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4.エドワード視点


 

 

 意外な人物に俺たちは出会った。

 

「エドワード様! やっぱりいらしてたのね!」


 マリアンの温かな笑顔に自然とこちらも笑顔になる。

 しかしマリアンは誰と来たのだろうか?

 しばし話し込んでいると、彼女は俺の腕に触れてきた。


「エドワード様、まだお話が足りませんわ。あちらで続きをいたしましょう。――イブリン様も、よろしいですわよね?」


 イブリンが何の感情もこもらない声で「どうぞ」と言った。

 マリアンはイブリンの手が離れるのを見るやいなや、気安く俺の腕に触れてきた。本来なら未婚の婦人がするべき行動ではない。

 しかし甘やかされて育ったマリアンは人との距離のとり方が下手だった。


 俺はマリアンに促され、壁際のテーブルに座らされた。


「今日は誰と来たんだ?」


「お母様ですわ。ほらあちらに」


 マリアンが指差す方向にマリアンの母が誰かと話しているのが見えた。


「私、夜会にはあまり慣れていませんから不安でしたの。エドワード様を見つけられて良かったですわ」


「俺以外にも君をエスコートしたい男性ならたくさんいるだろうに」


「見知らぬ殿方は恐ろしいですわ。エドワード様ならその点安心できますわ」


 そこで楽団が準備を初めた。妻の方へ視線を向けると、数人の男たちに囲まれている。

 思わず腰が浮きかけるが、マリアンがそれを制止した。


「イブリン様なら慣れておられるから大丈夫ですわ。それよりもっと私とお話をしてくださいませエドワード様」


 そうは言うが、イブリンが既婚者だと知って声をかけている事にエドワードの中で嫉妬の炎が燃え上がる。その女は俺のものだ! 気安く話しかけるな!


 そう喉元までせり上がってきた言葉をエドワードはグッと飲み込む。

 マリアンの言葉は既に聞き流し、視線がイブリンを捉えて離さない。

 最初のダンスは夫と踊るべきなのだ。それをどこの馬ともしれない奴に先を越されるなど、屈辱でしかない。

 見知らぬ男に手を引かれ、踊り始める妻は恐ろしいほど美しかった。その栄誉に預かった男は鼻高々。

 今剣を持っていたら、どうなっていたことか。


「エドワード様! 私たちも踊りませんか?」


 無邪気に尋ねるマリアンだが、エドワードの心と視線は妻イブリンを捉えて離さない。


「いや、止めておくよ」


 それだけ言うとエドワードは怒りが爆発しないようにひたすら我慢した。




「今夜はお招きいただき、ありがとうございました」


 イブリンが卒なく礼を述べる。エドワードもそれに習い頭を下げる。


「このようなパーティーを催して下さり大変光栄でした。ありがとうございました」


 クロウハースト伯爵夫人は満足そうな笑顔を見せた。


 そして俺とイブリンは馬車に乗った。

 妻は窓から外を眺めている。

 すると思い出したように嫌味を言い始めた。


「マリアン嬢と随分と楽しそうにお話してらしたわね。あのように笑えるなんて、わたくし知りませんでしたわ」


 怒りがまだ収まっていなかったエドワードも嫌味で返した。


「貞淑な妻を娶ったはずが、最初のダンスで見知らぬ男と踊る、放埒な妻をいつの間にか娶ってしまったようだ」


 互いを傷つけ合う氷の刃。どうしていつもこうなってしまうのか。エドワードは頭を悩ませた。




 朝食の席でゴシップ誌を広げる妻の顔は真剣そのものだ。どうせ昨日のイブリンのダンスの話題で紙面はもちきりなのだろう。

 またあの時のダンスを思い出して怒りが再燃する。


 そこへ執事のフォスターが現れた。

 イブリンに近寄ると、「グレイ様がお越しになりました。如何なさいますか?」と伺っている。


 紙面を閉じて席を立つイブリンを俺は注意する。


「まだ食事の途中だ」


 皮肉げな笑みを浮かべるイブリンに俺は苛立つ。


「わたくしと食事をするより、お一人でお食べになる方が美味しいのでは?」


 その言葉にまた腹が立つ。彼女はあの“約束”を忘れてしまったのか?


「婚姻の儀の時の約束を忘れたか? “俺が戦地にいる時以外は、食事だけは必ず共にする”と誓ったのを」


 イブリンの顔が驚きに染まる。

 再び席に座り直したイブリンは朝食を再開する。


「トマスには食事が終わるまで待っているよう、伝えてちょうだい」


 執事は頷き食堂を出ていった。

 俺はわざとゆっくりと食べ進める。あの男にイブリンを会わせる時間を少しでも遅らせたかったからだった。


 

 

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