《★~ 困ってござる神座ヱ門さん ~》
今朝の義政公は、酷く魘されて目を醒ますことになる。あまりにも強烈な悪夢を見てしまったせいで、寝汗も半端ないのだった。
三休さんを相手に威勢よく頓智九番勝負に挑んだものの、惨めな大敗北を喫してしまい、三休さんだけでなく、黒雲寺にいる他の坊主たちや町人たちの大勢が義政公を嘲っていた。そればかりか、家臣の神座ヱ門さんも「上さまは口ほどにもないでござる。傾国の将軍、死ね馬鹿」と陰で吐き捨てているという、極めて忌々しい夢なのだった。
義政公は忘れ去ろうとするけれど、三休さんの瓢箪に似ている顔面が頭からまったく離れそうにない。居ても立ってもいられず、大声で叫ぶ。
「これ、神座ヱ門! 神座ヱ門はおらぬか!!」
少し待ってみるけれど、誰も参上してこなかった。
「これこれ、神座ヱ門はおらぬか!!」
義政公がさらに叫んだけれど、まだ参上しない。
繰り返し叫んだところ、ようやく神座ヱ門さんが御座所に姿を現す。
「上さま、お呼びでしょうか?」
「そうじゃ、七度も呼んだ。なぜ早うこぬか、この馬鹿者めが!」
「これは誠に申し訳ござりませぬ」
「なにを愚図愚図しておったのじゃ!」
「はあ、拙者は朝餉の途中でござりました」
「余が一大事じゃというのに、呑気に朝飯を食うておったと申すか?」
「はい。焼き魚が生焼けで、少なからず辟易してござりました」
「そんなことはどうでもよいわ。この呆気者めが!」
「ははあ」
落ち着いて朝餉も食せない日々はとても辛く、「いっそのこと頭を丸めて黒雲寺の坊主になろうでござるか?」と思ってしまう。
しかしながら、将軍家重臣という身にあまる立場を捨てたくないので、神座ヱ門さんは逆らえない。
「ところで神座ヱ門、晩飯はまだじゃな?」
「はい。なにしろ、朝餉を頂いているところでしたから」
「そうか。ならば、今日から晩飯は抜きじゃ」
「えええーっ!!」
すぐに参上しなかったからといって、晩飯抜きは厳しい。
これには我慢ならず、いつもは穏やかな神座ヱ門さんが声を荒げる。
「上さま!」
「へ!?」
「上さま、上さま、上さま、上さま!!」
「なっ、なんじゃ神座ヱ門、やかましいぞぉ」
「やかましくしたくもなるでござる! 拙者が七度呼ばれるまで参上できませなんだのは、確かに落ち度でござりましたが、それだけの理由で晩飯抜きとは、あまりに殺生ではありませぬか!」
「いや神座ヱ門、それだけではないのじゃ」
「えっ、どういうことでしょうか!?」
神座ヱ門さんは「拙者、晩飯抜きにされてしまうほど大きな失敗をしでかしたのでござるか?」と記憶を辿ってみたけれど、思い当たる節がなにもない。
義政公が歪めた顔面で、晩飯抜きにされないための条件を話す。
「にょごにょご」
「はあはあ」
「かくかくしかしか」
「ははあ」
「まるまるうまうま」
「えええーっ!!」
なんでも、義政公は意を決し、三休さんと頓智九番勝負をするという。
その勝負で絶対に勝てる難題を思いつけばよいけれど、そうでなければ晩飯抜きだと厳命されてしまい、神座ヱ門さんは困ってござる。