…楽しい?
今日は琴葉と一緒に2人っきりで映画。
…まぁ変なことは起こらないよね。
向こうも、友達と出かけるだけで変な気はないだろうし。
「そろそろ行くか〜」そう言って待ち合わせの15分前に着く。けどそこには知っている顔がいた。
その子は僕に気づいたようで、「透くん、来るの早いね〜。まだ十五分前だよ〜?」
「それを言うなら琴葉こそ、楽しみにしてて早く起きちゃった口でしょ?」からかうように言ったが求めてた反応とは全然ちがくて、「うん。楽しみにしてたよ…?」なんてしおらしく言う。
…なんでそんなしおらしいんだ!?友達と遊びに行くだけでしょ!?
心なしかなんか綺麗だし…
ダメダメ、俺には翡翠さんが…そんなことを考えていると陸と翡翠さんの顔を思い出し、何故か胸が締め付けられる感覚がした。
僕は誰が好きなんだろう…
ーーーそんな答えが出ない問いが頭の中で巡っていた。
気づけば映画は終わっていて、琴葉が目の前にいた。
「ねぇ透くん。今日、楽しかった…?」
映画館を出てすぐに聞かれた。
「え?どうして…?」笑って聞いてみる。
「今日ずっとなにか考え事してるみたいだったから…」
「大丈夫?」とでも言わんばかりの顔でこちらを見てきた。
考えていたことを言おうと思って、「実は…」
そう言おうとしたところで琴葉の後ろに居る3人組に気づいた。好きな人以外の女の子とデートしてるからかな。
陸の眼光が特に鋭い気がする…
冷ややかな視線に耐えきれず、足早にその場を後にした。
ふと気づくと琴葉の手を握っていた。「ごめん!!」そうやって謝ると「ううん。嫌じゃないから平気。むしろもっと握ってて欲しかったのに…」最後の方がよく聞き取れなかったので聞き返す。「ごめん、もっかい言ってくれる?」
そういうと琴葉は顔を赤くしながら「ううん、大したことじゃないの!!ただもっと繋いでたかったな〜って…」そう言って彼女はそっぽを向いて両手で顔を隠している。そんな焦れったい態度を取るせいで僕の顔が熱い。
そんなふうに考えていた矢先、陸、美咲さん、翡翠さんのあの顔が思い浮かぶ。
急に血の気が引く感覚がして、そっぽを向いた。
琴葉が心配してるだろうけど、気にすることができない。
自分のダメさを自覚して惨めになる。
好きな人がいながら他の女の人と遊びに行って、周りからはそりゃよく思われないだろう。
見られたくなかった。いっその事全てから逃げてしまいたい。好きな人から、友達から。
あの後、体調が悪いと嘘をついて有無も言わさず家に帰った。琴葉から連絡が来た。
話す元気も答える気力もないからと、思わず無視した。
僕は一貫性がないから、恋愛はしちゃダメな人間なんだ。
好きでいられる自信がない、好きでいられないなら恋人なんて作らなければ、悲しむことなんでなくなるのに…
そんな事が巡っている時、一通のメールが届いた。
『明日、昼休みに教室のベランダに来て』…陸からだった。
逃げたいと切に思ってしまう。それと同時に、ここで逃げたら自分はもう二度と自分のことを好きになれない気がする。
2つの事が対立して、歪みが生じるみたいに、視界が揺れている。世界はこんなにも不安定だっただろうか。
次の日の昼休み、目の前には陸がいた。
朝どうやって起きたのかさえ記憶にもないけれど、ここに来る約束だけは念頭にあった。
…顔が見れない。陸は今どんな顔して僕を見ているのだろうか。分からない。
きっと怒られる。罵倒もされるだろう。
むしろそうしてくれと言わんばかりに心の底から思っていると、「透、大丈夫?」聞こえたのは罵倒でも怒声でもなく心配する声だった。
「…え?」呆気にくれた。
むしろ罵ってくれたら逃げれたのに…
逃げ口に続くハシゴを外されたみたいだ。
「最近虚ろというか、心ここに在らずというか。翡翠が来ても、琴葉さんが話しかけても反応しないし…」本当に心配してる声色で言われた。
「だ、大丈夫だよ。ただ疲れてるだけだって。心配しないで」
引きつったような笑顔にしかならない。
笑い方さえ忘れちゃったみたいだ。
「透、吸って〜。吐いて〜。吸って〜。吐いて〜。」急に言われたから上手く息が吸えなくて咳をしてしまった。
「だ、大丈夫!?」そんな声をよそに「だ、大丈夫」そう言って深呼吸をする。
「…ありがとう、おかげで少し楽になった。」
「良かった。…透、琴葉さんと仲がいいのは別に責めはしないし、透の自由だから尊重するけど…翡翠の前では二度としないでね。」そう言い残して陸はどこかへ行ってしまった。
陸の言葉が頭から離れないまま、今日も日が暮れる。
透は、私です。
私は、逃げる人間です。
嫌なことからも、向き合うべき感情からも。
逃げるのは、防衛です。
自分を壊さないための、精一杯の方法です。
だから私は、逃げ道を塞ぐ人が嫌いです。
そして同時に、
逃げ道を塞いでくれた人に、
いちばん救われてきました。




