だいキュウわ★探し物はなんですか? サガしても見つかりませんか?
本の捜索は困難を極めた。というよりも、ノーヒントで失くし物を探すとかそもそもが無理のありすぎる事だろ。
最初こそ俺らに対して警戒してたカナエとエリナーセだったが、一時間も境内のあちこちを探しているとそれまでの緊張と疲労とでいつまでも気を張っているどころじゃなくなっていた。かくいう俺も不眠も祟ってもう今すぐにでもぶっ倒れて寝たい気分だった。
カナエ達は二人一組になって探し、時節俺やクソガキをチラチラと盗み見て、一応は警戒を継続していた。あからさま過ぎて流石に気にもなったが、俺にはもうそれどころではないのは読者のお前らにも理解していただきたい。俺とクソガキは効率重視で二手に分かれてそれぞれで本を探した。
鳥居や狛犬像とかの陰、水のみ場の脇、販売兼休息所の裏、神社の縁の下やら裏手やら、敷地の外周を囲う草垣まで、どう考えても手が滑った程度じゃありえない範囲を探し回ったが一向に本が見つかる気配がしない。
俺、クソガキ、エリナーセとカナエの四人は自然に賽銭箱前に集まり報告会のような事が始まった。
誰から話しを切り出すのかで微妙な空気になった四人の背中をカナエの真面目な声が切りだした。
「どうやら草むらには落ちていないようね。私がこれだけ探したのに見つからないなんて有り得ないわ」
「協力してくれんのは嬉しいが言わせて貰うと、お前のその謎の自信はどこから来るんだ?」
やべ。どこか上から目線なのが気になってついツッコミを入れちゃった。
「儂もざっと見渡したが見つけられぬ」
「なんかやってたけど眺めてただけかよ。お前は探せ、まずはそれからだ」
これについては俺は悪くない。
「ぐす……変態」
「本当にすいませんでした……っておーい! まともに本探してるの俺とカナエだけじゃねーか! 悪魔も天使も何の役にもたってねーよ!」
気付いたら三人の報告(?)に本能的な何かに導かれて一人でツッコミを入れてた。いかも最初のカナエ以外全然探してないという事実!
「なんか偉そうなんだけど。そういうリンタはどこ探してたのよ?」
「販売所の裏手とか、社の軒下とか探してましたー。俺めっちゃ探してましたー」
「ふーん……」
「……」
「……」
「何か言えよ!?」
「え? ああ、全然見つからないわね」
「ちょっとぉぉぉぉ!? 仮にも俺の命懸かってるんですけど!? なんでそんな冷静を通り越して冷たいの!? さっき飛び出してきた勢いどこいったの!? 俺の知ってるカナエじゃない!!」
「な!? 別にあんたが知ってるかどうかなんてアタシには関係ないでしょ!? ってかアタシの何を知ってんのよ!?」
「知るかっ!」
「結局どっちよ!?」
俺とカナエが言い争いを始めると、クソガキが不思議そうにうなり声を発てて割り込んでくる。
「ところで輪太郎よ」
「あん? こっちは今忙しいんだよ」
今の俺はカナエの相手で手いっぱいなんだ。俺はコイツにに勝ちたい……勝たなきゃいけねぇんだ!
「痴話喧嘩なぞ他でやれ」
あっさり切られた。
こいつには男の戦いを見届けるという心意気はないのか。
「なっ!? 別に私とリンタはそんな関係じゃないしっ!」
「そーだそーだ!」
「うっさいリンタ! しね!」
「折角後押ししてやったのにひどい!」
「ああぁ~、いい加減にせんか。今はそれ所ではないと輪太郎、貴様が自らの口で言っといて忘れておるのか」
言われて気付いたけど、そういえばそんな事も言ってました。
言われっぱなしで引下るのも癪だがここは冷静になっといた方がいいかもしれない。
「お、おう」
クソガキの言う事は至極真っ当だったのでここは大人しくしておく事にしておこう。うん。
カナエもすぐに状況を思い出したらしく口をつぐむ。今までの威勢はすっかり消えて、今度は申し訳無さそうにこっちをチラチラ窺い始めた。その態度が妙にイラッとしたので、軽く突っかかる。
「なんだよ」
「べ、別に~」
カナエは応じる事もなく目を横に逸らして流してしまった。俺達は仮にも敵対してるはず、用が無いなら変な挙動はやめてくれると俺の精神衛生上めっちゃ助かるんですけどぉ!?
