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(2)

 後に平安時代と呼ばれる時代の日本。

 人々は神仏やモノノケなどの超常の存在を信じていた。

 しかし、同じく超常の存在が引き起した災いであっても、場合によって対処方法は、それぞれ異なっていた。

 神々は、たとえ、祟り神・禍津神(まがつかみ)であっても、死や出産などの人や生物が引き起す穢れを嫌い、力づくで捻じ伏せるような修法を行なえば、却って被害は拡大する。

 一方、モノノケは、力づくで捻じ伏せる修法の方が効果が有り、神々が引き起こした災いに対して使うような「お引き取りいただく」為の修法は効果が薄くなる。

 例えば、同じく怨霊を鎮める場合であっても、モノノケに過ぎない存在と、祟り神と化した存在では、やるべき事が、ほぼ正反対だったのだ。

 この為、超常の存在が引き起こした災いを鎮めるのが密教僧や修験者だったとしても、占術に長けた陰陽師が災いの原因や正体を突き止めてくれねば、術者の命が危なくなる。例え、術者の力量・技量が、どれほどのものであろうとも……。

「ナミ、お前、何で、あんな事言った?」

「だって……」

 下級貴族の娘の安産祈願を頼まれたはいいが、その下級貴族の屋敷から追い出された修験者の龍水と、その姪で憑坐のナミは、そんな事を話しながら都の大通りを歩いていた。

「だってじゃねえ」

 流行病(はやりやまい)のせいか、春の季節なのに、人通りは少ない。

 道端には死体が捨てられ、その死体を鴉が啄ばんでいた。

「でも、叔父ちゃん、あたしにいつも『嘘吐くな』って言ってるよね?」

「うるせえ。嘘は吐くな。でも、余計な本当まで言うな」

 鴉が啄ばんでいた死体に、痩せ細り、あちこち毛が抜けている野犬がふらついた足取りで近付いていく。鴉の方も、反撃する気力も無く、逃げる為に飛び立つのも一苦労のようだった。

「あ〜……ややこしい」

「ややこしいのは、今回の仕事だ」

「え〜、でも、あの仕事、見付けてきたのは叔父ちゃんでしょ? 何で、先に、猿丸さんに占ってもらわなかったの?」

「そんな時間がかかる真似をしてたら……他の奴に仕事を取られるに決ってるだろ」

「でも、お礼もらえなかったよね。もう、食べ物は、あと2〜3日しか持たないよ」

 そもそも、妊婦が居る邸宅で安産祈願を行なうのは、密教や陰陽道の知識が無い者が考えるよりも極めて難しい。

 神の嫌う穢れの中には出産の穢れも含まれる。そして、妊娠という非日常的な状態に有る妊婦は病気になり易い……言い換えれば、モノノケに取り憑かれ易い。

 しかも、出産や死による穢れを受けた者は、一定期間、朝廷や大きな神社仏閣への出入りなどに制限を受けるので、安産祈願の依頼を受ける陰陽師・密教僧は限られる。少なくとも、朝廷の陰陽寮の陰陽師や、大寺院に所属している密教僧は、嫌がる場合が多い。

 ここまでが平時での「安産祈願の祈祷の難しい点」だ。

 加えて、今、都では正体不明の流行病が猛威を振っている。

 どうやら、この流行病は、(いず)れかは不明だが、強力な神がもたらしたものらしい。

 朝廷の陰陽寮の陰陽師の占いも、民間の俗流の陰陽師……俗に言う陰陽法師達……の占いも同じ結果だった。

 もし、妊婦が、この流行病に罹患すれば、事態は更にややこしくなる。この流行病に罹った事と妊娠が重なった事による体力の低下が、更に別の病の罹患を招けば、事態はもっともっとややこしくなる。

 ここまで悪条件が重なると、安産祈願の祈祷が巧くいかず、妊婦や腹の子が死ぬぐらいならまだマシな方だ。一歩間違えば、安産祈願の祈祷を行なった術者や妊婦の家族まで術の失敗に巻き込まれて死にかねない条件が何重にも揃っていた。囲碁で、どこにどう石を打っても……双六で、どんな骰子(さい)の目が出ても……勝ち手が全く見付からない……そんな状況だった。

 それでも……。

「お前が余計な事を言わなければ……儂があの賄賂で位を買った偽貴族を巧く騙してだな……」

「叔父ちゃんさ、自分で思ってる程、口が達者じゃないよ。娘さんの(はら)ん中の赤ちゃんが死んじゃったのに、あのおっちゃんをどう騙して、お礼をもらうつもりだったの?」

「そこは臨機応変にだな……」

「何も考えてないって事じゃないの、それ?」

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