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1 ロザリオ

 二人は焼却炉の前に立っていた。彼らが見つめる先にはごうごうと燃える炎があり、その中に人間の手足を放り投げた。彼らの間に会話はなく、ただぱちぱちと燃え盛る音だけが響いている。

 少年も吸血鬼も血だらけであり、月明かりが照らし出す二人の顔は赤く染まっていた。

 吸血鬼は酷い不安に押しつぶされそうになっていた。本来、吸血鬼の心臓は動かないはずだが、今だけは激しい鼓動が聞こえてきてもおかしくなかった。それほど彼は動揺しており、漠然とした恐怖心に襲われていた。

 突然、ぐうと間抜けな音が響き渡った。

 吸血鬼は反射的に音のしたほうを見た。少年が驚いたような顔で腹に手を当てており、彼を見て音の正体が何なのかを察した。


「お腹が空いているのかい?」


 吸血鬼の問いかけに少年は答えなかった。

 長い沈黙が続いたあと、吸血鬼は名案を思いついて家の中に入った。キッチンで必要な物を用意してすぐに少年の元へ帰ってくる。彼が持ってきたのはシフォンケーキが乗った皿とフォークだった。


「紅茶のシフォンケーキだよ。もちろん無理に食べろとは言わない。吸血鬼の作ったケーキなんて気味が悪いだろうからね。とりあえず血は入ってないから安心して」


 吸血鬼は場を和まそうと無理に微笑みを浮かべた。血濡れた手でケーキを運ぶ姿はなんとも不気味であった。

 少年はいっさい表情を変えずに、差し出されたケーキをおとなしく受け取った。フォークを持ち、恐る恐るといった様子でシフォンケーキを一口食べる。よほどおいしかったのか、なにかに取りつかれたようにものすごい勢いでシフォンケーキを食らいつくした。

 あっという間に皿が空になり、少年はうつむいたまま動かなくなった。うんともすんとも言わなくなった少年を前に、吸血鬼はどうしたらいいかわからず困惑した。

 声をかけようとした次の瞬間、少年が顔を上げた。少年は大粒の涙を流していた


「おいしい」


 少年は声を震わせながら言った。

 感情を押し殺すように泣いている少年を見て胸を締め付けられた吸血鬼は、ひざまずいて彼を抱きしめた。


「大丈夫。なにがあっても必ず君を守ってみせる。約束するよ。君はなんにも悪くない。もう戦わなくていいし、自分を責める必要もない」


 吸血鬼は少年をひしと抱きしめて一つ一つ大切に言葉を紡いでいった。少年はしがみつくように吸血鬼の背中に手を回した。

 身を寄せ合う二人のすぐ近くで、ぱちぱちと火がはじけている。焼却炉のそばには、手足や頭、下半身が切り取られた胴体が置いてあった。

 首には血濡れたロザリオが二つかけられていた。

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