7話 努力の先に
1. 文章・作品を書くのは得意ではないです。
2. 語彙力はないので簡単な言葉が多いです。
それを踏まえた上で作品を楽しんでください。
※この作品は実在をもとにしたフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。
登場人物
・音野 利木 生徒会会長補佐
目を覚ますと、名もない世界にいた。ここに来た記憶はない。そこから、雫と出会うことになった。雫曰く、この世界に来た人は過去の記憶がないということだ。そこから生徒会へ入ることになり、この世界の謎を探すことになった。
・雨空 雫 生徒会長
この世界を一番最初にたどり着いた人物。生徒会のリーダーとして、仲間をまとめている存在。この世界に来た当時から謎を探しているみたいだ。
・岩浅 優奈 生徒会副会長
頼りがいがある、お姉さんのような存在。雫と似た性格だけど、サポートをする存在。よく男連中が暴れることがあるため、怒ると怖い。止めに入ることがしばしば。
・水野 凛 生徒会書記サポート
一歩引いた位置にいることが多く、『はる』とは、とても仲がいい。『はる』の可愛さに嫉妬してしまうこともあるけど、可愛いものに目がない。はるを守るようにいつも一緒にいる。
・澤味 はる(さわみ はる) 生徒会書記
見た目は、かわいい女子生徒。だけど、実は体は男で、心は女。いわゆる性別違和だ。そんな『はる』の事情は仲間は知っているが、女子生徒として接している。
・東条 七 生徒会風紀委員
生徒会仲間の中では頭は良く、周りのことが良くみえて冷静な判断ができる。それがマイナスになることもあり、頑固になることもある。人よりゾーンに入りやすく、たまに周りが見えないことも。
・山岡 海 生徒会無職
少し口調は強めだが、仲間思いで男子たちとバカをして遊ぶことも見受けられる。根は優しく、体を張る場面も。口調が強いのは、弱い自分を隠すためにあるのだとか。
・吉野 久吉 生徒会バカ担当
見た目は優等生に見えて、中身はかなりのバカ。いつも、遊んでいると必ず最初にドジをしてしまう。そんな吉久だが、バカをしても皆が笑ってくれるのが、心から嬉しいと思ってる。
・夜空 陣 生徒会会計
男子と共にバカ騒ぎを起こすが、その中でも冷静で真面目な性格。面白い、楽しいという理由で一緒になって遊んでいる。本来はここにいる立場ではないが、楽しいという思いがあり一緒にいることも。
よりにもよって、私がアンカーか…
体力には自信があるとはいえど、さすがに出来すぎなように思う。
雫はなぜ私をアンカーにしたのだろう…
主役は最後ということなのか、それともさっき言った体力のある私を最後にした、どちらでもありえそうだけど、今は優勝をすることに集中をしなければならない。
「さて、みんな準備はできたかしら?参加者は給水ポイントはしっかりと、水分補給をするように」
いよいよ、マラソン大会が始まる。
僕たちにとっては、とても大事なミッションでもある。だから優勝しないといけない。
「一つここでみんなに伝えなければいけないことがあるわ。この世界では校舎の外には出ることが出来ない。これは世界の仕組みでもあるわ。だけど、今回は校舎の外に出れることになっているわ。その理由として、マラソン大会のコースが校舎の外にあるからよ。コースを外れた場合、外れた道に行くことは出来ないから迷うことがないわ」
この世界のルールが一つ知れた。
基本校舎から外に出ることは出来ない。だけど、今回は例外が発生した。
何かのイベントが起きれば、出来ないことが出来るということ。
そのルールが今回、適応されたということだ。
「今回のマラソン大会のルールを説明するわ。参加者は五名。各区間を走り、バトンを繋いでゴールと目指す。第三走者は折り返し地点があるため、折り返し来た道を帰ってくるコースとなるわ。最終的には、スタートラインがゴールラインになる。私が折り返し地点を経由することになるわね。アンカーの凛はスタートラインであるゴールを目指すことになる。これが今回のルールよ」
一本道ではなく、来た道を帰ってくることになるか。
各区間が用意されてるということは、あらかじめ先に出発して準備をしなければならないのか。
