表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネイムレスの蝶系統動物効果  作者: 水色十色
ひねり過ぎの三休さん
7/25

《★~ 再び屏風の虎の難題 ~》

 室町殿の御座所では、義政公が顔面を歪めていた。

 今日こそ三休さんを頓智勝負で降参に追いやれると思ったものの、想定外の論法で逆に打ち負かされてしまったのだから、この上なく憤懣ふんまんやる方ない。


「神座ヱ門!」

「ははあ」

「あの憎らしい瓢箪面ひょうたんずら坊主ぼうずを唸らせるような難題を思いつかぬか?」

「そうでござりますねえ。はぁー、ひぃー、ふぅー、へぇー、ほぉー」

「これ、神座ヱ門! 黙って考えられぬか!!」

「ははあ」


 神座ヱ門さんは座禅を組み、口と目を閉ざして瞑想する。

 しかしながら、過労が続くせいで、うっかり寝落ちしてしまった。


「ぐぅー、すぴぃー」

「これ、神座ヱ門、神座ヱ門!!」

「はっ、ははあぁー」

「考えておるように見せ掛けおって、居眠りとはなにごとか!」


 大目玉を食らった神座ヱ門さんは、その場(しの)ぎの偽りを口に出してしまう。


「た、たった今、よき夢を見てござりまする」

「なに、よき夢じゃと?」

「上さまが頓智で三休さんを打ち負かす夢でござりまする」

「なんじゃと、それは正夢に違いない! して、どんな夢であったか?」

「かくかくしかしか」

「ほほう」

「まるまるうまうま」

「おおそうか、その方便じゃ! 今度という今度は三休を見事に打ち負かすことができよう! でかしたぞ、蛸壺神座ヱ門!」


 義政公は、神座ヱ門さんが見たという夢の通りに受け答えをすれば、頓智で勝てるはずだと確信を持った。

 次の日、三休さんがまた室町殿に呼び出された。


「ちわっす」

「おお三休、待ち詫びておったぞ!」

「朝っぱらから、こう毎日続くと困りますわ。将軍はんも暇やなあ」

「余が暇であるのは、ジパングが平穏である証じゃ」

「ものは言いようでんなあ。つき合わされる拙僧は大迷惑でっせ」

「まあそう申すな。新しい屏風を用意したのじゃ」


 義政公は「新しい屏風」と言っているけれど、目の前にあるのは、昨日の屏風とまったく同じ代物だった。

 三休さんが辟易しているような表情と口調で問う。


「これをどうしろと?」

「屏風の中におる虎を捕らえよ」

「またそれっすか……」

「正真正銘、余の虎じゃよ。こやつを捕らえることは飼い主の余が許可する。さあ三休、遠慮せず捕らえてみよ」


 義政公は思わず「ふふふ」と笑みを溢すのだった。

 一方、三休さんは涼しい表情で尋ねる。


「こいつ、ほんまに将軍はんの虎っすか?」

「もちろんじゃとも。余が偽りを口にするはずなかろう」

「ほんなら意思確認をしまひょか。なあ虎はん、あんさん、ほんまに捕らえられてもよろしいか?」


 三休さんが屏風の中の虎に尋ねるけれど、絵に描いた虎が返答する訳ない。


「あれえ、意思表示しゃはりまへんで。もしかすっと、この虎はんは、捕らえられたくないのやおまへんか?」

「余の虎は《三休に捕らえられてもよい》と申しておった」

「ほんなら将軍はんから、そう答えるように命じてくれまっか」

「余から虎に命じろと申すか?」

「そうっす。さあ、はよう命じてんか」

「むむぅ」

「どないしました?」

「もうよい! 余の負けじゃ!」


 追い詰められた義政公がとうとう降参した。

 ひねり過ぎの三休さん。今日もまた、気分よく黒雲寺に帰る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