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とびら、あけて1

『信じられへん。あんなかわいい子を放置できるなんて、お前はほんまにひどい奴や』

「お前もしかしてあそこにいらっしゃる妊婦さんのこと言ってんの?誰でもいいのは流石に引くぞ」

『ははは、透明感のある僕の心の澄んだ瞳に映る人は何よりも素晴らしく輝いとんねんなあ。わかる?』

「長えし透明感じゃなくて透明だからな」

『ははははははは!』

「幽霊なら幽霊らしく陰気に黙ってらんないのお前?」

『わかったわかった。黙っとるから、お前もなんもないところに向けて大声で叫ぶ変な人するのやめぇや』

「会話してやってるんだからありがたく思ってくれ。あと叫んでるつもりねえから。地声がでけえんだわ」

ふよふよと紺屋の元へ戻ってきたチーフは、辺りをキョロキョロと不安げに見ている。

腕を組んだ紺屋は視線の先の、チーフが言うには妊婦の方、遠目には辛うじて女性と思しき人物を見ながら歩き続けている。


穏やかな晴天の午後、穴場の喫茶店で昼食を取り大学に戻ろうとしていたところである。

狭い路地で人通りもなく、空中と会話する変な人を見る人がいないことをいいことに、普通の声量で会話をしていた。

急にチーフが遠くへ飛んで行ったかと思えば、走れ走れと紺屋を急かし始めた。

掴まれた腕(実際にはヒヤッとした感覚があるだけであるが)を引っ張られるように、紺屋がその先を見つめると、確かに人がいた。

だんだん近づくにつれ、それはチーフの言う通り妊婦の方のようで、塗装の剥げたベンチに座り込んで俯いている。

「なあ」

ボソリと紺屋が呟くと、チーフが紺屋にめり込みながら顔を寄せる。外出中に会話する際、少しでも人がいる場所で変に思われないよう、どちらともなく始めた会話方法だ。

「あれ、体調悪いんだと思うか?」

『いや、違うな』

チーフは女性を、ではなく、その上をじっと見ている。

『取り憑かれとるわけでもないが、取り憑かれとるな』

「俺みたいに?」

『ははははは!!ギャグセン低っ!自分おもんないで!!』

「お前だけとんでもなくウルセェ」

耳元で爆音で笑われた紺屋は、眉を顰めてブツブツと呟く。

ついに女性の前を通り過ぎようという時、一体化し始めた程にめり込んでいるチーフが、嘲笑を含めたような、嫌に馬鹿にするように鼻を鳴らした。

『いやいや、ほら、もう見えてきたんちゃう?』

「え?」


こんな筈じゃ無かった、こんな筈じゃ


チーフの声ではない。

だが、明らかに生き物の声ではない。

長年の経験と勘でそう結論づけた声に、紺屋は足を止めた。

そして後ろを振り返り、すっかり通り過ぎた女性を、そしてその頭の上を見る。

そこには頭を抱え困っている様な、そしてチーフの様に半透明の男が浮いていた。


血塗れの様相で。


『うぅ、怖いよぉ』

「お前が言うな」

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