぱりアイツ神聖気効いてんじゃねーか!

 クソガキはエリナーセを抑えてる俺から3メートルくらい後ろで手を熱そうにプラプラさせている。


「ちょっ、俺これからどうすりゃいいの!?」


「がんばれ! ガッツと気合と根性だ!」


 いつの時代の熱血教師だよぉ。あとそれ全部同じような意味だからぁ!

 とにかくこうなったらガッツと気合と根性しかないのも事実だ。

 俺はエリナーセに抱きついた状態のまま背中に回した手で本を探す。翼とかその他諸々どこを触ってもフワフワとして気持ちよかったが、よかったが、今はそれ所じゃないんだよぉぉぉ!! ちくしょぉぉぉ!!


「このっ! やろぉ~~!」


 一応押さえ込んでいるのでここらか退くわけにもいかず、仕方ないのでそのままの状態で本を探すしかない。

 俺はさっきエリナーセが後ろに隠していたのを思い出し、背中の辺りを手の感触を頼りに探る。


「あっ、んっ、ちょっ、っと」

「ん、んん~~……」

「あ、やめっ、んっ……あんっ!」


「お、おうふ……」


 エリナーセがいきなりやたらと艶っぽい声を上げはじめ思わず手を止めてしまった。

 今まで意識しなかったが冷静に改めて見てみると、今俺凄い状態だな。

 エリナーセを押し倒すようにして上に乗っかり、顔をちょっと上に上げれば豊満な谷間が鼻に当たる距離、そんな状態で彼女の腰の辺りをまさぐる男の姿。


「俺が変態みたいじゃねーかっ!」


 すぐさま立ち上がり言い知れない興奮を空へと吐き出すように叫ぶ。

 まだ経験もないさくらんぼな俺にはあまりに刺激的すぎてもう本を奪うとか命が懸かってるとかそれどころじゃない!

 足元では顔を赤らめて息を乱した天使の艶姿が弱弱しく横たわってる。

 どうしてこうなった。


「うわーヒクわーマジヒクわー」


 離れたところでクソガキが半眼になって俺を見ていた。


「ち、違う。誤解だ!」


「ハァ、ハァ、やりますね、人の子よ……ハァ、油断しました」


「だから違うって言ってんだろーが!」


「逆ギレとかマジヒクわー」


 前門の天使、後門の悪魔。

 もうどうにでもしてくれ。


「ですが、これは渡せません」


 エリナーセがフラフラと立ち上がりながら呟いた。


「この本を渡してしまうと、と? あれ? え? えぇ?」


 何かを言おうとしていたが途中で何かに気付いたらしい。

 あたふたと腰の辺りをまさぐっている。


「…………」

「…………」

「…………」


 一同沈黙し一旦場が静まる。


「ふっ、私が思っていた以上に多少やるようですね。私に如何わしい行いをすると見せかけその間に≪小さき鍵≫を奪うとは、なかなかどうして小賢しい手を使いますね。ですが残念でしたね。私はそんな引っ掛けには騙されません。現にっ、こうやってっ、すぐさまっ、盗られた事にっ、気付いたのですからっ!」


 一気に捲くし立てるとエリナーセは体を横に斜めに構え、臨戦態勢に入ったようだ。

 と、言われても俺には身に覚えが無い。もちろん後ろの役立たずのクソガキも同じだろう。


「……えっと、俺は本を持ってないんですけど、もしかして……」


「ふ、ふん! そんな虚言には耳を貸しません! 私は騙せませんよ!」


 頑なに自分の過失を認めないエリナーセを前に俺はひたすら困惑するしかなかった。

 そもそも今の今まで待っていた物が無くなるっていうのも変な話だろ。ゴタゴタしてたのは確かだが、ここは神社の境内で夜明けとはいえ視界を遮るものは無い。そこ等辺に落ちてるまでは解るが、無くす訳がない。


「そ奴が持ってないと言っておるんだから素直に自分の過失を認めたらどうなのだ」


「うるさいですよ悪魔。私はさっきまで確かに持っていたのです! なのに……なのに……うっ、うっ……」


「う?」


「うわぁ~~~~~~ん!! なんで無いのぉ~~~~??」


 な、泣き出したー!

