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だいナナわ★賞味期限は大丈夫だけど、消費期限は完全にアウト!

「「はいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」


 俺とクソガキが完璧なタイミングで同時に大声を出す。大変不本意だがこいつと俺は何処か気が合う所が……あるわけねぇ! あってたまるか! 俺はたとえこの世界を構成する元設定とか原案とか、そういう物がそうだったとしてもクソガキと気が合うとかはぜってーしねえからぁ!

 今のは別に照れ隠しとかじゃねーから!

 本当だから!

 ちょっ、えっ、あれ?

 言えば言うほど苦しくなってくる、フシギぃー。


「「…………」」


 クソガキが叫びを途中で止めて何か不思議そうに首を傾げて何かを言おうとしている。俺も気になる事があるので叫ぶのを止め、クソガキに確認する。


「もしかしてお前もか?」


「う、うむ」


 どうやらこいつも同じ疑問を持っているらしい。

 2人でエリナーセさんの方を向いて訊いてみる。


「『小さき鍵』ってなんぞ?」

「『小さき鍵』とはなんだ?」


 やっぱり。見事なまでにクソガキと同じ疑問だったわけだ。

 あんまり嬉しくないが、やっぱり契約してる効果みたいなのが確実に出てきてるような気がして、なんか恐いんですけど。

 ……うん。まぁ、あれだ。ここはいちいち細かい所にツッコムのはやめよう。とりあえず話を進めるのが先だ。


「これは困りましたね……。呆けられてもこちらには確かに『小さき鍵』が手元にあるのですが」


 やれやれといった風でそう言うとエリナーセはおもむろに背中に手を回すと大きめの、やたら古そうな革張りの本を取り出すと俺らに見せるように“ソレ”を抱える。

 え、結構でかい本だけど、今どこからソレ出したの? てか、ん? どっかで見た気が……。


「あ、あった」


「は? 貴様まさか……」


「本だよ! アレだよ! って何でアンタが持ってんだよ!」


 そう。お分かり頂けただろうか。あの天使が持ち出した本こそ、俺らが探していた本その物だった。

 クソガキは天使に指を指す俺をちらりと見て舌打ちをした後、エリナーセへと向き直り腕を組む。話が進行すればする程にクソガキの俺へ対するヘイトが高まってる気がする。

 もう一度、今にも唾でも吐きかけてきそうな顔で俺を一瞥してから、クソガキは腕を組んでエリナーセを睨む。


「で、その古臭い書物がどうかしたのか、パシリ?」


「パっ!?」


 我関せずといった風に言ってあからさまにとぼけるクソガキの明らかな挑発に、一瞬乗りかけたようなエリナーセはしかし一旦言葉を飲み込み深呼吸を一つするとさっきと同じように落ち着いた態度に戻った。


「そのような下賎な言葉で神の使徒である私を愚弄するとはなんと、ぉ……お……オホン。悪魔の(かた)は言葉が汚らわしくてなりませんね。その話は今する事では無いですから……、(のち)に置いておきましょうか。後があればのお話ですが」


「ぬぅ……」


 態度は落ち着いているが明らかに根に持ってるだろこの人。最初は天使すげぇと思ってたけど、どうやらこの人(天使?)そんなに凄くなさそうだな。だがしかし! 普段は厳しい大人の女性が2人きりになると途端に甘えだすギャップ、そこに堪らなくそそられるのは最早男のサーガだろ! やっぱ天使いいわぁぁぁぁ! ハッ、今ちょっと目の前の現実についていけずにオカシクなってた。

 俺がこんな事を妄想してるとは露知らずエリナーセは話を続ける。


「問題は貴女です悪魔。(わたくし)の見た所そこなる人の子と契約している様子ですね。私が言いたいのは一つだけです」


 すげぇ! そういうの見ただけで判るの!? やっぱ天使すげぇ!!

 エリナーセは一拍置いてから言った。


「その契約を今すぐ破棄すれば消滅まではさせません」


 さっきまでとは違うキッパリとした平淡な声でエリナーセがクソガキに向かって言った。

 それを聞いたクソガキが鼻で笑いながら補足する。


「つまり破棄出来なければ此奴共々消すと言うことだな」


 クソガキが冷静に言いながら、首筋に冷や汗らしきものが頬を伝う。

 え、これはマジで? やばいんじゃね?