また気まずい沈黙が流れ始める。そこでようやくクソガキが言おうとしていたことを言い出した。
「実は先程からずっと何かを忘れている気がしていてな」
どこか勿体ぶった言い方で俺とカナエを順番に見る。
お前なら解るだろ? みたいな視線が俺に来るけど、クソガキと魂の契約をして以来心が通じ合った憶えは一つもない。何の事だからさっぱりなので適当に首を振っておく。横に。
「だはー。貴様に一瞬でも期待した儂が莫迦だったわ」
「へっ、このバカめ」
「開き直られるたらそれはそれで頭にくるが今は置いておいてやる」
いつもの調子で俺とクソガキが憎まれ口の応酬を始めると、横で静かにしていたカナエが焦れて話を戻す。
「ところでバラ……バラムちゃんは何がそんなに気になるの?」
カナエが一旦引っ込めて言いなおしてまで呼んだ「ちゃん」付けに微かにこめかみを震わせながらクソガキは咳払い一つして引き継ぐように言う。
「それが何か大事な……大事な何かがココに無いのがどうにも気になってなぁ。う~む、何だったのかのぅ」
「見た目の割りにもうボケてきっいぃっっってぇ!! 何すんのいきなり!?」
俺が言い終わるか終わらないかってところで左脛にクソガキのローキックが決まった。
冷静に解説しているが今の俺は意識が飛びそうなほど痛かったと俺はコレを呼んでるお前らに伝えときたい。ってか今のは絶対八つ当たりだろ!
「さっきから下らん茶々を入れてくるのが気に障るのでな。ちょっとお灸を据えてやったのだ」
「ぐぅ……」
確かにふざけすぎたのは認めるけど、いきなり脛に蹴りを喰らわせることはないと思うんだ。俺の扱いがやたら低いのはもう諦めてるけどブツブツ……。
いや、ここは頭を切り替えていこう。こんな事をしてちょくちょく忘れているが今は非常にピンチなんだ。万が一にも天使であるエリナーセ(今はカナエの後ろでぺたんこ座りで地面に8の字を描いてる)に先に見つかればクソガキが殺され、そうすると俺も消滅するらしいので絶対に避けたい。カナエも何を考えてるのかはっきりとは分からないが今は俺たちの敵では無くても、どうやらエリナーセの味方みたいだからこいつも危ない。何がなんでも俺かクソガキのどっちかが先に見つける必要があるのだ。
ようは悪魔側(クソガキ&俺)と天使側で状況はほとんど五分とみていいだろう。
ん。んん? クソガキと俺……? メイルさんは家に、は居ないはずだ。だって俺達がここにくる途中に分かれてそれから……。
「あ……ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!!!!!」
「「?」」
突然俺が叫びだしたのを見て、クソガキとカナエが二人して目を丸くして驚いていた。
そりゃフツー目の前で叫ばれれば驚くに決まってるか。
俺は突然思い出した事で頭がこんがらがりなかなか次の言葉が出せなかった。
一度深呼吸して今思い出した事を確認する為ゆっくりクソガキに向けて訊いてみる。
「なぁ……メイルさんって今、どこに居るんだ?」
「あん? そんなの貴様い…・・・えに……おぁ! すっかり忘れておった!」
俺の問いに少し時間差を置いてクソガキがハッとして叫んだ。
「メイの奴がどこにも見当たらないではないかーっ!!!!」
「は? メイルさん? メイ? え? 誰?」
カナエが突然騒ぎ出す俺達を見て若干戸惑っているのを尻目に、早速メイルさんを二人で探し出すことにした。きっと彼女が何か手がかりを掴んでいるかもしれないし、そうでなくても少しでも有利な状況に持っていきたい。むしろもうこれ以上の面倒は勘弁してほしい。
クソガキはさっきまでのだらだらした探し方ではなく、大事な物を探すような勢いで境内の隅から隅まで走り回って探していた。最初からそうやって本も探せよ。
クソガキがグルリと一周。俺がメイルさんが隠れられそうな社周りを探したが、結局二人とも見つけられなかった。
心配そうに何かよく分からないみたいな目を俺に向けてくるカナエの横で、クソガキがさっきまでの威勢が消し飛んだかのようにして地面に膝を着いていた。そこでそうしていると、俺の方から見るとカナエを中心に右で天使が、左で悪魔が共に地面に向かって項垂れていてとてもシュールな光景だった。
俺も一通り探したのでクソガキに合流するため三人のいる境内の中央辺りへと戻ることにした。
しかし今まで騒がしかったのにどこにもメイルさんは見当たらなかった。エリナーセと戦ってる時も、本を探してる時も全然気配さえしなかったのだ。最初の緊張ですっかり存在ごと忘れていたが、最初の予定ではメイルさんも一緒に戦う予定だったはず。俺が突っ込んでメイルさんが隙を突き、クソガキが本を奪い取る的な作戦だったはず。
なのにその間メイルさんは姿を現さなかった。どこかに消えたままになっているのかもしれない。
消えたまま……。あ。もしかしってべへっ!?