 エリナーセのさっきまでの凛とした雰囲気から一変、突然子供みたいに泣き出してしまった姿を眺めながら俺と、もちろんクソガキもなんだか苦い気持ちになってその姿を見守っていた。

 しばらく経っても全然泣き止む気配はなく、むしろ泣き出した直後より愚痴も混じっていて一層哀れみを増している。

 そんなエリナーセをどうするべきかクソガキと眺めていると、後ろで引き戸が開く音とともに誰かが出てきた。

 たしかまだ早朝でこの辺りに人が来るような事は無いはずだ。

 戸が開いたのは境内の脇にあるお守りなどを売る販売所兼宮司さんの休息所みたいな建物だったはず。

 俺が知っているここの宮司さんはあんまり真面目な人ではないから多分こんな早い時間からここに居るとは考えられない。偶然早起きしていたとかだともうどうしようも無いが、多分土曜で休日だし平日より可能性は低いだろう。

 その建物の引き戸を引いて出てきた人物を見て俺は驚きと同じくらい納得してしまった。なぜならそこから出てきたのは……、


「コラー! なーにやってんのよー!」


「え? か、カナエ!?」


 騒がしく建物から出てきたのは空雲夏苗からくも かなえだった。

 お忘れの人にも再度説明しといてやると、俺の高校の同級生であり、同じクラスの女子であり、とてつもなく残念な事だが幼少期からの腐れ縁な知り合いだ。

 そんな奴がいきなり登場したのに驚き、次いで今のこの状況を説明する上手い言い訳を必死で捻る。

 ……。

 …………。

 無理だろ!

 どう説明しろっていうんだよ!

 背中に翼が生えた女が泣いていて、頭に角が生えていて明らかに人間じゃない見た目のクソガキと、そいつらに挟まれるようにボーっと立ってる俺!

 口許が引きつるのを必死で抑えながら俺はとにかくカナエをどうにかする事を優先する事にしようと思い、急場凌ぎの言い訳をかまそうとした。


「えーっと、これには深くはないけど浅くもない理由があってだなぁー」


「エリナさんっ、大丈夫?」


「だから俺だって好きでこんな……え?」


 俺の意味不明な言い訳も聞かずにカナエは真っ直ぐエリナーセの方へと駆けていく。

 泣いているエリナーセの傍まで行くと、しゃくりあげる彼女の背中を優しく撫でながらカナエが慰めている。


「もう大丈夫よ。あんな奴の事なんか気にしなくてもいいから」


「うわ~~ん、うっ、ひっぐ、カナエ~~」


「よしよーし」


 エリナーセはカナエに抱きつき頭を撫でてもらっている。その姿からはさっきまでの近寄りがたい雰囲気はすっかり失せていた。カナエもカナエで、俺も全然見た覚えが無いような優しい雰囲気で接していて、むしろその豹変ぶりにこそ驚かされてた。

 ひとしきり泣いて気が済んだのかさっきよりかは落ち着いて、今は静かにこっちを腫れぼったい目で睨むエリナーセを離しカナエが立ち上がった。


「どういう事かは説明しないでいいわ。ずっと見てたから」


「え? ちょ、え、ず、ずっとって、最初から?」


「そっ。わたしも最初からそこに隠れて観てたから」


 そう言われて俺は動揺はしたが、流石に驚きはしなかった。

 なんせ目と鼻の先にあるあの休息所から出てくるって事は、境内にあるのだから最初からいなければ不可能なのだ。そしてコイツにはあの販売所の中で待ち構えていられる理由がある。ここは、この空雲神社は、あいつの親父さんが神主を務める社なのだから、その娘であるカナエがこっそりと鍵を使って建物内に入るのはそう難しくもない。カナエの親父さん、かなりルーズだからな~。

 しかも、先ほどのエリナーセとのやり取りからして恐らく俺らの敵。最初にこの場所をエリナーセが指定した時は何も考えていなかったが、まさかカナエが関係していたとは、ある意味この場所だったのも納得できた。

 中学校くらいから仲が良いってわけでは無かったが、まさか敵対する日が来ようとはまったく予想していなかった。

 俺は最初ここに来た時とは別の緊張が走るような気がした。


「…………そろそろよいか?」


「え?」

「はい?」


 脇でずっと黙っていたクソガキがカナエと俺の間に入るようにおもむろに俺の前に歩いてきた。キッと俺を一瞬睨みそれからカナエの方へと向き直る


「お主はカナエとかいったか」


「そうよ、たしか……バラムちゃんだったっけ?」


「そうだ。ちゃん付けは今は許してやろう」


「そう。で? 私に何か? 今そいつと話したいんだけど」


 こんなガキみたいな見た目のクソガキでも正面から睨まれたりしたら俺でも竦みあがるような迫力がある。俺は実体験で知っている。

 そんなクソガキを正面にしながら、しかも挑発的なやりとりをするカナエにこの時ばかりは凄い奴だと関心してしまった。


「お主だな? こ奴の部屋から本を盗んだのは」


 カナエから視線を外さずにくいっと顎で俺を指しながらクソガキが驚きの質問を放つ。


「は? 何言ってんだよ。いくらなんでもそれは急す――」


「そうよ。私がやったの。そこのバカはともかくアナタは見た目なりには意外とマトモそうね」


 俺の言に被せるようにしてカナエが言った。

 そんな、まさか。いくら言い合いをする仲でもそこまで俺が嫌いだったのか?

