童話 毒の世界の「人間でないもの」
毒の世界ニエ=ファンデ。
その世界は、人間では一秒足りとも生きられない世界だった。
しかし、人間ではないものなら、生きられる。
その世界には、そんな人間ではないものが一人いたが。
その事実は、孤独を意味するものだった。
人間が誰も生きられないその世界に、たった一人。
話し相手はおらず。
触れ合う先もない。
だから、その「人間ではないもの」は狂ってしまいそうになっていた。
自分が何者かもわからず。
なぜそこにいるのかも分からずにいた。
女はその世界で、気が遠くなるほど、長い時間を一人で過ごした。
あまりにも長すぎる時間に、孤独に耐えきれなくなったその「人間ではないもの」は手を伸ばそうとした。
人がいる世界へ、誰かと触れ合える世界へ。
探して、求めて、必死に目を凝らして、耳をすませる。
そうしていると、その「人間ではないもの」はかすかな光を見つける事ができた。
それは「入口」。
人間のいる世界へ行ける、「入口」だった。
人間の世界へ手を伸ばした「人間ではないもの」。
しかし、長い間毒の世界にいたせいで、「人間ではないもの」も毒になってしまった。
やっと触れ合える。
やっと言葉を交わせる。
歓喜に震えた「人間ではないもの」の心、はすぐに絶望に彩られていった。
触れたとたんに、腐り崩れる人々。
言葉を交わすどころから、悲鳴しか返してくれない人々。
絶望した「人間ではないもの」は、再び元の世界へ戻って、そこに閉じこもり続けるしかなかった。
そこで、やがて狂ってしまうのだとしても。
いつか自分の心が完全に壊れてしまうのだとしても。