「ぐひょぇ!」
社の賽銭箱辺りから中央に向かって歩いていた俺は奇声を上げながら見事にスッ転んだ。
というよりかは何かに躓いた気がする。
「リンタ!?」
何もないところでいきなり転んだ俺を確認しようとカナエが近づいてくる。
いててて、て? 痛くない。いやむしろ何か凄い柔らかい何かに顔を埋めている気がする。何も無い筈の空中には確かに柔らかい何かの感触があり、俺はそれに守ってもらったみたいだ。
一体この感触は……。
「ひゃいん!」
俺が感触を確かめるために手を動かしているとすぐ近くから声が聞こえた。どこか聞き覚えのある声にたちまち油汗のようなものが染み出てくる。
「リンタ? ……大丈夫?」
そうこうしている内に気付いたら目の前にはもうカナエが立っていた。
まるでそれを見計らうようにして俺の手元から空中にだんだんと色が浮き上がってくる。
俺がわっしと掴む柔らかい部分がなだらかな線を描きながら白と紺色を浮かび上がらせていき、見る見る細い肢体を形作っていき可愛いあどけなさを残しつつも聖母のような温かみも併せ持つ女性の顔を浮き上がらせ、最後に地面に広がった晴れ空のような澄んだ水色の髪を表して現象は収まる。
「…………」
「……あっ」
俺が転んで乗っかってしまった衝撃で目を覚ましたらしいメイルさんはグルリと周囲を確認し、自分の胸を鷲掴みにする俺を目に留めると同時にあらゆる動作も止まった。
ゆっくりと起き上がろうとしていた動作が途中で石のように固まり、徐々に顔の端から赤くなっていく。
俺も直ぐに退きたかったのだが、どうした事か手が掴んでいる部分から離れないのだ。いやマジマジ本当だからなんかもう全然離れないしこれはもう一生このままでもいいんじゃないかなー。
「あ、お、おはよう、ございます」
渾身のグッドスマイルをキメた。
チラリと横を見るとカナエもまるでゴミを見るような目で俺を見下していた。
「いぃぃやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「こぉぉのばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
ゴスッ。
ドゴッ。
「あべしっ!」
………………しばらくして。
「それでメイが後ろから襲い掛かろうとしたところにこの本で頭を打って儂の術で姿が消えたまま気絶していた、と」
「はい……面目次第もございません」
「まったくドジな奴だの~。そこがまた愛いのだがな~」
「いつまでコソコソ話してるの!?」
「煩いのー、どうやら退く気は無いようだの小娘」
「当たり前でしょ! さっさとそれ渡しなさいよこの、悪魔!」
「だ~れが渡すか馬鹿者め!」
誰かと誰かの話し声で俺は目を覚ました。
一瞬ぼんやりと空を眺めながらさっきまでの状況を思い出す。確かクソガキとメイさんを探してて、結局見つけられずに集合しようとしたら、急に転んで……それで……ぐっ、頭がいてぇ……何も思い出せねえぜ……。
空が見えているという事は少なくともここはまだ外だ。薄っすらと紫色に染まりだしたのを見るとどうやら時間は早朝に差し掛かるくらいか。そんな長く寝てはいないようだ。
そこまで考えてはっとして身を起こす。
「本は、ってかメイルさんは!? っ、うぐぅ……」
頭が痛いのは目が覚めた直後に分かってたけど、起き上がろうとした途端に右のわき腹の部分にも激痛、というか鈍痛のようなモノがする。これ結構なダメージじゃないですかねえ。