「各区間のゴールには、残ったメンバーが待っているわ。特に理由はないが、走り終わったサポートや始まる前のおしゃべりでもすればいいよ。さて、その各区間の配置メンバーを紹介するわ。第二走者のスタートライン、第五走者のスタートラインには陣・海が待機しているわ。第三走者のスタートライン、第四走者のスタートラインには七が待機。ゴール地点には、はるが待っているわ。ゴールで凛が見えたとき、一番元気が出るのは、はるしかいないと判断したわ。挫けそうなとき、元気をもらうとき、そこにはるがいれば、凛は最後の力を発揮できると考えたわ」
雫はしっかりと仲間のことを思って、残りメンバーを配置してくれたんだ。
最後に相応しいはる。それは凛が一番勇気づけることが出来る。
「そろそろ時間ね。スタートが遠いメンバーは先に出発するわよ。準備出来たら私のところに来てね」
雫はそう言って、みんなが来ることを待った。
雫以外のメンバーが集まり、マラソン大会について話した。
「そろそろマラソン大会が始まるな。緊張するよ」
僕は緊張を隠すことが出来ず、言葉に出てしまった。
「僕は緊張なんかしてないよ。いつも通り平常心さ。最初、できるだけリードをつけて、優奈にバトンを託すよ」
久吉は緊張することはなく、ただ優奈のことだけを考えていた。
「こういう時、久吉くんは頼りになるね。私は必ず抜かされると思うけど、それでも私のできる範囲で雫ちゃんにバトンを繋げる努力をするわ」
昨日はマイナスになっていた優奈だったが、今日は気持ちを切り替えていた。やる気に満ちていた。
全ては凛のためを思って、気持ちが前へ向いていた。
「俺たちは何も出来ないけど、応援はできるからな。まあ、頑張って」
海は不器用ながらも、参加者に声援を送った。
「僕もやれる範囲で頑張ってみるよ。最後の凛の為にね。プレッシャーみたいな感じになってしまうけど」
「それくらいがちょうどいいわ。私にはそれを背負うくらいのものがないといけないからね」
凛は強気だ。
特に今日の凛は。
「さて、雫のところに行って先に行く僕たちは雫とスタートラインまで行くよ」
「みんな頑張って!」
はるはみんなに声援を送った。
そして、僕たちは雫のもとへ向かった。
「準備できたみたいね。それじゃあ、私たちは先に行って待ってるわ。久吉、できるだけリードして優奈にバトンを渡すのよ」
「任して!僕はこう見えてもやる時はやる男だからな!」
自分で言うか、おい。
「頑張れ!」という意味で、みんなは久吉にハイタッチをした。
久吉を残し、僕たちは第二兼第五スタート地点へ移動した。
「私、頑張るといったけどやっぱり不安になってきたよ…」
優奈は心のどこかに不安は残っていたみたいだ。
正直、今日走るメンバーの中では一番体力がない。
足を引っ張るという罪悪感があっても仕方ない。
「優奈は自分がやれることを精一杯すればいいわ。後は、私や利木くん、最後には凛がいるのだから心配なんてしなくてもいい。むしろ、このマラソン大会はチームで走る。不足してるものは誰かが補っていけば良いだけの話よ」
「そうだよね…うん、やってみるよ。私が行けるところまで、私なりにやってみるよ」
「その意気ですよ。優奈さん。私は今回見守る側ですが、声をかけて応援するくらいはできます。むしろ、それしかできないことが悔しいですが。でも、優奈さんを始め、残りのみんながきっとやってくれますよ」
七が優奈に元気づけた。
こう見てみると、七もかなり変わったなと思う。
前は暗く、声をかけづらい雰囲気だったが、今では明るい性格に変わっている。
自分の生きたいように生きている。そんな感じがする。
話をしていると、第二、第四スタートラインに着いた。
ここで、優奈と僕が走る。それを見守るように、陣と海が残った。
「私が雫ちゃんにバトンを預けた後、利木くんを見届けた後、私たちは歩いてゴールの方へ向かうね。ゴールには行けないけど、ライブ配信があるからそれを見ながらゴールへ向かうことにするよ」
「ゆっくりでいいからな、優奈」
海は優奈に優しく声をかけた。
「頑張ってくるから、海」
「私たちは第三スタートラインのところに行くから後はよろしくね」
「雫、利木、そっちも頑張れよ!待ってるぞ」
