(1)
「オン・コロコロ・センダリマトウギ・ソワカ」
その祈りの声は、力が込った重々しいものだった。
「あの……験者様、本当に大丈夫……?」
だが、聞いている者が何か不安になるような……芝居がかった……それも田舎芝居がかったものだった。
その家の主は、従五位の下……一応は帝の居る清涼殿に昇殿を許される大蔵大夫だった。
と言っても河内かどこかに所領を持っており、従五位の位と大蔵大夫の役職も賄賂で「買った」ものらしいが……。
よりにもよって都で伝染病が猛威を振っている最中に、その大蔵大夫の娘が妊娠してしまい、安産祈願の為に修験者の龍水が呼ばれる事になったのだが……。
「あの……娘の胎内の子の父親は、さるやんごとなき公卿でして……」
「オン・コロコロ・センダリマトウギ・ソワカ」
「もし、万が一の事が有りますと……我が一族の将来にも……」
「オン・コロコロ・センダリマトウギ・ソワカ」
「えっ?」
家の主は、素頓狂な声を上げた。
護摩壇の横に座っていた修験者の連れの憑坐の童女が大欠伸をしたのだ。
「叔父ちゃん……お礼もらうんだから、もう少し真面目にやろうよ……」
「な……?」
「いくら、八方塞がりだからって……力を使わずにフリだけってのは、どうかと思うよ」
「はあっ?」
「あ……この憑坐にモノノケが取り憑いたようで……」
「あ……あたし、マズい事、言っちゃった?」
「待て……この小娘の言ってる事は……本当か?」
「あ……あの……その……」
「答えろ。本当か?」
「本当。下調べをやった時に、ウチの叔父ちゃんより遥かに力や腕前が上の人でも苦労しそうだってのが判ってた」
「ま……待て……では、儂の娘とその子供は……?」
「多分、両方とも死ぬ。あと……修法なんかを、やればやるほど、更にマズくなる。家族や修法を行なった人まで死ぬ」
「……」
「あ……あの……」
「出ていけ〜ッ‼」