なんか記憶に無いようなダメージに多少納得のいかないのは置いといてさっきから声がする方を見てみると、なんとそこには再び天使チームvs悪魔チームみたいな形で四人が対峙していた。
カナエとクソガキが歯を剥いて向かい合いそれぞれ後ろにエリナーセとあれは、メイルさんだ。そうか、俺が気を失ってる間に合流したのか。
「早くそれを渡さないと、いい加減アタシも我慢の限界だからね!」
俺から見て左に立つカナエがビシッと人差し指を突きつけると、今度は右側で何か大事そうに抱えているクソガキが反論する。
「何度言えば解るのだ! これは儂の物で貴様に渡す義理も道理も必要もなーんにもありゃしないわ!」
さっきまで一緒に本を探していた仲間がいつの間にか対立していた。一体何が? と、いまだハッキリしない頭で二人を観察していると、クソガキの後ろでプルプルと弱々しいファイティングポーズをしていたメイルさんが俺に気付いて駆け寄ってきた。
それに釣られて視線を動かしたカナエも俺に気付いて驚いたあと一瞬表情変えたような気がしたがすぐに目の前のクソガキへ向かい直した。
駆け寄ったとは言ったけどメイルさんは全然速くなく6、7メートルの距離を早歩きみたいな速度で駆け寄ってきた。
「リンタロウさま! お、お体の方はだ、大丈夫ですか?」
一瞬殺気のような視線を感じたような気がしたがメイルさんが壁になって後ろの人たちが見え辛くて確認できなかった。
「え? あ、うん。まあ、大丈夫っちゃ大丈夫だけど頭がちょっと痛い、です」
「お頭の方が悪いのですか!?」
なんかその言い方だと俺のIQが低いみたいに聞こえるんだけど俺の考えすぎだよね?
「あ、ささ、先ほどはももももうしわけありませんでしたっ! あのあ、あの、殿方との接触に少しばかりその不慣れというかあああまりけ、経験が無いもので、咄嗟にその……殴ってしまって、申し訳ありませんでしたっ!」
突然早口につっかえながら謝るメイルさんを目の前にして俺は正直混乱していた。なにせ俺は転んだ拍子で気を失ってたんじゃないのか? うん? うーん……うっ……頭がっ……! ダメだ、思い出せない。
「何の事か分からないけど、それよりも今どういう状況なんですか?」
「え、あ、えーっと……、只今バラムさまとカナっ、あの天使の信徒めが本をめぐって睨みあっております」
「本? 本ってあの変な“本”の事?」
「は、はい。先ほどは誠に申し訳ありませんでした」
見つかったのか!
よく見るとクソガキが大事そうに抱えているのは間違いなくあの“本”≪小さき鍵≫とかいうやつに間違いない。
俺は頭痛とわき腹の痛みを堪えて立ち上がるとゆっくりとクソガキの所に向かう。その後ろを心配そうにオロオロとメイルさんが付いて来る。
「ようやく起きたみたいだの」
俺がクソガキの横まで行くと、クソガキは口の端を上げて言った。
こいつなりの心配の言葉なのかもしれない。と、なんかホッコリしたので柄にもなくカッコつけてみた。
「当たり前だ。俺が居なきゃ始まらねーだろ」
決まったな。
「よく言うわ。あの程度の打撃で気を失っただけでも恥じゃろうが」
「……」
え? 打撃? 俺転んだだけじゃないの? ねえちょっとー? おーい?
俺達の後ろにいるメイルさんがちょっともじもじしてるんだけどどーしたの?
そういえばさっきメイルさんが何か言ってたっけ。
「これで3対2、いや3対1だな小娘!」
俺転んだだけじゃないのー? ねー?
