表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

黒き喰魔の輪郭

あの瞬間から、学院の空気が変わった。


リオが再び“魔法を消した”ことで、彼は確実に異端の視線を向けられていた。

称賛ではなく、警戒。そして恐れ。


リオ自身も、その目線を強く感じていた。


──俺はもう、“普通”には戻れない。


「……この部屋、今日から君の専用部屋になる」


翌日、教官に案内されたのは、研究棟の奥にある小さな個室だった。

名目は“魔力適性特例者向け観察室”。だが、実質的には隔離だった。


「気にすることはない。優秀な適性持ちは、早期に監査対象となるのが学院の方針だ」


淡々と語る教官に、リオはわずかに眉を動かした。


(監視されている)


それは分かっていた。だが、反論する術はない。

自分ですら制御できない力を持っているのだから、当然といえば当然だ。


その夜、リオはひとり部屋の中央に座っていた。

部屋の空気は静かすぎて、かえってざわついていた。


手を前に出す。意識を集中する。

──“それ”は、すぐに応えた。


ズン、と沈む圧。


空間が歪み、光の粒子が吸い込まれる。


「……俺の中に、いるのか」


そう、語りかけるように呟く。


答えはない。けれど確かに“存在”していた。


(魔法を喰う力。それが、俺の中にある)


(じゃあ、こいつは──何者なんだ)


学院中枢。

ゼクス・ヴァルグレアは、一枚の報告書を手にしていた。


【対象:リオ・アルヴェイン】

【観察レベル:中 → 高に変更】

【魔法消失現象、再確認】

【対象の意思介在の有無:不明】


「意思があるかどうかも不明……」


彼は報告書を閉じ、立ち上がった。


(いずれ、あれは“制御の有無”ではなく、“対話”の問題になる)


(自分の中の異物に、どう向き合うか──)


翌朝。

リオは再び訓練場へ向かっていた。


そこでは簡易試験が行われていた。

学院関係者数名と、魔力量測の研究員が立ち会っている。


「今日は、君自身が望んだ魔力干渉テストだ。形式は自由。制御できるかどうかを測る」


教官の声に、リオは小さく頷いた。


すでに“喰らう”ことが起きるのは明白だ。

ならば──制御するのではなく、“対話”してみせる。


彼は目を閉じ、両手を広げる。


静寂。風が止まる。


その瞬間、視界の奥に、黒い“何か”が浮かんだ気がした。


──喰うか?


言葉ではない。

だが、確かに聞こえた。


リオは、目を開く。


「……俺が望まなければ、喰うな」


沈黙。


次の瞬間、術者が放った模擬魔法がリオに向かって飛ぶ。


雷の槍──それはリオに触れる寸前で、音もなく消えた。


「……命令、通った?」


彼は呆然と手を見つめた。

“喰った”のではない。“喰わなかった”のだ。


彼が望まなければ、“それ”は従った。


(意思を通せる……俺に)


リオは気づいていなかった。


その瞬間を遠くから見ていた、もうひとりの存在がいることに。


黒衣をまとい、観測塔の影から彼を見つめる影。


「……目覚め始めた、か。異端の魔喰者デヴォル


その声は、朝の霞に紛れて消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