 俺とクソガキは今契約だかで一身同体みたいな関係だ。俺が死ぬとクソガキが死に、勿論クソガキが死んでも俺が死んでしまう、らしい。クソガキの元がどれだけ凄いかなんて正直知ったこっちゃ無いが、少なくとも今は魔力だかが無くてただの人間同然だと言っていた。つまり、ここでこの天使さんによる消滅を免れようにもクソガキは無力ってことか。勿論俺なんか論外だろう。絶対無理。

 いわゆる、絶体絶命ってやつか!?

 いや、でも、もしかしたら天使だし何か解決策みたいなの持ってんでしょ。持ってるよね? きっと持ってるよ!

 一応確認のために訊いてみよう!


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。え? それって俺も消えるって事なの?」


 俺の質問には残念そうに目を伏せるエリナーセでは無く、クソガキが怒鳴るように答えてくれた。


「だからそう言っとろうが! 貴様は本当に緊張感に欠けるの!」


「あ、はい……すいませんでした」


 くっ。クソガキに怒られた。俺にはそれが何よりも屈辱!


「残念ですが……そういう事になりますかね」


 なんだか物凄く悲しそうにエリナーセが言う。死ぬ寸前の患者を前にした医者みたいな沈うつなオーラがバシバシ飛んで来るぅ!

 ここで諦めたら何かに負けた気がするぅ!


「いやいやいや、でもなにか方法はありますよね? ね?」


 少しの間を置いてエリナーセは伏せていた顔をあげる。その顔は見る人の心まで明るくなるような満面の笑顔だった。

 こ、これは! あるんですか? あるんですね何か方法が!

 俺の期待の声とほぼ同時にエリナーセは口を開いた。


「ですがこれも神の御心に従った結果です。人の子よ、心安らかにお逝きなさい」


 おいぃぃぃぃ!! やっぱり俺もかよぉぉぉぉ!! ちょっとでも期待した俺が馬鹿だったよぉぉぉぉ!! ちっくしょぉぉぉぉ!!


「そーですか。……じゃねーから! ふざけんな! 俺はまだ死にたくねーよー!」


 もう本当に頭がパニックを起こしそうだ! むしろ起きてる!

 何この状況!? どんな場面だよ!? BADエンド確定イベントとか無理ゲー過ぎるだろ!

 俺が頭を掻き毟っていると、もう話す事は無いとエリナーセはイスから立ち上がり、部屋のドアへと歩いていく。


「それでは私はこれで――っ!」


 ドアノブに手を掛けようとしたところで俺の前を黒い何かがエリナーセに向かって飛んでいった。おれが目で追うよりも先にそれが何かは分かった。バチッと何かが弾けるような音の瞬間、エリナーセが居るドアの方向から俺の目の前にクソガキが転がってきた。今の今までドアとは反対のベッドに座っていた筈なのにだ。

 見ると何かに焼かれたように手に煤けたような痣を作っていた。

 するとエリナーセがやれやれといった風に言って来た。


「チカラの無い下位悪魔が何をしようと無駄です。とはいえ私も神の従順なる使徒。人の子に免じて幾らばかりかの温情を与えましょう。感謝するのですよこの小悪魔」


 うわぁ絶対さっきの根に持ってるよ。この天使外見は綺麗だけど性格悪いな絶対。

 エリナーセはクソガキに向かいなおす。


「よいですか。選択の期限は明日の日が昇るまで、今夜一杯です。決断できたのならこの近くの空雲神社へ来なさい」


「えっ、なんでそこ?」


 ちょっと意外だったのでつい口が滑ってしまった。


「……丁度良いからです。それでは、良いお返事を期待しておりますよ」


 そう言うとエリナーセはドアを開けて普通に階段を下りていった。途中でメイルさんと出くわしたようで一言二言挨拶をして玄関から出て行った。

 え、普通に出てくの?

 それなら来る時も普通に来てくれればよかったのに。


「じゃなかった。おい! 大丈夫かバラム?」


「ふん。あの程度のパシリの霊術など毛ほども効かんわ」


 全然問題なさそうなんで少し安心した。

 別に心配してる訳じゃないからな!? あ!

