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とびら、あけて4

「あの、体調悪いんですか?」

その声かけに、俯いていた女性はパッと頭を上げた。女性の顔は先ほどまで泣いていたことがありありと分かるくらいに涙に濡れている。血走った眼球は痛々しいを通り越して少し怖いくらいだ。チーフが女性の顔を見てすぐに紺屋の後ろに隠れくらいに。

ぼーっとしたような女性に、紺屋は唾を飲み込むと、再度「大丈夫ですか?」と声をかける。

そこでハッと我に返ったように、女性は濡れた頬を拭った。

「すみません、大丈夫です、ちょっと、色々あって」

無理に笑おうとする女性。

普通の人だ、と紺屋が思うと同時に背後からも聞こえてきた。チーフの声だ。

では普通でない人は、とチラリと横を見ると、男の幽霊が女性を気にかけるように手を上げ下げしている。声をかけようかやめようかという動きは、関節でないところから折れ曲っているが、明らかに気遣う動きだ。

『知り合いなん?』

チーフが男に声をかける。怖がっていたことなど嘘のように、優しい声色だ。

男はその問いかけに歪にだが大きく、頷いた。

そちらは任せて、と紺屋は女性に向き直る。

「大丈夫ならいいんですけど。タクシー呼びましょうか?」

「いえ、少し休んでいただけなので、だいぶん落ち着きました。びっくりしますよね、こんなところで泣いていたら」

そんなことは、と手を振りながら、横のやりとりに耳を傾ける。

『奥さん?』

男は首を振る。

『元カノ?』

男は再度首を振る。声を出そうとしているようだが、首元に大きく穴が空いているため、声が出ないようだ。もどかしそうに、それでも口を開いて伝えようとする。

『えーっと、ああもう、血が、怪我が、あんたすごいな、大怪我どころちゃうよそれ』

もうすっかりそのビジュアルに慣れたらしいチーフが、口の動きから答えを導き出そうとする。

『えーっと?は、へ……はへ?あえ?母音があえって何?短かない?うーん……もうちょいヒントくれ』

「何か悲しいことがあったんですか?」

ジェスチャーゲームと化した正体当てをよそに、紺屋は女性に声をかける。

瞬間、女性の眉間に皺がよった。

「すみません、誰にも迷惑をつもりはないので、そっとしておいてもらえませんか」

『あ、あかんわちょっと不審がられてるやん』

男は折れた腕で女性を指し、上を指差した。その後自分を指し、下を指差す。

『このお姉さんが上で、あなたか下……あ!兄弟?あなたのお姉さんや!』

楽しそうなチーフに、男は大きく頷いた。

「弟さん?」

「なんで知ってるんですか?お知り合い……でした?」

「あーえっと」

『もう知り合っとる。知り合いや。知り合い言うとけ』

話しながらも後ろからの大音量の声に、紺屋はそうですそうですと頷いた。

そう、と呟いた女性は、震える溜息をついた。


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