ガムシロップ
読み切り小説です。
【甘くて苦い恋】がコンセプトです。
宜しければご覧下さい。
ある日の午後、日当たりのいいオープンテラスのカフェで彼女が言った。
「ガムシロップみたいな恋がしたいわ」
彼は思わず聞き返した。
「ガムシロップ?なんで?」
砂糖菓子みたいな甘い恋、という形容ならまだしも、ガムシロップみたいな、とはどんなものか想像がつきにくい。
一体どんな恋がしたいというのだろう?
彼の疑問に、彼女は未開封のガムシロップを手のひらで弄びながらこう答えた。
「だってコレ、凄く甘いくせに、砂糖よりも溶けやすくて、調整は自由じゃない?だから」
すぐに溶けて交わる、苦いも甘いも調整可能な恋。
彼女は、そんな恋がいいのだという。
「そうか。じゃあ、溶け残った砂糖はさしずめ、交わらない気持ちってとこかな」
彼の言葉に、彼女はへぇ~、と感嘆の声をあげた。
「あなたにしてはおしゃれな例えね」
「うん。まぁね」
たった今、その砂糖のような恋をしてるところだから。
彼は、出かけた言葉を胸に押しとどめた。
「そろそろ出よう。もう氷もすっかり溶けちゃったよ」
彼女のグラスには、すっかり溶けた氷が水と化していた。
「あら、ほんと。ずいぶん長く話し込んでたのね。あなたといるといつも話しすぎちゃうみたい」
そう言って彼女は嬉しそうに笑った。
「ねえ、また相談にのってくれる?」
「いいよ。僕で良ければいつでも」
カフェを出た彼は、これから待ち合わせなのだという彼女を笑顔で見送った。
自分の想いはまだ当分、ガムシロップのようにはなれそうもない。
そう思いながら、彼は小さく溜息を吐いた。
「いいさ、気長にやれば」
一年かけて良き相談相手の地位を築いた彼は、彼女の最も近しい友人の座を手に入れた。
今はまだ、それでいい。
彼はそんなふうに自分を納得させていた。
そんな彼と別れた後、彼女は待ち合わせていた別の友人に嘆いていた。
「・・・・うん。今日もだめだった。やっぱり今更告白なんて無理よ!」
「何言ってるの!絶対大丈夫だってば!彼氏と別れちゃうくらい好きなんでしょ?さっさと言っちゃいなさい!」
砂糖の恋がガムシロップの恋に変わる日が近い事を、彼はまだ、知らない。
読み切り小説
【ガムシロップ】
(完)
【甘くて苦い恋】がテーマだったこの作品。
いかがでしたか?
淡い恋の雰囲気をお楽しみ頂けていれば幸いです。