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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

公爵令嬢の見る夢は

処刑場で優しく微笑んで

作者: 朝霧凉

やっぱり。誰かが来るかなとは思いました。

でもまさか殿下が直接いらっしゃるとは思いませんでしたわ。

あら、元婚約者のよしみで?

ふふ、ありがとうございます。

でも服装は考えた方がよろしくてよ?

そんな綺麗な服でいらっしゃると、汚れが目立ってもう着られなくなりますわ。


やだ、そんなに怒らなくてもお話ししますわ。どうせもうすぐ処刑されるのですし。

牢屋に入れられるのも初めてで、少し心が弾みますね。

やっとここまで来られたのだと。


少しの雑談もお許しにならないの?

…そうですね、何から話しましょうか?

先ずは、こんなに早く対処出来たという事は、愚弟は資料をちゃんと見つけられたのね。

優秀ですって?いいえ、全然。

こと調べものに関しては全然でしたわ。

あんなに分かりやすく置いていたのに、見つけもしなかったのだもの。

だからあの場で教えてあげたのよ?


そう!私、殿下に感謝していますの。

卒業パーティーという場は少し派手でしたが、わが公爵家を潰すにはそれくらいのパフォーマンスは必要でした。

あの場には、お父様も参加していましたし、確実にお父様が家にいない時間でもありましたね。

ふふ、あの時のお父様の顔ったら、今思い出しても笑いが止まらないわ。


お父様が嫌いだったのかですって?

確かに、色々な贅沢をしましたね。

ドレスにお菓子、最高の教育、美術品、毎日のお料理も美味しかったわ。

でもね、でも、そんなもの欲しくはなかった。

それらは全て、私を最高の道具にするために必要な経費だったのよ。

少しでも逆らえば、私の大切な物がなくなっていく。

子供の頃からそうだったわ。

だから自然と何かを欲しいと思う気持ちを失くしたの。

お父様は自分の思い通りにならないと我慢ならない人で、そのくせ、狡猾な人だから証拠も見つけられなかった。

メイド達は怯え、領民は泣き、それを知ってもなお贅沢を止めず更に追いつめていくような人でした。

出来れば、父とも呼びたくない。

最低の人間です。あんな男、死んだ方が良いのです。


…今はね、願ってる事があるのです。

叶うかどうかは分かりませんが、希望を持っても良いでしょう?

私の考えて来た計画通りに事が終わりそうで、やっと呼吸が出来るようになったのだから。

殿下、私はね、自分の事しか考えていない最低な人間です。

目的の為には、何を犠牲にしても仕方がないと納得できる人間です。

彼女にはばれてしまっていましたね。

知ってますか?彼女が私に言った言葉。


どんな人にも心があります。平民も、貴族も、殿下も感情があります。貴女は心を見ようとしていない。そんな人が誰かの幸せを願えるとは思えません!って。


素晴らしいわね。確かに、私には貴方達の感情なんてどうでも良かったもの。

ああ、あの男爵家の令嬢に一言伝えていただける?


ごめんなさいね。貴女を利用しました。

悲願を達成する為だったとはいえ、とても嫌な思いをさせました。

これからも皇太子妃は大変かと思いますが、よく頑張ってください。

きっと素晴らしい皇太子妃になれると思います。

皇后様も厳しいかも知れませんが、優しい方です。

悩みは一人で背負わず皇后様や殿下にすぐご相談ください。


言われなくても?

そうですね。真実の愛ですものね。

…真実の愛ね。

あの時仰いましたね。愛も知らない女だと。

その言葉だけ訂正させてください。

私にも愛がございます。でもそれは真実の愛ではありません。

私の愛は唯一です。彼への愛は唯一の愛でした。

浮気していたのかですって?

いいえ、彼に出会ったのは、殿下と婚約する前です。

そして、お別れしたのも殿下と婚約する前です。

だから、そうね、5歳の時かしら。

あら、彼の事聞いて下さる?