海は僕たちに言葉を残し、雫、七、僕はスタートラインへ向かった。
「にしても、第二兼第五区画は人多いな」
海の言葉を聞いて周りを見渡すと、他のところよりも人が多い。
それも当たり前で、ここの場所と次の場所にはスタートラインが二つある。
それもあって人が多く集まる。
「陣、優奈を見送った後、先にゴール場所に居ててもいいんだぞ」
海は陣にに声をかけた。
「優奈の帰りをここで待つよ。その間に凛ちゃんがスタートするかもしれないしね」
「私のことは気にしなくてもいいわ。私は一人で大丈夫だし」
「凛ちゃん、頑張ってね。応援してるから」
「任せなさい。私が一番でゴールしてみせるから」
「それより凛よ。俺の事忘れてないか?一応、利木と凛を見送る役にもなっているんだが」
「すっかり忘れていたわ。人が多くてややこしいからね」
「まったく…なんにせよ、凛、最後頑張れよ!」
「言われなくてもわかってるわよ。私の体力なめないでよね。いつも、久吉を蹴り飛ばしているのだから」
「ほどほどにしてやってくれよ」
陣、海と凛の会話で緊張は少し解けた。
「そろそろ向こうも着く頃だろうし、もう少ししたら始まるね。気合入れて頑張ろう!」
優奈、陣、そして海と凛は交互にハイタッチを交わし、気合を入れた。
そのころ、雫と七、後僕はスタートラインへ向かっていた。
「雫、優奈の事大丈夫か心配になりました」
「大丈夫よ。男連中が元気づけていると思うし、何より始まってしまえば誰だって緊張は解けるもの」
「雫、一応僕もここにいるのですが…」
「そうだったわね。利木くんも同じスタートラインだったわね。
完全に忘れていたようだ。
それもそうだ。前には雫と七が歩き、その後ろに僕が歩いているから、視界には入っていない。
少し悲しいと思ったけど、まあいつも通りの様子だし気にはしていない。
「球技大会nの時、始まってしまえば不安要素は無くなりましたよね。なんか不二義ですね。でも、さすがに負けそうなときは、ヒヤッとしましたけどね」
「あの時はね。でも、遅れた時の分は私が何とか巻き返してやるわ。なんだってこの生徒会会長ですもの」
「雫、僕も一応います」
「わかってるわよ。利木くんも精一杯頑張りなさい!そして、凛にバトンを渡すのよ!」
「了解です。言われなくてもその気にいるつもりですから」
「でも流石ですね、雫は。こんな時でも平常心なんて。今回のマラソン大会は今までの中でも難易度が高いですよ。チームで頑張らないとですね」
まずは優奈がどこまで頑張ってこられるかだわ。
そこで、今後の期待度が変わってくる。とはいえど、想定通りではあるから、後は私含め利木くん、凛がどこまで頑張れるかで変わってくる。
始まってみないとわからないからね。
さて、どうしたものか…
「そろそろ第三スタートラインに着きますね。私はここで、見守ることしかできませんが、私たちの分まで頑張ってください。プレッシャーになってしまう言い方になってしまいましたが」
「深く考えすぎなのよ、七は」
「そこも含めて七なのかもしれないけどね。今の七は」
「さてみんなに連絡を入れるわ。そろそろ始まるみたいだしね」
そういって雫はスマートフォンを取り出し、グループメッセージを送った。
『みんな、私たちは着いたわ。もう少しでスタートの時間よ。不安も緊張もあると思うわ。結果がどうであれ、自分の出せる最大限の力を出し切るのよ。私からは以上だわ』
雫からのメッセージだ。
もう始まるのか。緊張してきたけど、僕の走る順番は四番目なんだよな。
待つ時間が長ければ長いほど、緊張感がすごいんだよな。
メッセージが来た後、アナウンスが流れた。
『これより、マラソン大会を開始します。各代表者の皆さんはスタートラインに集合してください。五分後に開始アナウンスを行いますので、各自準備してください』
そろそろ始まったか。マラソン大会が。
僕たちにとっては大事な大会。
優勝をしなければならない。
それがミッションの条件をなのだから。
第一スタートラインの久吉は
「(緊張してきたー。でも、僕ができるだけリードをして優奈にバトンを託す。そのことだけを頭に入れて走ろう)」
僕は何としてでも優奈にバトンを託す。安心してあげられるように。
久吉、ここで見せなければ!