 もういい! 落ち着け! とりあえずこっちの問題が先だ!


「で、どうすんだよこれから?」


 俺が言うのと同じタイミングでメイルさんがお茶と、ホットケーキの乗った皿を持って戻ってきた。

 なんか遅いと思ったらそんなの作ってたのメイルさん!?


「お茶とおやつをご用意して~って……ど、どどどどどうなされたんですかバラムさま!?」


 クソガキの手の傷を見たミルさんは慌ててお茶を溢しそうになりながらお盆を置くと、直ぐにクソガキに近づいていき怪我をした手に自分の手を重ねた。


「そんな大層な傷ではない」


「何を仰るんですか! ダメです! すぐにワタシが治しますからジッとしててください! み、水の加護よ、どうか傷を癒したまえ……」


 メイルさんが呟くと突然重ねた手が水のような透明な液体に包まれみるみるクソガキの裂傷が消えていく。しかもその水(?)は空中で固定されているように止まって落ちないのだ。

 もしかしてこれが魔法か。目の前で実際使われるとなんだか手品でも見せられてるような感覚になるな。


「もう大丈夫だ。ご苦労であった」


「あ、はい。ワタクシこそでしゃばってしまいもも、申し訳ありませんっ」


 メイルさんのそんな言葉に頷きながらクソガキは治った手を2、3回開いて握ってを繰り返してから俺に顔だけ向け、


「おい」


 いつもの呆れたような調子で声を掛けて来る。


「な、なんだよ」


「色々と言いたい事があるがその話は本を取り返した後だ」


「…………(ゴクリ)」


 思わず生つばを飲んでしまった。今のクソガキにはそれだけの迫力というか、雰囲気が漂っていた。

 なんていうか、何か俺の知らないモノを知っている奴の凄さみたいなのが漂ってる。気がする。


「先ずは現状を打開してからだ」


「お、おう」


 ちょっと今までに無い真面目な雰囲気に圧された俺はいつもバカにしてるクソガキのちょっとした一言にもしどろもどろした返事しか返せなかった。いくらなんでもこのままだとカッコワルイので(しかもメイルさんの前だし)なけなしの意地で話の続きを持つ事にしてみる。


「でもどうやって倒すんだよ? あのエリナーセって天使、普通に強そうだったじゃん」


 なるべく明るめに言ったけど自分でもちょっと無いなというくらいの後ろ向き発言を発してしまった。クソガキだけならともかく、いつもは苦笑程度に止めてくれているメイルさんまで冷たい半眼で俺を見つめていた。しかし次には半眼を閉じて溜め息混じりにメイルさんが呟く。


「う、後ろ向きこの上ないですがしかし、確かにリンタロウさまの言われる事ももっともかもしえません。……うっ」


 メイルさんは真剣に言ったつもりが最後の方で噛んでしまい、顔を赤らめて俯いた。

 俺はこの上ない癒しを感じた!


「うむ。こればかりは事実な以上どうしようもないな」


 どちらかというとメイルさんの言葉に返事するような感じでバラムも頷く。

 ちくしょう! お前の同意なんか嬉しくもなんともねーよ! 


「どうにかして力を付けなければ足掻く事もままならんし……う~~む」


 難しい問題に悩む様に(事実悩んでいるんだが)クソガキは腕を組みながら頭を捻っている。メイルさんも、いつもみたいに俺が近くにいるのに全然慌てることなく額に指先を当てて難しい表情を作っている。

 俺も考えてみるが、そもそも魔力を戻すための魔素とやらがどうやったら手に入るか俺にはさっぱり分からない。一応クソガキは知っている風な事言ってたが、その本人が悩んでる時点で俺にはもうどうしようもない気がするんだけど。


「なぁ」


「どど、どうなされました、リンタロウさま?」


 さっきの失態(噛むくらいいつもの事なんだけど)を取り替えそうと直ぐに反応するメイルさん。クソガキは黙ってチラリと俺の方を見てくる。


「この際手段を選んでる場合じゃない気がするんだけどよぉ。魔力の補充できる方法があるんならやってみないか?」


「「!!!!!!」」


 俺の提案を聞いて二人共に驚きの表情を作る。


「え? 俺なんか変な事言った?」


 俺がそう言った瞬間。メイルさんが顔を両手で隠すようにしてから更にぷいっと逸らしてしまった。クソガキに関してはもうなんて表現していいか分からない苦痛の表情で目だけを逸らす。

 え? 何? メイルさんは可愛いからいいけど、クソガキは何? 俺に喧嘩でも売ってんの!?