嬉しい。誰にもお話し出来なかったの。


彼はね、私の家の庭師の弟子でした。

私は5歳、彼は10歳でした。

とても優しくて、世界の素晴らしさを教えてくれた。

庭のお花をこっそり摘んで、庭師のおじさんにとても怒られてべそかいたりして…

おじさんも彼が大好きだったの。センスがあって、素直で、真面目だったから。

彼といると世界が美しくて、その中でも彼が一番キラキラしていて、幸せってああいう事を言うのね。

彼もこの愛に応えてくれて…

あの人の土に汚れた手が好きだった。

こっそり摘んだお花を差し出す、照れた顔も素敵だった。

笑った時の八重歯も可愛かったし、優しく見つめる瞳が恋しかった。

本当に世界にあの人と私だけで良かった。

子供にしては真剣で、大人と比べたら純粋すぎる愛だった。

でもね、私の気持ちをお父様にばれてしまったの。

ある日、いつもの場所にあの人がいなくて、庭師のおじさんが泣いていて、私に向かって言ったの。


お嬢様とさえ出会わなければ


って。

意味が分からなかった。どういうことなの?って。

おじさんは何も言わなかった。

次に、メイドに聞いた。教えてくれなかった。

だから、執事長に聞いたの。彼はどこなの?って。


彼は処刑されます。

何故?

お嬢様を惑わす悪者だからです。


私が恋をしたから、彼は処刑されてしまうのだと。今朝捕らえられ、そのまま処刑場へ連れていかれたと。

信じられなかった。私が彼を愛したから殺されるのですって。

急いで馬車を走らせて、処刑場へ向かったわ。

ああ、あの時が初めて権力を使った時ね。

着いた時には処刑は終わっていて、首が曝されていた。

穏やかな顔だった。子供で細い首だったから、切りやすかったのね。

声も涙も出なくて、ただ処刑場への扉を開けさせて、その首を抱きしめていた。

どれくらいそうしていたか分からないけれど、処刑場の前に花が置いていたの。領民が置いた処刑された彼への手向けの花だった。

それに気づいた瞬間、涙が溢れて止まらなくなってしまった。

ああ、彼は死んだのだと。私のせいで殺されたのだと。

あんなに美しかった世界が色褪せて、幸せだった時間が遠ざかって、どこを探しても彼のいない人生が始まった。


では誰が殺したの?私?いいえ。おじさん?いいえ。執事長?いいえ!

私が恋をして、不都合が生じる人間…お父様が命じたの。

許せなかった。許せるわけないわ。

どうにか復讐をしたくて、顔を上げたら、ある人と目があった。

憐れみのこもった目で私を見ていた。

だから、声を掛けたの。

ええ、それが殿下に内情を伝えていた領民のリーダーです。

とても良く動いてくれたでしょう?

仲間思いで、責任感の強い人で、隠れるのが上手だった。だからお父様に目を付けられなかったのね。

彼も大切な人を殺されていた。その時にはもう我が公爵家への復讐を考えていたそうよ?

その時、私は公爵家の悪行を知った。そして、思ったの。


この公爵家は存在してはいけない。


お父様もお母様も領民に恨まれていました。その娘の私も同じでした。

そこからどう没落させようか、情報を共有しながら何年も動けなかった。

その間も犠牲が増えて、その度に恨みが募って。

7歳、殿下と婚約して、私に対して気が緩んできていたの。

妃教育も始まって、余裕がないと思ったのね。

だから、資料を少しずつ複製して保管しておいたわ。

12歳から執務室にも入れるようになって、外に出るタイミングも分かるようになった。

その情報を流して、少し犠牲者が少なくなったの。そのかわりお父様のイライラは大きくなったけれど。


その頃に愚弟も養子として迎えて、一緒の屋敷で暮らすようになったわね。

だから、公爵家の事を丁寧に教えてあげたの。

あの子、批判だけして何もしなかったわ。


子供だからしょうがない?

そうね、責められる事ではないわ。でもね、その間も犠牲者が増えていくの。それを私は知っていたのよ。

力がないという事は罪になる時もあるの。

それでも、悪い事に染まらず、真っすぐに成長してくれた事は良かったと思うわ。

思っていたよりも正義感の強い人になっちゃって、融通が利くのかしらあの子?

まあ、大丈夫かしら?


そうして学園に入学して、次の年にあの男爵家の彼女が入学して、殿下と恋人になったと聞いた時、時が来たと思った。やっと、その時が来たと。

その後は殿下も知っている通り彼女に幼稚な嫌がらせをして、私の評判を落とした。

色々な資料を纏めて、金庫の奥に隠して、愚弟に見つけさせた。

殿下にも嫌われるようにしましたね。

7歳から一緒にいるのよ?何が嫌いかなんてよーく知ってます。


ああ、でも調子に乗ってやりすぎた人がいるわね。

その情報は生徒会室の金庫に入れておきました。

後でご覧になって?