第二兼第五スタートラインではというと。
「始まるね。参加しない僕でも緊張してきたよ」
「お前が緊張してどうするんだよ、陣」
「そうよ、走るのは私と優奈よ」
凛は腕を組みながら言った。
「だって、自分の事のように感じてしまうよ」
「私の方がもっと緊張してるよ。でも、頑張るってずっと思っているよ。みんながんばろうね」
優奈が一番緊張しているのは確か。
それでも、頑張るという姿勢は変わらなかった。
最後に僕たちがいる、第三兼第四スタートライン。
「そろそろ始まるね、雫。待ってるよ、この場所でバトンを受け取るのを」
「任せておきなさい。安心してバトンを渡せるようにしてあげるわ」
そう意気込んで僕たちのマラソン大会は始まった。
『これよりマラソン大会を開始します。各選手はスタート位置へ』
アナウンスが流れたあと、第一走者の人たちはスタートラインへ立った。
『開始五秒前、五、四、三、二、一、スタート!』
アナウンスのスタートと同時に、火薬の入った鉄砲が撃たれた。
辺りは火薬のにおいに包まれながら、第一走者たちは走り出した。
スタートは無事に出れた。遅れることなく、むしろオーバーペースではと思うくらいに久吉は先頭で走っていた。
各スタート位置にはライブ中継がされている。
それをみた凛は
「少しオーバーペース過ぎない?あのバカ」
それを見ている三人たち。
「確かにオーバーペースではあるけど、久吉なりに考えがあるんだろう、凛」
海は凛にそう言った。
「うん…例えば最初に突き放し、道中は息を入れる作戦じゃないかな?その後、また突き放すみたいな」
最初のオーバーペースを利用して、セーフティーリードを保ち、道中でスタミナを回復させておく。その後にまた、ラストスパートさせる。
それが久吉の考えだ。
久吉が考えてることを陣は読んでいたかのように、みんなに説明した。
「それなら、納得だけどそれって久吉なりに優奈のためを思っての、無理のある作戦ってことになるんじゃないの?」
凛はそう考えた。
陣はそれを答えるように返事を返した。
「多分そうだと思う。自分のギリギリの体力を考えて走っているんだと思うよ」
「バカでも仲間思いの久吉だから、無理してでも優奈にバトンをつなぎたいんだろうよ」
海は言った。
それをみた優奈は心の中で「頑張らないと!」という感情が沸き上がってきている。
「今はそれでいいと思うけど、一人で前を走っている分、空気抵抗を受けやすく、スタミナはどんどんと消費されやすいんだよ」
陣は解説した。
優奈は聞いてきた。
「久吉くんの考えが上手く行っている今、それも想像通りじゃないの?」
「二番手以降の集団を見てもらえばわかるけど、選手の後ろで走っている人がいるでしょ?あの人たちは、前で走っている選手よりも空気抵抗を受けにくいんだよ。だから、ぴったりと後ろについて走っているんだよ」
「なるほどね。結構、奥深いんだね」
「優奈は何も考えなくてもいいよ。自分のスピードで走り続けることだけを考えるといいよ」
陣は優奈にアドバイスをした。
それを聞いた優奈は「わかった」と頷いた。
久吉のオーバーペースは、七も気づいていた。
「雫、久吉くんオーバーペースですね。彼なりの策略としか言えないのですが、さすがにこれでは最後まで持つかどうかですが」
「知っているわ。私も気づいていたわ。優奈のことを思っての事でしょうね。自分なりの努力の方向性。限界を試しているんでしょう」
「やっぱり気づいていたんですね。作戦がないとはいえ、まさか久吉くん自身が考えて行動を行うとは、想定外でした」
僕は七のことを聞いて理解した。
ただ単に暴走しているだけと思っていた。けど、久吉なりの作戦があったことに僕は初めて知った。
後半どのようになるか、気になる。
序盤は終わり中盤から後半に差し掛かった。
給水ポイントでしっかりと、水分補給をしていた。
最初、大きくリードしていたが、中盤はスタミナ回復に専念していた。
そのため、後ろとの差が縮まっていた。二番手以降は、久吉が疲れてると勘違いしてスピードアップを図ったようだ。
それもあって、中盤の二番手以降の選手たちはスタミナを使い差を一気に縮めてきた。
その策着は久吉の手の内だった。
それをみた久吉は後半、再度スピードアップし、スピードを維持したまま、リードして優奈に託す作戦だ。