「ぐぬぬ~。ちょっとエリナーセさん! いつまでそうしてるのよ?」
天使vs悪魔のはずが何か足りないと思ったら天使側に肝心の天使であるエリナーセがカナエの後ろで膝をついて頭を抱えてた。なんかさっきよりも酷くなってないか、あれ。
「あぁ……神よ……お赦しを……我が身は穢れようとも……この魂には一片の迷いも……」
完全に自分の世界へとトんでるようだ。
どうしてこうなるまで放っておいたんだっ!
「どうやらそこのアホ天使は使い物にならないようではないか。数で劣る上に天使の加護も無い人間がどうするつもりだ?」
気丈にも一人で立ちはだかろうと強気の表情を崩さないカナエに、クソガキは舌なめずりでもしながら言ってそうな見下しきった言い方でカナエを睨みつけて嗤う。
悪魔ってのは一般的には悪いイメージが先行してるだけで、実は基本良い奴らなんじゃないかとクソガキやメイルさんを見て思ってたが、どうやら少し考え方を改める必要があるようだ。
悪魔こわっ!
俺がクソガキにドン引いて後ろを見るとメイルさんも口に手を当ててドン引いてた。よかった、俺の知ってるメイルさんはいつものメイルさんだった。
俺が一人で胸を撫で下ろしていると、カナエがすぅっと息を吸い込み続いてゆっくりと息を吐き出しながらおもむろに半身で構えをとっていた。
「お、おいぃ?」
「悪いけど、見た目が子供だからって手加減はしないからね」
「?」
カナエが構えているのを不思議そうに首を傾げながらも、なんか戦う雰囲気のようなものでも感じ取ったのかクソガキも足と手を少し開いて前傾姿勢をとって身構え出す。
長くて実際に喋ってる暇がないので、読者のお前らに一応説明しておくと、カナエは武術を習っている。それも小さい頃からやっていて今も続けてるらしい。俺も詳しくはないので知らないが空手とか柔道ではなくてどちらかというと柔術に近いらしく、それも攻守共に技が揃っており主に攻めに秀でてて凄い。と、俺が小学生中等部くらいの頃にカナエから聞いた話しだ。
どう凄いのかはやってない俺からじゃ説明できないし、武術名も空雲なんとか流とかいってアイツの家単位で引き継がれてる小さな流派みたいなので、俺としてはカナエの強さは全く未知数だ。
だけどなあ……正直に言わせて貰うと仮にも悪魔であるクソガキに勝てるのか。むしろ戦えるのかすら分からない。クソガキを召喚してから今まで俺は幾度となくクソガキと喧嘩した。最初は魔力が無いただのクソガキだと思って流してたが、何度か大人気なくも本気で殴りかかったことがあったようななかったような気がしないでもないけど、いつもあっさりと俺が負かされてた。それでも全然余裕そうだったのをみると身体能力は半端ではなさそうだった。
そんなクソガキに今は敵とはいえ知り合いの女の子がボコボコにされるのを想像すると、相手がカナエとはいえ流石の俺もちょっとは気まずい気分にもなる。やっぱりここは穏便に収めておくに越したことは無いだろうな。
やれやれと芝居っぽく両手の平を上に向けながら俺は二人の間に割って入った。
「二人とも、ここは俺の顔に免じて話し合いで穏便に――」
「リンタどいて、そいつ殺せない!」
「貴様、退かねば消すぞ」
「ははは、ごゆっくり~」
帰ってきた。
俺は二人の恫喝にすごすごとメイルさんの元へと戻ってきた。何やってんのみたいな目でメイルさんに見つめられるとなんかむ穴掘って埋まりたくなるけどしょうがないじゃん! だって二人とも怖いんだもん!
俺はメイルさんと少し離れて二人を見守る事にした。
多分すぐに決着はつくと思うけど、できればどっちも怪我しないで欲しいかもしれない。
俺の淡い希望を叶える気はさらさらなさそうな二人の横顔だけが静かに睨みあっている。
短い曲なら一曲くらい聴き終わってるんじゃないかってくらい二人とも動かずにいた。
始まりは突然だった。
「空雲極砕一身流、段位白狐、空雲夏苗参る!」
「よいぞその闘志、このバラムが全て受け切ってやろう!」
どっしりと身構えるクソガキにカナエが猛スピードで突っ込んだ。
そして俺はヒシヒシと感じる。流れ、変わりましたね。