 訳も解らず俺がオロオロしていると、クソガキが口を開いた。


「貴様はメイの前でなんて事を言ってくれているのだ!」


「な、なんだよ? そんな変な事言ってないだろ。他に手は無いんなら方法はどうあれやるしかないだろこんなもん」


 自分で言ってなんだがもう他にやれる事なんて無いだろ。実際この二人の反応からして不可能ではないけどマトモな方法では無さそうなのは察せるが、今から明日の日の出までっていうともう12時間を切ってる。

 普通の魔力の補給方法がどんなものだとしても今までで全くその目途が無い事を考えると、約束の時間までに間に合いそうにも無い。

 一番現実的で可能性のある提案は、俺の予想以上に二人(特にクソガキ)の不評を買ったらしい。


「ぐぬぬ……、確かにその言い分には一理あるの……」


「だろ? むしろなんでメイルさんまでそんな反応するのか俺には解らないんだけど、そんなヤバイ方法なのか?」


 クソガキを恐らくメイドという立場以上に慕うメイルさんまでがこんな反応なんだ。きっと俺の予想以上の方法なのかもしれない。

 ……さすがに痛いのは無いよな?


「あ、ああ、あのっ」


 俺がクソガキの方を見、クソガキが目を逸らしていると今だに両手で顔を隠しながらメイルさんがくぐもった声で間に割ってきた。

 その声は僅かに上ずっていて、恐がっているというかどこか恥ずかしそうな風に感じた。


「わ、ワタクシもバラムサマには生きて欲しゅうございますっ。で、でででですから、そのっ、こうなってはし、仕方ないのではないでしょうか!」


 両手で隠しながらも微妙にクソガキへ顔を向けて言う。

 なに? 俺どんだけ大変な事言っちゃったわけ? むしろここまでされると申し訳ない気分になってくるからヤメテ!

 俺の心を声を聞いたか聞いてないかは別として、クソガキが観念したように息を吐いた。


「はぁー……実行するかどうかは別として一応貴様に、貴様の言う簡単な方法を教えてやろう」


 どこか沈うつな目で俺を見ながらクソガキが続ける。

 むしろ簡単ならなんでこんな重い空気出すのコイツ?


「お、おう(ゴクリ)」


 思わず生唾飲んじゃったじゃん。


「それはの……」


 それは?


「……接吻だ」


「……」


「ひぅっ」


 一つ目はクソガキの回答。二つ目は俺の沈黙。三つ目の小さい悲鳴はメイルさんの物。

 メイルさんを見ると顔は隠されていて見えないが耳が真っ赤になって全身がプルプル震えていた。

 なんだか守ってやりたくなるような保護欲をそそられr、違う! 今はそっちじゃねぇ!


