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1 いちばんの読者だったせんせい――書くことを教えてくれた人

このエッセイは、小説家になろうに小説を投稿した私の、ちょっと昔の話です。

誰かに読んでもらいたくて始めた「書くこと」について。

 先日、ついに『なろう』に自分で書いた小説を載せた。

 

 そう、なろうとはあの――

 異世界ファンタジーの申し子、数多のアニメを生み出した小説のゆりかご、一個人が小説を書いて投稿でき、その小説が読み放題のWebサイト『小説家になろう』である。


 なんでまた、なろうに投稿することになったかって?


 よせやい照れる。言わせんなよ。

 もちろん、いつかプロの小説家になりたいからだろうが!!


 ――なーんてわけはなく、長年抱いていた、やり残した感覚に終止符を打つためだった。

 

 いや、わけもなくはないのだが。だって、そりゃ物書きなら誰しも『書籍化』に少なからず憧れはあるものだ。


  


 ――このエッセイは、いつか筆が止まった未来の自分のための言葉だ。

 いつか本当の目的を見失い、評価を追い求めるようになってしまった未来の自分に対する戒めともなるように。


 忘れちゃいけない。

 ――なんで私が、書きたいと乞い願ったのか。

 

 

 ****


 

 私が初めて作品を書いたのは、6歳の時だった。

 テーマは確か、『将来の夢』



 当時の私は病気がちで、ろくに外で遊べない子供だった。行ったことがない場所も多くて、世界は知らないものだらけだった。


 それで書いたのが、『わたしのしょうらいのゆめは、夏の海でおよぐことです』からはじまる、行きたいことや、やりたいことを書き綴ったこの作文。

 

 なんで書こうとしたのかなんて、ちっとも覚えていない。書いていた最中の気分も、なにも思い出せない。


 ただ覚えているのは――


 担任の先生が、記念館の授賞式に一緒に来てくれて、私が作品を朗読した時、涙してくれたことだけ。


 それから私は、『せんせい(一番の読者)』の為に何枚も何枚もえんぴつを執った。

 

 その度に先生はすごく喜んでくれて――私は、賞状の枚数が増えることより、賞状の度に貰える(かもしれない)焼肉やケーキのご褒美より、先生が読んでくれること、それだけの為に何度も書いた。


 生まれて初めて、私が書いた言葉に泣いてくれた大人だ。家族でもなんでもない大人が、私の言葉に感動してくれた。


 気付けば6年が経っていた。私の卒業と共に、先生は定年退職した。


 ――でも私たちの関係はここで終わらない。


 

 ****


  

 中学校に上がってからも、私は先生に読んで欲しいがために書き続けた。

 先生とは卒業後も連絡をとっていたし、先生と生徒の関係じゃなくなったからこそ話せることもあった。


 私はなにかの賞に引っかかる度に、先生に報告して、また作品を読んでもらっていた。

 先生は、私の作品を大事そうに読んで、丁寧な感想文をしたためてくれたり、おすすめの作家の本をプレゼントしてくれたりした。


 私と先生の関係は、緩やかにずっと続いてきた。

 

 だが私は、高校生になり県内有数の私立の進学校に進んでしまう。1年の時から、4年制大学への受験を前提にした勉強漬けの毎日。

 

 ――特に行きたい大学があった訳じゃなかった。

 ただ、その私立は成績優秀者だけ奨学金が出るのだ。私は、その奨学金(あと制服の可愛さ)につられて、人生で初めて勉強のために徹夜することを覚えた。


 高校2年に上がり、結局勉強が苦手な私は自己推薦入試で大学を受けることを決意する。

 

 ――残念なことに、あんなに徹夜してまで2年間勉強したのに国語以外全ての教科がちっとも成長しなかったのである。

 付きっきりで放課後勉強に付き合ってくれた各教科の先生たちも、

「こんなに勉強してるのに……なんで……?」

 と、もはやさじを投げる始末。


 いやわかんないよ、私も。

 なんでこんなに勉強出来ないんだろうね??


 ――とにかく、自己推薦入試に切り替えたはいいものの、高校の担任いわく『大学の自己推薦入試は高校の推薦入試とはレベルが違う』とのこと。

 国語だけで勝負するなら、文学賞のひとつくらいとってないと厳しいからいますぐ受賞してこいというのだ。

 そんな無茶な。


 

 ――いくらなんでも無茶振りすぎる。

 そう思ったんだけど……

 

 高校に入ってから、私は勉強のために作品を書く時間全てを費やしてきた。

 だからこそ久しぶりに、「誰にも後ろ指を指されずに作品に没頭できる」ことが嬉しくて、夢中で書き上げてしまった。

 そしてその作品は――


 とある大学の文学賞を受賞したのである。

 


 そしてその甲斐あってか知らないが、私は無事自己推薦入試を突破できた。

 

 そしてバラ色の大学生活が――もちろん始まらない。



 ****


  

 考えても見てほしい。

 

 国語しかできない文学バカである。

 『文学少女』とでも名乗れば見栄えは良いが、要するにオタクである。


 大学生らしいキラキラなキャンパスライフは一切送らず、大学の学生証の特権をフル活用し、博物館、美術館、資料館、歴史館……などなどに入り浸る生活を送ることになる。

 学生証があると大抵の館で、無料あるいは半額で展示が見られるのだ。

 まだ活用したことがない学生がいれば、ぜひ試して欲しい。


 

 そんなこんなで、苦手な科目をことごとく避け、国語と文化だけに特化した授業を取り続けた私は、


 ――マジで就活に役に立たない、文系モンスターとなった。


 その後文系モンスターなりに頑張って、就職したのだが……

 現在転職5回目である、といえば察しのよい皆さんはお分かりだろう。


 いいんです、終わりよければすべてよし。

 何度就職しようが、最後の会社を辞めなければ。

 

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