 今まで何かというと憎まれ口を言い合ってきたが、俺はカナエを殺そうとかそんな事までは考えてなかった。ちょっと死ねばいいとか考えてた事もあったけどあれもほとんどブラックジョーク的なネタみたいなもであって……。しかし、アイツはそんな俺以上に憎しみを溜め込んでいたのか?

 何か。何か今までにない、何か大切なモノに裏切られたような失望感に一瞬包まれた。

 が、次のカナエの一言は正直予想していなかったような、俺の不安は杞憂に終わるような言葉だった。


「いいから! さっさとそいつから離れてよ悪魔! リンタを返して!」


 え、まさか、お前……。


「俺を助けようと?」


「…………っ!」


 俺の呟きに、しまったという風に身を引きながら、カナエはぷいっとそっぽを向いてしまった。

 恥ずかしかったり腹を立てた時のアイツの癖だ。


「ふむ……なるほどのー。ふふん、お主」


 怒鳴られたクソガキが何か納得したようにカナエに向かって言った。


「此奴の事を好いておるのだろ」


「なっ!? あっ、なっ、いぃ~~~~~~……!!」


「はぁ? お前、何言ってんだ?」


 あんまり突拍子もない事を言うもんだから思わず俺が聞き返してた。

 流石にそれは考えすぎだ。恐らくアイツの事だから、どっかで俺の現状を知った(多分エリナーセが原因だ)カナエが、いつもみたいに要らない正義感で助けてくれようとしているだけだろう。そのカナエの正義感をまんまとあの天使に利用されたに違いない。

 ちらりとカナエを見ると俯いて握った両手をフルフルと小刻みに震わせている。ここからじゃあ顔が見えないので判り難いが、あれはきっと相当怒ってるぞ……。

 変な言いがかりを付けた時のアイツの起こり方は尋常じゃない。多分いつドロップキックが飛んできてもおかしくない。

 俺は冷や冷やしながらクソガキに視線を戻す。


「お前変な事言うなよ。アイツ怒らせるとすげぇ恐いんだからな」


「知らん。儂の知ったことではない。そんなことよりだな――」


「ばっ…………」


 ば?

 カナエが何か言った気がした。いきなりだったので聞き取れなかったので再度カナエを見てみる。


「バッカじゃないの! 私がソイツの事す、すすす、すぅ~~……っ~~! 好きなわけなな、なななな、な! ないでしょうが!!」


 顔を真っ赤にしながら怒鳴るようにさっきのクソガキに対する講義の言葉をぶつけてきた。

 そんなカナエの言葉をニヤニヤとした意地の悪い顔で聞き流すクソガキ。


「(初心うぶだのぅ(ボソリ)。その件は儂には関係ない。後々お主らが自分達で解決するんだな」


「だ、だから違うってっ!」


「今はよいと言ってるのだ。この際お主とそこの天使が結託していた事も後だ。それよりも今は本が先だ。あれが無ければどの道儂らはそう長くないやもしれんぞ」


「な、よいって、なんですってー!?」


 なんか途中俺の予想以上の事が出ていた気がするが俺も命が懸かってる。カナエに構ってる余裕は無い。


「悪い! 今はそれどころじゃないんだ。おめーも本を探すのを手伝ってくれ! 頼む!」


「で、でも……」


 カナエはクソガキ、俺、そして未だに立ち直れていない後ろのエリナーセの順に視線を泳がし、最後にクソガキをキッと睨んで口を開いた。


「分かった。私も探すの……手伝う」


「ぐすっ。私も……ずずーっ……探します……」


 かくして、天使対悪魔の戦いは始まるまでもなく終わり、俺の命綱であろう本≪小さき鍵≫を探す事になった。

 う~ん、な~んか大事なものを忘れてる気がするんだよな~?

2013/10/06

 ヤバい。書き進められなくてヤバい。

 というわけで久々の更新ですが、遅くなってしまいすいません。

 あんまりここに長く書いても煩わしいでしょうからもろもろの言い訳と反省は最終話のあとがきまでお預けです。

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