《☆~ アデライード合衆国 ~》
船団は、アイスランドに立ち寄った後、航行を続けてグリーンランドの南端に辿り着いた。ここから先が、新天地を目指す本当の旅だと言えよう。
ノルマン人たちの間で、昔から「グリーンランドの南西に広がる大海原には、未知の大陸がある」と信じて疑わない者が多くいる。中には「そこへ出向いて、無事に帰ってきたぞ!」と豪語する輩もいたりするけれど、これの真相は明らかにされていない。
首領のアデライードは、豪華な「首領船アデライード号」に乗っている。アンゲランを相手に、さも愉快そうな表情で話しているところ。
「未知の大陸はきっとあるはずだわ。絶対に見つけてやりましょう! あたしの名にちなんで《アデライード大陸》と名づけるつもりよ。どんなに野蛮で強い先住民がいようとも、洗練されたノルマン人の力で屈服させ、新しい大きな国を築き上げてみせるわ。おほほほ!」
「アデライードが国王になるのだね」
「それは違うわ」
「えっ、どういうこと?」
「アデライード合衆国を建国して、あたしが初代の大統領に選ばれるのよ」
「へ??」
合衆国や大統領など、初めて聞く言葉を耳にして、アンゲランの変態心が、さらなる刺激を求めてくる。
「僕の知らない言葉で、もっと激しく罵ってよ」
「は?」
「アデライード合衆国万歳! 大統領万歳!」
「正真正銘の馬鹿ね。それじゃ大統領官邸のブラックハウスを建築した暁には、馬面のあなたを、廊下の壁に首から上だけ出すようにして飾ってあげるわ。きっと注目の的になることでしょう。おほほほ!」
「ありがとう。でも僕は、アデライードにすべてを見つめられたい。首から上だけなんて言わず、全身の隅から隅まで、舐め回すように視線を注いで欲しい」
「キモっ!!」
「僕の身体中に、アデライードが大好きな蜂蜜を塗りたくるから、本当に舐めてくれたら嬉し過ぎて、小判鮫みたいにアデライードに密着するよ」
「四倍キモっキモで、もう十六倍キモゲランだわ!!」
「もっと言って、もっと罵倒してぇ!」
「うぅ、うっえぇ~~」
船酔いなど一度も経験したことのないアデライードが、アンゲランの変態的攻撃のせいで、この上なく気分を悪くした。
引き続き大海原を突き進み、ノルマンディー公国を旅立ってから五十日にして、ついに念願の新大陸を発見できた。
上陸して西に向かい、破竹の勢いで侵攻する。植民化に成功した領土は、行政の単位ごとに「州」を作って分割統治した。十三番目の州ができた時、大統領選挙を実施した。当選を果たして初代大統領に就任したアデライードが「アデライード合衆国」の建国を宣言した。ノルマンディー家を出てから二十年目である。
さらに四百年、アデライードの野心は後世に受け継がれた。今では、北アデライード大陸の全体が、アデライード合衆国の本土である。
南アデライード大陸にある四つの国と、極東アジアで「黄金の国」と呼ばれているジパングを含めた東アジアおよび東南アジアに位置する国々の過半数、総数で十四ヶ国がアデライード合衆国の従属国になっている。つまり、アデライード合衆国は、世界の覇権を握る軍事大国にまるまでの驚異的な発展を遂げた。
眠りに就いているネイムレスにとって、一つも心配はない。なにしろ「ネイムレスの蝶系統動物効果」が順調に進んでいるのだから。