「え? せっぷんって、ちゅーする接吻? いわゆるキスですよね?」


 ちょっとあまりにも予想の空を急降下してきたので思わずもう一度訊いてしまった。


「だから、そうだと言っとろうが」


 な、なんだー。あーよかったー。生き血を差し出すとか命を削れとか言われなくてー。


「で、それってあれだよな。別に誰とでもいいんだよな?」


 全く、人を不安にさせやがって。毎度毎度ヒヤヒヤさせられるこっちの身にもなって欲しいもんだぜ。


「残念だがこれは少々特殊でな」


「特殊? 何、まさか条件でもあんのかよ?」


「ああ、そうだ」


 なんだよ条件あるのかよ。そこら辺の奴捕まえて無理矢理キスさせればオッケーとはいかないのかよ。


「このキスの相手はな、貴様じゃなければ駄目なのだ」


「は?」


「あまり気は進まないが現状では貴様と儂が接吻するのが一番なのだ」


「冗談ですよね?」




 --§--



 学校も休みの学生最強の曜日の一つ土曜日。時間は午前5時。

 まだ肌寒さが残る空雲神社の境内に俺とクソガキは二人でやってきた。

 到着すると既にそこにはエリナーセが居た。賽銭箱に座って優雅に湯呑みを啜っている。

 そのあまりにもシュールな光景にクソガキはともかく俺のヤル気メーターは音速を超えて下がった。


「あ、おはようございますぅ。いいお天気で何よりですねぇ~。ふぁ~」


 今から何が起きるか分からない場面だというのになんとも能天気な挨拶をされ、さすがのクソガキも溜め息を()いてる。

 多分、というか絶対にあの天使は油断している。

 俺には感覚では分からないが、目の前のエリナーセがリラックスしてるってことはきっと警戒する程の力を感じられないという事なんだろう。無理も無い。なにせクソガキには昨日と同じく全く魔力が無いのだ。

 結論から言うと、結局俺たちはキスしなかった。

 普通に無理。俺、ロリコンじゃねーもん。

 それにクソガキ自身も嫌がったので両者拒否によるノーゲームである。クソガキの身を案じてかメイルさんは最後までなんとかしようと説得してくれたのだが、最終的にはクソガキが絶対に嫌だと手足をバタバタさせる始末だった。

 そして現在。

 なんの対抗策も無く来てしまったというわけだが、


「おい」


 俺は小声で隣のクソガキに話しかける。


「チッ、なんだ」


 今の舌打ちは絶対に許さない。お前が泣いて謝っても絶対にだ!


「本当に上手くいくのかよ?」


「ふっふっふっ。まぁ見ておれ。そのウチ分かる」


 俺が冷や汗ダラダラで待ってるというのにクソガキはこの余裕である。

 大丈夫なのか?

 俺達がヒソヒソしているのを見て、何を勘違いしたのかはよく分からないがエリナーセが能天気なまま教えてくれた。


「大丈夫ですよー。この辺りには結界を張っておいてありますので、無用な被害者は出ませんからー。あ、勿論目撃者もですけどね~」


「へ、へぇーす、凄いっすねー」


「いえいえー。ふぁ~……。先ほどから申し訳ありませんねぇ。(わたくし)朝が弱くてどうにも、ふぁ~」


 なるほど。それでそんな緩みきった態度なのか。さっきの俺の見立て(キリッ)はどうやら半分以上間違ってたようだ。恥ずかしっ!


「それで」


 エリナーセは眠そうな目を擦りながらこちらに向けて最後通告をしてきた。


「決心は着きましたか?」


 来た! ここからが本題であり、一歩間違えたら則ゲームオーバーの最終決戦。のはず。

 俺は昨日のクソガキとの打ち合わせ通りに台詞を放つ。




 時を戻してエリナーセが去った後の夕日が差す俺の部屋。

 メイルさんによるさっきからの説得には全く聞く耳持たず、挙句に手足をバタバタさせ正真正銘のガキのようにダダを捏ねるクソガキがそこには居た。


「このままではバラムサマが消滅させられてしまいますよっ」


「嫌だー! あんなのと接吻なんて死んでも嫌だー!」


「お気持ちはお察しいたしますがそれでもっ」


「死ぬー! あんな『バキューン』と口をつけたら死ぬー!」


 何だよコレは……。なんで俺がこんなに心にダメージを負わなきゃいけないんだよ……。

 何故か二人のやりとりを横で見てるだけの俺が一番ダメージを受けている図である。


「だぁー! うるせえ! 俺だってテメェとキスなんか御免だし嫌だし有り得ないね!」


 静かにしていた俺が急に怒鳴りだしたせいかクソガキもメイルさんも驚いたのか黙ってしまう。


「大体嫌だ嫌だつったって他にどうすりゃいいんだよ! 俺はまだ死ぬのなんか考えられねーんですけど!? 騒いでる暇あんなら何か別の良い案でも考えろよ!!!! 俺は何にも思いつかないけどな!! 大体天使ってなんだよ! 反則だろ! 俺ただの人間だぜ!? もうやってらんねーよ!!」