本人もそれが最後まで続くとは思ってない。だけど、優奈のことを考えるとそれしかないと、久吉本人が考えた戦略だ。
予想通り、ゴールが近づくにつれて久吉のスピードは落ちてきた。
「やっぱり、最後までは無理のようですね。でも、本人もそれをわかっての行動でしょうから、彼の気力で乗り越えるしかなさそうですね」
七はつぶやいた。
それは、陣たちにも見てわかっていた。
「優奈の為にここまで本気の久吉くんを見たの初めてです。僕は」
「俺も初めて見たよ。こんな必死の久吉は」
みんな初めて見る久吉の表情だった。
顔を引きずりながらも、一生懸命に前を向いて走っている姿を。
今にでも足が止まりそうな。
それでも久吉は走り続けた。
走り続けた結果、優奈から久吉が見えた。
まだリードは保ったままだ。
それをみた優奈は
「久吉くん!頑張って!私君の努力を無駄にしてしまうかもしれない。でも、最後まで私は走り続けるから!だから、最後まで頑張って走って!」
優奈は自然と声が出た。
それを聞いた久吉は最後の最後まで振り絞って走り続けた。
そして、久吉の持っている襷を優奈に渡した。
「自分のペースで良いか、最後まで走り切ってね…がんばって…」
そう言い残して、第二走者の優奈が走り出した。
「久吉のバカ、やる時はやる男なんだね。見直したわ。お疲れ様」
凛が珍しく久吉を褒めた。
タオルと水の入ったボトルを久吉に渡した。
「でしょ…やればできる人間なんですよ」
「自分で言うからバカなんだよ、久吉は!」
いつものやり取りが始まった。
けど、久吉は倒れこんだ。
「お疲れ、久吉くん」
「お前、よくやったな。あんなに本気の久吉みたの初めてだわ。あとはゆっくりしときな」
久吉は倒れながらライブ配信を見ていた。
優奈の行方を見守るかのように。
バトンは第二走者の優奈に渡った。
優奈は自分のペースを守り、走ることだけを専念した。
「(私自身、スタミナもない。これと言ったことものも、このマラソン大会にはない。だけど、久吉くんの頑張りを無駄にしないためにも、私は私のペースで走り続ける)」
久吉のリードは無駄にはならないように優奈は、自分のペースで走り続けた。
雫たちの方では僕を含め、優奈の走りを見届けていた。
「優奈は自分の走りを守り続けて走ると言ってた。たとえ抜かされたとしても。雫、君も無理はせず自分のペースで走り続けなよ」
僕は雫に言った。
無理はするなと。
だけど、雫は違った。
「久吉の走り、優奈の頑張る姿。それを観たら私も頑張るしかないじゃない」
雫は本気だった。
雫も自らのギリギリの力を出し切るつもりでいた。
「そう、ならどんな状況になったとしても、約束するよ。僕は最高の形で凛にバトンを渡すと」
「当り前よ!それが君の役割なんだからね。だから四番目にしたのよ!」
それを見越して僕を四番目にしたのか。
全部お見通しってわけね。
一方、倒れこんだ久吉はというと。
「僕は先にゴールに戻るよ。はるのところにね」
「ちょっと!さっきまで、あんなにへとへとなのに、もう戻るつもりなの!?」
「少し休んだことだし、先に戻るよ。待ってるよ、凛」
「ちょっと!」
凛は止めに入ったが陣が言った。
「僕が久吉を見送るからだい大丈夫。それより、最後まで入れなくてごめんね、凛。海くん、後は任せたよ」
「任せておけ」
そういって久吉と陣はゴール地点へ戻っていった。
優奈はというと、自分のペースを守り走っていた。
久吉の作ったリードは少しずつ縮まっていった。
それでも、優奈は自分のペースを守り最後までは走ることを辞めなかった。
「想像通りの展開ですね。久吉くんの努力もあって、少しは余裕が持てましたが、抜かれるのも時間の問題ですね」
「仕方ないわ。彼女は体力はあまりないもの。それでも、自分のペースを守り走り続ける。その信念だけはずっと心にある。だから、彼女の走りを信じて私たちは待つだけよ」
ライブ配信を見ていてもわかる。今にでも走ることを辞めたい感じ。それでも、仲間の為に走り続ける努力をしている様子が移されている。
それは、僕たちに伝わってくる。
中盤が過ぎるとリードは無くなった。むしろ、抜かされて行っている。
それでも優奈は諦めなかった。
抜かされてもやめない、めげない根性を。
