初めての魔法
「父上、剣術を教えてください。」
ある日、ステラは父親のクロヤ・ノクターンに剣術を教えてもらおうと頼んだ。
『お前がやる気を出すなんて珍しいな。』
頭の中に天使の声が響く。
『これには理由があるんだよ。』
ドヤ顔で天使に説明する。
『僕は勇者として戦う事になるだろ?』
『それはそうだな。』
『それなら、勇者になってから剣術をするより
、今からやった方がタイパが良いじゃん。』
天使は何か言いたげな顔をする。
『どうしたんだ。』
『いや、良いや、まあすぐ分かるよ。』
天使が何を言っているのかよく分からないまま、訓練のために中庭に移動する。
「よーし、ステラ、始めるぞ。」
クロヤが木刀を持ってやって来る。
「はい、父上。」
そうして、クロヤが地面に置いた木刀を持ち上げようとするが、びくともしない。
『あぁ言わんこっちゃない。』
天使の呆れる様な声が頭の中で響く。
『どういう事だよ。』
剣を抜こうとしながら、天使に説明を求める。
『お前、前世の事を思い出してみろ。四、五歳の時に何キロの物を持てたか覚えてるか?』
『それは…』
そう言われて、目の前の木刀を見てみる。明らかに子供用ではなく、今の自分には余りにも不釣り合いな大きさのそれは、到底持ち上げられなさそうに思えた。
『でも、』
しかし、彼には意地があった。曲がりなりにも勇者に選ばれた者としての、確かな意地があった。
木刀を抱え込む様な形で持ち、全身の力を込める。
「ぬぬぬ…」
顔が真っ赤になり、腕もプルプル震えている。
『なんで魔力使わないんだ?』
天使が心底不思議そうな声で聞いて来る。
『なんだそれ?』
それを聞いて、天使は思い出す。
『あ、説明し忘れてた。取り敢えず、丹田、あ~、おヘソの少し下辺りに力入れてみ。』
一度剣から手を離し、言われた通りにすると、体の周りにオーラのようなものが出てくる。
『よしその調子だ。そのまま剣を持ってみろ。』
前世でも感じたことのない感覚に戸惑いながらも、剣を再び握ってみる。
「あ、取れた。」
「おぉ、流石はわが息子、一度触れただけでこの大人でも扱いが難しい剣を持ち上げるとは。」
クロヤは嬉しそうだ。
それはそれとして、なんでそんなものにしたという文句をグッとこらえて、先程までとはるかに違う魔法を使う感覚について考える。
『なるほど、こうやってあんな重い武器を。』
そのまま、剣を振ってみる。
『けっこう難しいと思ったんだがな、まさか一発で成功させるとは。』天使はクックックッと笑い、周りを飛んでいる。例のごとく、ステラにしか見えていない。
『まぁ良かった。頑張れよ。』
そう言うと、体が透けていき、天使は消えた。
「ありがとな。」
小さく天使への感謝を述べる。
「さて、始めるか。」
そう言うと、クロヤはステラの持ち上げた剣の数倍はある剣を片手で持ち上げ、ブンブン振り回す。
「ぇ」
ステラは悟った。頼む人間を間違えた、と
数日後
「よし、社交パーティーに行くぞ。」
この父親はいきなり何を言うんだ。
突然、クロヤが部屋に入ってきて、意味不明な事を言い出した。
「父上、今度は何を言い出すのですか。」
数日前の常人には耐えられない様な稽古のせいで、全身が筋肉痛になり、魔法の特訓のために部屋で魔法書を読み漁っていた所だったのだが。
「いや、前から言っていたではないか。」
そう言って、壁のカレンダーを指さす。
ある1日に赤くマークが付いていた。
「…明日では?」
それは明日の位置についていた。
「行くのに1日かかるからな。」
あり得ない程にあっさりと言う。
嘘だろ。




