表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

記録球(レコード・オーブ)

リオは、静かに歩いていた。


教室に戻る足取りは、いつもより重い。

理由はわかっている。視線、囁き、距離感──


全てが、彼を中心に“ズレ”始めていた。


(魔喰者……)


そう呼ばれる存在。自分の意思で魔法を“喰う”力。


それは人々の恐怖や畏怖を惹きつけ、無意識に“隔たり”を生む。


ドアを開けた瞬間、室内の空気がピンと張った。


誰もが黙り込む。誰もが、彼を見ている──


(知っている。もう、そういう目で見られるんだ)


それでも、リオは席に着いた。


「……おはよう」


その声に、返事はなかった。


午後の実技演習では、魔法障壁の展開訓練が行われていた。


一人一人が自分の魔力で防御結界を張り、講師の放つ軽魔術に耐えるという内容。


「次、アルヴェイン」


リオは無言で前に出た。


(防御結界……出力だけなら、問題ない。けど)


彼が魔力を展開しようとした瞬間、周囲の魔力がざわめいた。


“喰われるかもしれない”という集団の警戒が、空気を固くする。


(……ああ、もう、俺は“普通”に動くことすら許されないのか)


リオの掌が震える。魔力は制御されないまま、宙に溶けた。


その日の放課後。


リオは学院の裏手、立ち入り禁止区域に足を踏み入れていた。


朽ちた旧資料棟。その地下には、使われなくなった観測設備が残っているという噂があった。


彼はその最深部──錆びた装置の奥で、“それ”を見つけた。


球体。

淡い光を内包した、手のひら大の透明な球。


「これは……?」


触れた瞬間、意識が引きずり込まれる。


──闇の中。


声がする。誰かの記録。

叫び、懺悔、祈り、誓い。何千、何万という“想い”が流れ込んでくる。


《記録球──コード名:オーブNo.88。封印状態。再生不可》


その声は機械のようで、人のようでもあった。


《この記録は、閲覧資格を有する者にのみ開示される》


そして最後に、問いが響く。


《──お前は、“記録”に触れる覚悟があるか?》


「……っ!」


リオは飛び起きた。気づけば、球体は手の中にはなかった。


(夢……?)


だが、その掌には確かな感触が残っていた。


その夜。


セリアは寄宿舎の自室で、手紙を書いていた。


──差出人は不明、だが“記録球に近づいた”という報告が既に上がっていたのだ。


「やっぱり、リオ……君は、何かに引かれている」


静かに、灯火が揺れた。


そして窓の外。誰にも気づかれぬよう、一つの影が屋根の上を跳ねていた。


黒い外套に身を包んだ、監視者のような存在が。


(始まったか……)


夜の風が、その名を囁く。


“異端の魔喰者デヴォル


それが、本当に“始まった”のだと──

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