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ネイムレスの蝶系統動物効果  作者: 水色十色
アデライードの野心
2/25

《☆~ ノルマンディー家の騒動 ~》

 ノルマンディー公爵家では今宵、あろうことか、十年前に他界した先代当主のロベールが、夕餉の席にひょっこり姿を現した。

 アデライードは、亡き父親の亡霊に詰問されている。


「お前、さっき庭園で乱心したのではないか。いくらアンゲランの顔面が、スィルヴァウェアの()()()()に瓜二つだからといって、そんな理由で婚約を破棄するなどという暴挙、たといお天道さまがお許し下さろうとも、ご先祖のロロさまが決してお許しになるはずはない!」

「ロロさまって誰?」

「まさか、そんなことも知らないのか。そこに座れ!」

「最初から座っております」

「じっくりと腰を据えて、姿勢を正せという意味だ!」

「紛らわしいわねえ」

「やかましい! 親に口答えするな!」

「はあい」


 アデライードは、河豚ふぐという魚類のような顔面を見せた。

 ここへ当代当主のギヨームが涼しい表情で入ってくる。ロベールの息子であると同時に、アデライードの兄でもある。


「ああ遅くなった、ごめんごめん」

「こらギヨーム、儂が生前、いつも夕餉の刻限には帰ってこいと、厳しく申しつけていたであろう! また女のところへ出向いておったのか?」


 亡霊となって現れた父親に驚きもせず、ギヨームは平然と答える。


「そうだよ」

「あらお兄さま、どの女ですの?」

「おいアデライード、人聞きの悪いことを申すな。俺の女は、この世界にたった一人しかいないマティルダだけだ。他に俺と逢瀬する女がいるものか!」

「ふん。お兄さまの()()()!」

「おいおい、ずいぶん荒れ模様だなあ。一体どうした?」

「知らないわ!」


 再び河豚面ふぐづらになるアデライードだった。

 彼女に代わって、ロベールの亡霊が説明する。


「ギヨーム、聞いてくれ。実は、かくかくしかしか」

「ふんふん」

「まるまるうまうま」

「え、それは厄介なことだなあ。おいアデライード、やってくれたな?」


 ギヨームが鋭い視線を浴びせた。

 対するアデライードは、険しい表情で答える。


「余計なお世話です」

「いいや違う。莫大な財産を持つポンチュー伯爵家と、どうしても同盟関係を結んでおきたいのだ。それが実現しなければ、今までの苦労が水泡に帰す」

「だからなに?」

「そうなると困るのだ! だから明日、アンゲランに跪いて謝罪しろ!」

「嫌よ」

「俺の言う通りにしろ!!」

「ふん。それならお兄さま、殴り合いだわ」


 アデライードが威勢よく立って、両手の拳を胸の位置に構える。


「ええっ!? ちょ、ちょっと待て!」

「いいえ問答無用です! さあ、全力で掛かっていらして」

「ちょ、アデライード、無茶苦茶だろ??」

「やかましいわよ。お兄さまは男でしょ、拳で応じなさい!」

「ひぃえぇー、父上、助けてよ」

「儂は亡霊だから手も足も出せない」

「そんな殺生なあ……」


 もう遅い。アデライードの拳骨が顎に打ち込まれる。

 立て続けに殴られて、ギヨームは一分でノックアウトされた。これが「ノルマンディー家の騒動」と呼ばれる事件である。

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