1 騎士は「もっとハレンチにできるぞ」と言う
ぬるいですが、色々表現がありますので、ご注意ください。
「ふん、貴方なら、わたくしの前に跪いて忠誠の証を見せる事ぐらいできるでしょう?」
アリエス・フォン・グロリア公爵令嬢は、傲慢に笑いながら後ろに控える騎士に言い放った。
表面上は穏やかだったティーパーティーの雰囲気は地に落ちた。
周囲は気色ばみ、口々にアリエスを批判する。
また、無茶をいわれた騎士に対して同情の目を向けた。
アリエスは高慢で身勝手、逆らうものを許さない。そんな噂がまことしやかに流れている令嬢だった。
つり上がったキツい目尻に、炎のような深紅の瞳。
たっぷりとボリュームのあるブロンドが、細い首筋をくすぐっている。
いかにも男が好む抜群のプロポーションを持つ彼女に、求婚の列はとぎれないという。
王国一の大貴族の次女。王太子妃の妹。次期女公爵、それが、アリエス・フォン・グロリアだった。
そんな彼女に傅く寡黙な騎士は、ギルバート・ウォード。平民ながら王立騎士団の師団長にまで上り詰めた実力を持つ騎士だ。
しかし、その実力に目をつけられ、今では悪名高いアリエスの専属騎士である。
漆黒の騎士服に身を包み、灰色の瞳は珍しく動揺しているのか見開かれている。
襟足だけ長い黒髪と、左眉に小さな古傷があり、それがまた彼の野性的な魅力となっていた。
「なにをためらっているのかしら?犬にでもできることよ?」
「やめてください、アリエス様!いくらギルバートがあなたの騎士になったからといって、彼を侮辱して良いはずがありません!」
たまらず、といった様子で声をあげたのは、王国の聖女。リリアだ。
彼女は平民ながら神聖力に目覚め、つい先日聖女となった時の人である。
「あらあら、聖女様はずいぶんとわたくしの騎士と仲よろしいのね。ねぇウォード卿?今からでもお優しい聖女様の騎士にーーひゃぁっ」
ふん、と鼻で笑うように嘲ったアリエスが、急にすっとんきょんな声をあげた。
周囲の人々は、え?とアリエスを見る。
「ちょ、ちょっと!な、なななにしているのよっ!あっ、まって!ぃやぁっ」
「え?ちょっとギルバート?」
周囲の令嬢や令息は思わず目を見張った。いつも高慢な笑みを崩さないアリエスが、急に顔を真っ赤にして慌てふためいているのだ。
その足下に目をやると、ギルバートがなんのためらいもなくアリエスの足の甲に口づけをしていた。
いやそればかりか、真っ赤なヒールを脱がし、その美しい指に舌を這わせている。
ゆっくりと小指を舐めたかと思えば、形の良い足の親指をぱくりと口に含んだ。
「う、うそっやめなさい!そんなっきたないわよっ」
アリエスが噂通りだったならば、余裕の笑みを浮かべながら、その卑猥な行いを受け入れていることだろう。しかし今アリエスは慌てふためいて涙目すら浮かべている。
あまりにも困っている様子に、周囲が、さすがにおかしいぞ、と首を傾げ始めた。
「あ、あの・・・ウォード卿?もうやめたほうが・・・ヒィッ!」
邪魔するなといわんばかりの眼光に、戦場も知らぬ貴族の令息は失神寸前となる。
もはやアリエスの反応を楽しんでいるように、めったに動きを見せない唇が、ニィと歪んだ。
「も、もういい加減になさいっ!このっ駄犬!」
ぺしりとあまりにも弱々しい打撃で、アリエスはギルバートの額に扇子を当てた。
ギルバートは目を見張り、動きを止め、少し目を見張った。
「あ・・・痛かったかしら?」
蚊も仕留められないほどの弱さで、なにが痛いのか。しかしアリエスは困ったように眉を寄せ、自分がたたいてしまったその額を細く美しい指でゆったり撫でた。
「ウォード卿?どうかした? ーーハッ!んん゛っ!」
アリエスは気を取り直すように咳払いをすると、ビシッと扇子でギルバートを指す。
「あんなハレンチなことをしろだなんて言ってないわ!」
真っ赤になりながらもギルバートを叱るアリエス。
しかし本人は、何も堪えていないのか、自然な動作でアリエスに恭しくヒールを履かせる。そしてなぜ怒られたのかわからないとばかりに首をひねった。
「命令通りしただけです」
「どう考えてもやり過ぎだわ!忠誠のって言いました!あなたの忠誠のキスはっあ、あんなっあんなにハレンチなの!?信じられないわ!」
キィキィ怒るアリエスに、ギルバートは暫し考えてやがてポンと思いついたような仕草をする。
「もっとハレンチにできるぞ?」
「ぎっギルバート・ウォード卿っ!」
今度こそアリエスの扇子がギルバートの額にクリーンヒットした。
ちまちま更新する予定です。どうぞよろしくおねがいします。