そして後半に入ると、順位は中盤辺りまでになっていた。
先頭のチームは、襷をもらい第三走者へ引き継がれた。
時間が経つにつれてそのチームが多くみられた。
少しすると優奈の姿が見えた。
今に出も倒れそうな走りだった。
でも諦めない、それ一心で走っている様子だった。
「優奈!あと少しよ!もうひと踏ん張りだから頑張って!」
その言葉を聞いた優奈は、前を向き走りが変わった。
そして、襷は雫へと託された。
「雫ちゃん、ごめんなさい。後はお願いね」
「任せなさいよ!」
そう言い残して、雫は走り出した。
優奈は崩れ落ちた。
僕はタオルと、水の入ったボトルをすぐに用意した。
それを優奈に渡した。
「これ!」
優奈は受け取ったものを握り、乾ききった喉をもらったボトルで飲んだ。
その後、七は優奈に肩を貸して、横になるようにした。
「優奈さん大丈夫ですか?よく頑張りましたね!後は、雫たちが頑張ってくれますよ!」
「私は何もできなかった。でも、最後まで走り続けた。みんなのためにも」
「優奈よく頑張ったよ!後は僕たちに任せて!その目で見届けてよ」
そういった後、優奈は少し眠りについた。
バトンは雫に渡った。
この区間は最初、下り、折り返しは上りとハードなコースになっている。
下りで変に体力を使うと、上りに影響が出てしまう。
それをわかっててなのか、雫は慎重に下りを走っていた。
折り返しポイントに到着すると次は上りへと変わった。
体力が要求されるコースだ。それもあって、大量が消耗しているチームも見かけるようになった。
それにより、順位の入れ替わりが激しくなった。
僕たちが予想しないことを雫はした。
それは、上りでペースを上げて行ったのだ。
どういう考えかはわからない。でも、雫なりに策は策はあるのだろう。
「なんで雫はここでペースを上げたの?」
凛が不思議に見ていた。
海もわからなかった。
「俺も知らないよ。いつも雫のすることは予想不可能に近いことをいつもするからな」
最後で待機する凛たちもわからなかった。
ただ、七は何か気づいたようだった。
「もしかすると、一度このマラソン大会に参加していたのかもしれないですね。長い間、一人でこの世界に居たのもあって経験していたと考えてもおかしくないでしょう。それに、体力自体あるひとですから、ここから巻き返せれると思っているのかもしれないですね。これは、私の憶測でしかないのですが」
「雫は『イベントがある時、外に出ることが出来る』みたいなこと言ってたよね?もしかしたら、七の言ってたことが本当なのかもしれない」
そうじゃなきゃ、校舎の外にで出るチャンスなんてなかったはず。
だとしたら、マラソン大会でなかったとしても、外の情報を持っててもおかしくない。
そう考えれば、理屈は通る。
雫のペースアップのおかげで、上位三位まで盛り返してきた。
トップのチームは襷を渡し走りだしていった。
そのすぐ後ろを見てみると、差はあれど雫の姿が見えた。
「雫!あと少しだ!あともうひと踏ん張り!」
「雫!頑張ってください!あと少しですから!」
少しして雫が到着した。襷は僕に渡され僕は走った。
「雫、後は任せろ!」
そういって凛が待つ場所まで走ることにした。
「雫、お疲れ様です」
走り終わったし雫に七はタオルと水の入ったボトルを渡した。
そして、七が考えていたことを雫に聞いてみた。
「雫、あのコースって事前に知っていたのですか?」
七は雫に聞いた。
雫は答えた。
「まあね、一回あのコースを下見したことがあったのよ。まだこの世界に来て一人の時、マラソンの授業があってね。あの坂を上ったことがあったのよ。それ以降、授業に出る気にはならなかったけどね」
「やっぱり。だから、あそこでスピードアップしたんですね」
「したというよりも、自分を信じてしたと言った方が良いかもね。なんにせよ、巻き返すことはできたわ。後は、二人のことを信じましょう」
僕は走った。凛が待っている、第五スタートラインまで。
走っていて思ったことがある。
意外と体力はあることに。だから、距離を考えて逆算すると、もう少しスピードを上げても大丈夫ということがわかった。
だから、早速僕はスピードを上げた。
少しすると、二位の選手が見えてきた。序盤から中盤に差し掛かろうとしたあたりだろうか。
