《★~ あっぱれ頓智の三休さん ~》
アジアの東端に位置する島国のジパング、後土御門天皇の御代、元号は寛正から文正に変わったばかり。室町幕府の八代目征夷大将軍という地位にある足利義政公が、あろうことか、頓智に入れこんで、将軍職そっちのけの状況に陥っている。
稲荷山の黒雲寺に「三休」という愛称の小生意気なお茶汲み坊主がいて、頓智が得意なので、今日もまた、お馬の背の後ろに乗せられ、室町殿に参上した。毎日のようにお呼びが掛かり、将軍家重臣の蛸壺神座ヱ門さんが、こうして連れてくるのだった。
三休さんが御座所に入ると、まずは簡単に挨拶する。
「将軍はん、ちわっす!」
「おお、きたか三休。首を長うして待ち詫びておったぞ」
「一体なんの用っすか? 拙僧、こう見えて忙しいっすよ」
「まあそう申すな。今日はのう、特別な屏風を用意してあるのじゃ」
「へえ、そんで?」
「屏風の中におる虎を捕らえよ」
「はいはい、そういうことね」
三休さんは、綽綽の余裕顔で屏風を見つめた。
「こいつ、凄い強そうやなあ。どなたはんの虎っすか?」
「誰の虎かは知らぬが、ジパングで一番に腕の立つと言われておる評判の高い絵師に描かせた虎じゃ」
「へえ、ほんなら拙僧が捕らえるのは無理っす」
珍しいことに、三休さんがあっさり匙を投げてしまった。
義政公は、思わず顔面を「にやり」とさせる。
「自慢の頓智はどうしたのじゃ? もう少しよく考えてみよ。それとも、今日こそさすがの三休も、余の前に跪いて降参すると申すか?」
「いやいや、頓智云々以前に、飼い主の許可を得られませぬからには、勝手に捕らえる訳にいかしまへんのでっせ」
「飼い主の許可じゃと?」
「ういっす。絵に描いた虎やとしても、飼い主に無断で捕らえてしもたら、他人のもんを盗むのと同じことでっしゃろ。そんなん、お天道さまが許しても、室町幕府を開かはった足利尊氏はんが、お許しになる訳あらしまへんやろ?」
惚けた顔面で「頓智云々以前に」などと言っているけれど、三休さんは、しっかり頓智で無理難題に対応したのだった。
これを思い知らされた義政公は、今日もまた脱帽せざるを得ない。
「あっぱれ頓智の三休!」
「どうもっす」
「褒美を取らせよう。なにがよいかのう?」
「ほんなら将軍職、拙僧に譲ってんか」
「はあ?」
義政公は呆然となった。
三休さんが容赦なく追い打ちを掛ける。
「そんで将軍はんは、今日から黒雲寺のお茶汲み坊主な」
「図に乗るものではないわ! この馬鹿者めが!」
「ほんなら、これからは馬鹿も休み休み、もう一つおまけして三回、休んで言うようにしまっせ。三休だけにな」
「この小癪な茶坊主めが!」
「へへへへ」
「もうよい、下がれ下がれ!」
「ういっす」
今日もまた冴えに冴えて、うまく頓智にひねりが利いた。鼻高らかに黒雲寺へ帰ってゆく。
この三休さん、顔面が瓢箪の形に似ており、他の坊主たちから「瓢箪面」と揶揄されることが多い。表向きは「気にせえへん、気にせえへん」と笑い飛ばすけれど、誰も見ていない陰では「なんやねん、頭の冴えへん糞坊主ども!」と吐き捨てたりしている。