私は暴漢に襲わせるとか、大階段から突き落とすなんてしないわ。だって死なれてしまったら困るもの。私は彼女に感謝しています。今回の断罪劇は彼女がいたからこそ実行する事が出来たのではなくて?


私はきっかけを待っていたの。

お父様を、公爵家を断罪出来る人が現れるのをずっと待っていたのよ。

私では駄目なの。だって、私が断罪してしまったら、私は正義になってしまうでしょう?

それではいけないの。

私は一緒に断罪されなければいけないの。

だって私は何も出来なかったわ。

お父様に目を付けられた誰一人助けることが出来なかった。いつだって無視をして、美味しい紅茶を飲んでいたの。

苦しんでいる人の上で、優雅に暮らしていた。ね?立派な罪人でしょう?


罪を軽く出来る?

このままだと必ず処刑される?

そうね。お父様は処刑されるのでしょう?公爵家は断絶されて、愚弟だけが許された。それで間違いないわよね?

ああ、愚弟はどうなりますの?

あら、子爵家の養子に?では殿下の側近ではいられるのですね?

素晴らしいわ。愚弟の努力が実ったのね。

…本当に素晴らしいと思っているわ。正義を貫いた人生を送ってほしいわね。やだ、嫌味になるかしら?

私はそのままで良いです。

そうね、処刑場の場所は公爵領と聞いたけれど、間違いないでしょうか?

ああ良かった。なら本当にそのままで良いです。

決意した結末がもうすぐ叶うのですもの。

ふふ、今から楽しみだわ。


死ぬことが怖くないかですか?

私はね、5歳のあの時、彼の曝された首を見た瞬間から死んでいるの。

もう死んでいるのだから、今更もう一度死ぬと言われても怖くはないわ。

むしろ彼のいる世界に行けるのなら…これほど幸せな事はないわ。


だから、このままで。

公爵家の断絶とお父様の処刑を見守ってから、私も彼と同じ処刑場で同じ方法で最期を迎える。

ずっと目標としてきたのだから。

本当に自分勝手で申し訳ありません。

愚弟とは処刑される為に仲良くするつもりはありませんでした。殿下とも愛を育むつもりは一切ございませんでした。先生方の教育も後世に伝えるつもりはなく、彼女にはこれから辛い時間を過ごさせる事になります。

でも、後悔していないのです。だって、良かったのではなくて?悪のリーダーが断罪されて政治もやりやすくなりますわ。面倒なのは最初だけよ。


そんな顔しないでください。

えっと、何を聞きに来たのだったかしら?

ああ、何故罪を全て認めたのかって事だったのですね。

彼女への謝罪かと思いました。早とちりでしたね。

うーん、全部お話ししましたね。私の理想の最後を迎える為にってところかしら。

資料はね、領民のリーダーさんが居たでしょう?

それと侍女頭に協力していただいたの。それと私は執務室に入れたから、この3人で作成したようなものですね。執事長は駄目よ。あの人は完全にお父様側の人だから。

愚弟は信用していたみたいだけど、本当に見る目がないんだから。今回の事で少しは懲りた方が愚弟の為ですね。


やっと彼の世界に行けるのね。

また一緒にお花を摘んで、笑ってくれるかしら?

今から楽しみだわ。


ね、殿下。私結構頑張ったと思います。

ちゃんと私も処刑してくださいね?


2021/10/17 短編日間17位!

本当にありがとうございます!

多くの方々に読んでいただけて、本当に嬉しいです!


2021/10/18 日間総合7位!

本当に本当にありがとうございます!


2021/10/19 日間総合1位!

嬉しすぎる…

多くの皆様に読んでいただき、感謝です!

ありがとうございます!!!


誤字報告ありがとうございます!

ら抜き言葉、油断してました…

助かります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全ては家の破滅と自らにも訪れる死の為の布石。 悲痛ですが、彼女の心は幼少にして死に、変わりに復讐だけがあったのでしょう。 壮絶なる最期、それを知ってしまったのは本当にシンドイ事でしょうね。…
[一言] 凄く良かったです! タイトルでなんとなく避けていた作品なのですが、読後に「なぜもっと早くに読んでいなかったんだ……!!」と頭を抱えました。偏見や先入観は良くないですね。 彼女に待つのは死のみ…
[良い点] とても素敵な作品で、とても良かったです。語彙力がなく、この感動を上手く伝えることが出来ないのですが、題名が気になって読み始めたら、もう一気に最後まで読んでいました。自分語りで進むストーリー…
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