今はその人を目標にして走ることにした。
前の人はそんなにペースは速くない。だから、中盤から後半にかけてなら抜かせれる。
今は、このペースを守って走ることにする。
凛と海はというと、ライブ配信を眺めていた。
「凛、行けそうか?」
「さあね、利木次第って感じかな。あのペースなら一人は抜けると思う。後は、トップとどのくらい差を縮められれるか。それ次第で変わってくると思う。けど、トップの人がどのくらい速いかによって変わってくるけどね」
「信じてるよ、凛。今のお前ならできるってこと」
「言われなくてもわかってるわよ!」
「素直じゃないな、お前は」
ライブ配信を見ながら、凛と海はお話をしていた。
一方僕は、中盤から終盤に差し掛かった。
前の人をマークしてとらえた。後は、ここから抜け出す!
多少のスタミナを使っても、最後までギリギリ持つ。
抜くなら今!
前の人の後ろを走りながら空気抵抗を少しでもなくし近づいた。
そして、抜かせる位置になったとき、僕は前の人を追い抜いた。
後は、さらに前にいる人を捕らえて凛に託すのみ。
託すといったのは良いけど、走っても走ってもが見えない。
後ろとの差は開いた。けど、前との差は縮まっているのかどうかもわからない。
終盤に差し掛かり、凛の姿を見えた時、前の人の姿が一瞬だけ見えた。
差は縮まっていたようだ。
凛の姿を見えたとき、凛と海の声が聞こえた。
微かにだけど「頑張れ!」という声が聞こえた。
僕は最後の力を振り絞り全力で走った。
そして、最後のランナー凛へ襷を渡した。
「凛、あまり縮めることが出来なかった。ごめん」
僕は凛に謝った。
でも、凛は
「ナイス!利木!これなら、十分に追い抜ける。後は任せて!」
そう言い残して、凛は走っていった。
「よくやったな、利木。大健闘だよ!後は凛のことを見守ろうぜ!」
「ああ」
そういって、僕は座りながら海とライブ配信を見た。
凛は快調に走っていった。
序盤ながら前に走っている人が見える。
それはライブ配信を見ててもわかるくらいに。
「このままいけば終盤までには行けそうだな海」
「だな」
凛自身もそれは確信に思っていた。
序盤から飛ばしすぎないで少しずつペースアップすれば追いつける。
凛はそう確信していた。
途中の給水ポイントも取れ、中盤良い感じに足を運べている。
むしろ順調すぎるのが怖いくらいだ。
終盤に入ると前との距離はなく、トップで走っていた人を抜かし、今は凛がトップで走っている。
その差は少しずつ離していき、差が広がる一方だ。
終盤が終わろうとしていると、ライブで見ていた七が異変を見つけた。
「雫、言いづらいのですが…凛さん、足を攣ってますね。そのせいもあって、スピードが一気に遅くなってます」
その様子はライブ配信で見続けていればわかるようになるくらいに凛は苦しんでいる。
ゴールはわずかというところなのに、まさかのアクシデントが起きた。
後方に居た人も少しずつ近づいてきている。
「何とか頑張れ!」そう願いながら凛を見守る仲間たち。
それは次第に酷くなっていった。
足を引きずるようにしていた。ゴールは目のまえというところで。
「凛ちゃん!しんどいかもしれないけど、後少しだよ。頑張って!後ろは振り向かなくていい!前だけを見て走って!」
はるの声が凛に響く。
「(そんなの言われなくてもわかってる!けど、足がいうことを聞いてくれないんだ!なんで…なんで!あと少しというところなのに、なんでこんなアクシデントになるんだ!私自身の為にみんな頑張ってくれてるのに、最後の最後でこんなことになるなんて嫌だよ!)」
ゴールまで百メートル。もうゴールは目のまえだ。
あと少し、はるの声も聞こえる。陣や優奈の声も聞こえる。
私は必死に走った。
ゴールまで数十メートル。
「(行ける!まだ、行ける!)」
そう思った矢先、目の前が真っ暗になり、何かに当たった。
「(何があった?何が起きた?)」
目を閉じ目を開けると、私は倒れていた。
「嘘だ…なんでこんな時に!」
皆の声が聞こえる。
聞こえるけど、何を言っているのかわからなかった。
後ろを見るも、もう近くまで来ていた。
私は最後の力を振り絞り、立ち上がった。
そして、また歩き始めた。歩くことしかできなかった。
それでも、まだ諦めない!
