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幽霊に取り憑かれているっ

今日こそ決意した。

そろそろ後ろのヤツをどうにかしようと。

友人の住むご立派な寺の境内へと入り込むと、ようやく何かを察知したらしく後ろのやつが騒ぎだした。が、無視。ヘッドロックをかけられている気がする(し、実際首元に腕が見えている)が、ただ首筋を寒気が走るだけで特に問題はない。そもそも実体が無いのだからただのポーズだ。面白いことをしようとする姿勢は評価に値する。

広い敷地の真正面に見える本堂へと向かうと、そこには見知った姿が軒先に座っている。湯飲みや茶菓子を置いたお盆が見えるために、恐らく一息ついていたのだろう。こちらが近づく姿が見えている癖に、ただじっと見るばかりで全く動こうとしないのは、この状況を面白がっているに違いない。

そのニヤニヤ顔がハッキリと見えるところまで近付いて足を止めた。

「というわけで助けてくれ」

当の友人は無言で湯飲みをお盆に置き奥へ押しやり、目を細めて首を傾げた。

「特に困っとるようには見えんな」

「見えてるだろ、ここ、ここに!」

自らの頭上を激しく指差しながら喚くが、疑問符の消えない友人に我慢のならなくなり、ついにはその後ろのやつへと振り向いた。

「おいお前!わざと見えないようにしてるだろ。もっと濃く出てこい!」

『……濃くってお前な、俺はコーヒーちゃうねんで。あ、どうも』

肩に手を置き背後から恐る恐る出てきたのは、一人の男である。ただしこの男、半透明であり、更に地上から恐らく30センチメートルくらい浮いている。

友人は緩やかに立ち上がり懐から数珠を取り出し握り込むと、その半透明の男へと数珠を掲げるように人差し指を向けた。

「悪霊退散」

『ギャッ!!!!』

友人の冷静な声に飛び上がった幽霊は、猫が尻尾を踏まれたような悲鳴らしきものを上げると、再び背後に隠れるように顔を埋めた。

『何すんねんこのキチガイ!!!!』

「おい、俺の後ろ隠れてたら退散できないだろ。出てこい!」

『いややあ!俺痛いの無理やもん。知っとるくせに酷いわぁ』

「すまんすまん。でも一瞬だろ、な?我慢しよう」

『うう、嫌や、助けて』

なんともずれた二人の会話に、友人は呆れたように眉をしかめる。

「害はなさそうだが。そのままでも良いんじゃないか?」

その言葉に口を尖らせ、背後の幽霊を指差し口を開く。

「えーでもうるさいんだよこいつ。ゆっくり飯食うこともままならん」

『だって小学生みたいなセンスの飯しか食ってないやん』

「黙れお前!」

「お前ら帰れ」

途端に興味をなくした友人は数珠を懐に仕舞うと、始めと同じように軒先に座り込んだ。

「えー助けてくれよー」

「助けてほしそうに見えないから帰れ」

しっしと手で払う友人に加勢するように、幽霊は背後から浮かび上がる。その表情は嬉しそうな笑顔である。

『ほーらな、帰ろう?』

肘を引っ張る幽霊を無視しつつ、眉をしかめたまま友人を見やる。

「こいつ本当に無害か?悪霊だったら憑いてるだけで悪いことめっちゃ起こるみたいなことないか?」

胡座をかいた膝に肘を置き、顎を預けた友人は上目にこちらと幽霊を交互に見つめる。

「確かに悪霊ならありえるが。ちなみにその幽霊くんはいつから憑いているんだ?」

「3ヶ月前からいるらしい」

『いやあ、居心地いいわーここ』

即答されたそれに、友人はついに無表情になった。

「その間何もなかったなら問題ないだろ。大丈夫だ帰れ」

『よっしゃ、さあ帰ろう、さあさあ』

幽霊に引っ張られるように連れられながら、友人が見えなくなるまで「本当だな!?」「本当に大丈夫だな!?」「呪い殺されるとか嫌だからなオレ!?」と叫びながら寺を後にした。

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