 あ、やべ。メイルさんにまで怒鳴っちゃった。

 どうにも昔から追い詰められると頭に血が昇ってしまう性分らしい。最近のキレやすい若者とはまさに俺の事を言っていると自分でも自覚するくらい悪い癖だ。

 今まではなんとか抑えてた(主にクソガキで発散)がここまで来るとちょっと洒落にならない。

 本当に死んでしまうのかと考えるとちょっとどこかに逃げ出したい気分だ。

 今ならバイクと並走できるね。無理だけど。

 熱しやすく冷めやすい性格なのかもう俺自身は冷静とまではいかなくとも声を荒げたりはしてない。

 俺が怒鳴った所為かは分からないが、静かになった二人は自然と正座になって二人並ぶ形で座っていた。


「あ、あの、もう大丈夫、かもよ?」


 な、なんか空気が天使が居た時より重くなった気さえするところに、なんとか場を取り直そうとした俺はそう告げてみた。若干俺っぽくない言い回しなのはあれだよ、オチャメ心だよ。


「ご、すいむ、すいませんでしたリンタロウサマ。バラムサマのお命が危ないと考えるあまりこのような醜態を」


「い、いや気にしてませんし。はは」


 どう考えても嘘である。


「……今回は儂も少し遊びが過ぎたかもしれん。その、許せ」


「わ、分かってんなら別にいいよ」


 さすがに怒鳴った自分もどうかと思うのでここはこれで相殺だ。


「それでだ。その、二人とも何か良い作戦とかないのか? 俺は天使なんて見たのが今日初めてなんだが、全然そっちの知識なんか無いぞ」


 とりあえずは本筋に戻そう。うん。これがベストだ。

 俺の質問に二人とも意見交換しながら考え出した。

 その和に何故か俺は加えてもらえてないという、超絶走り出したい状況に陥っているのはもう考えるのをやめて回避しよう。


「――だとするならやはり羽か?」


「それも難しいでしょう。バラムサマの今の状態では厳しいものかと」


「ふむぅ。せめて何か気を引ける物さえあればなぁ」


「ですねぇ」


 二人だけでどこまで進んだか分からないが、話が途切れたとこにふと気になりクソガキに質問してみた。


「少し気になったんだけどさ。メイルも魔力無いんだよな?」


「ん?」


「え?」


 これにはクソガキとメイルさん、二人共にこちらを見てからお互いを改めて見た。

 クソガキがメイルさんに訊いてみる。


「メイよ、もしかしてお前、魔力残ってるのではないか?」


「? ええ。こちらに来てからは使ってないので、まだ大分残っていますが……」


「「!!!?」」


 その言葉に俺とクソガキの二人は驚愕というか、興奮のメーターを吹っ切らせて逆に倒れてしまった。




 そして現在。

 入り口付近の鳥居から社殿まで50m走は悠にできそうな広い境内のほぼ中央に立つ俺とクソガキ。

 対して社殿の前に鎮座する賽銭箱からほんの2、3歩の距離こちらに寄った位置に立つ天使・エリナーセ。

 間には何もないこの空間がしかし、どこまでも越えられない壁のような気がして(たま)らなくなる。

 今すぐ泣いてジャンピング土下座でもしたいところを(こら)え、昨日の事を思い出しつつゆっくりと打ち合わせ通りにエリナーセに質問をしてみる。


「ところで」


「? はい何でしょう?」


 エリナーセは俺から話しかけられるのは予想してなかったようで一拍遅れて答える。

 そして俺は地味に精神ダメージを受ける。マジ豆腐メンタルなんですから簡便してください。


「小さき鍵はまだ無事なのk、んですよね?」


 思い切りよく言ってやろうとしたが無理。天使とか以前に綺麗なお姉さんに面と向かって話しかけるとか無理。

 俺の質問に一瞬不思議そうな顔を見せるが、すぐに今まで通りの柔らかい笑顔で懐から本を背中のほうからよっこらせと本を取り出す。マジでどうなってんのアレ?


「ここに、んしょ、ありますよ」


 そう言いこちらに見えやすいように本の表紙を見せる。

 それを確認した俺は内心でもう倒れたくなった。絶望ではなく、安堵からだ。

 となりのクソガキをチラリと見ると、表情は崩さずに口元の端をちょっとだけ吊り上げているのが見えた。

 ある意味最大の難関を今、突破した。

 しかし本当の勝負はここからだ。ここから先はぶっつけ本番でやり直しが利かない。なんとしても成功させなければ。

 俺は生唾を呑んで一か八かの勝負に挑む事にした。

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