「私は最後までみんなの分まで、自分の為に、まだ諦めないよ!」
私は歩きだした。あと数歩、あと数歩。ゴールは目の前。
私は歩いた。歩いた!近づく足音が聞こえ横を見ると、さっき抜かした人が私を追い抜きトップでゴールした。
それに続き私もゴールした。
結果は二位だ。
「ごめん…みんな…ごめん、ごめん、ごめん、ごめん…」
私は優勝を逃した。
「みんなの努力が私が無駄にさせた。優勝できなかった…」
皆の顔を見ることが出来なかった。
「凛ちゃん、よく頑張ったよ!負けちゃったけど、最後まで走る姿はかっこよかったよ!」
はるは慰めてくれた。
「そうだよ、凛ちゃん!よく頑張ったわ。今は足の治療してあげるから、ゆっくりして」
「そうだよ、凛はよくやった。だから、今は優奈と一緒にいて治療をしてよね」
陣と優奈が私を慰めてくれる。
こんな私に慰めなんていらない。
私は優奈に連れられて医務室へ運ばれた。運ばれた後、私は気を失った。
仲間が全員ゴールの場所へと帰ってきた。
一番最初に雫は陣に言った。
「凛はどうした!?どこにいるの?」
「優奈と一緒に医務室にいるよ」
「そう…なんだ。各メンバーは医務室に向かうわよ」
そういって仲間揃って凛が寝ている医務室へ向かった。
「優奈!凛の様子は?」
雫は真っ先に凛のことを心配した。
「気を失って寝ているわ」
「そう、わかったわ」
「雫、ところでミッションの事なんだけど、メッセージは来てないの?」
僕は雫に尋ねた。
「そういえばそうね。確認してみるわ」
凛はスマートフォンを取り出し、メッセージを見た。しかし、まだメッセージは届いていなかったようだ。
「とりあえず各自、着替え終わった後、この医務室に再集合よ。解散」
そういって参加者のメンバーは、シャワーを浴び再び医務室に戻った。
全員が揃うと凛は眠りから覚めた。
「ここはどこ?私、どれくらい寝ていたの?」
七が答えた。
「優奈さんが医務室に連れて行き手当をしたわ。その後、凛さんは二時間くらい眠っていたのよ」
「そうだったんだ、ごめん、みんな。私最後…」
「気にするな、あんな状態になれば俺だって無理だ。仕方ない」
海が凛に言葉をかけた。
「それでミッションはどうなったの!?」
都合の良いことに、今雫にメッセージが送られてきた。
『ミッションは失敗。失敗したということでランダムで誰かの記憶を蘇らせることになる。今回の対象者は、はる。また、チャレンジしたいときは、メッセージを。以上だ』
はるの顔色が悪くなった。一気に。
はるは一言
「なんで私の記憶の中に凛ちゃんがいるの…」
「どう…いうこと、はる!」
こんにちは。
今回は長い話となりましたが、次回作の話がまだ決まってません。
どのように話を組み立てていくのか、ずっと考えているため、次回の投稿が遅れると思います。
その時は、近況報告でお知らせしますのでよろしくお願いします。
今回も読んでいただきありがとうございました。