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本日3話目!!
正直皆様のご期待に添えられているかどうか、ドキドキが止まらないです。
ですけど!投稿します!!
「だから待てって!!」
ガバっと布団をまくり上げ、寒くなった部屋の空気を肌に感じて、叫びながら俺は新年の朝を迎えた。
「って、ここは俺の部屋?」
新年の1月と言えば四国であっても寒く、じっとりと汗をかくような季節ではない。
垂れてきた汗をぬぐい辺りを見回すとさっきまでいた白い空間ではなかった。
明確に記憶に残るさっきまでの会話。
窓の外を見ればもう初日の出は終わり、段々と明るくなっているのがカーテン越しにわかる。
その明かりに照らされた薄暗いが見通せる俺の部屋。
勉強机に漫画と教科書が入り乱れている本棚にゲームの筐体が収まりテレビが乗っているテレビラック。
どこからどう見ても俺の部屋だ。
「夢だったのか?」
さっきまでの非現実に頭が追い付かない。
何もなかったように目覚めてしまったおかげで余計に現実感が追い付いていない。
寝ぼけているわけでもなく、いつも以上に明確に目覚めてしまった。
このままいけば変な夢を見たで済ませられそうな爽快な朝だ。
だけど。
「っ」
ニッコリではなくニタリといった音が似合うその口元の笑みを思い出しただけで、あの女性がパンドラが夢幻ではないと思わされる。
あの存在はいる。
ブルっと体が震えた。
この寒気は風邪でも、この冬の寒さに当てられたものでもなく、その狂気に当てられたものだ。
「ということは………」
そして、それが示すことはあの光景は夢ではなく正真正銘の現実。
その証拠となる記憶は俺の中に刻み込まれている。
パンドラに与えられた希望という言葉に従ってそっと使い方を理解させられた救世主の証と呼んでいたスマホを呼びだしてみた。
「出たよ」
出てしまった。
それが正直に感想だ。
心の片隅で夢であってほしかったと願っていた気持ちを裏切られる形で、手のひらにちょっとした重みを感じさせる。
念じるだけでその白いスマホは俺の手元に現れた。
もちろん俺のじゃない。
俺の使っていたスマホは今も枕元にある充電器に繋がったままだ。
2世代前の型落ちスマホ。
買い替える気もなく、ケースも傷だらけで使い続けてきたスマホ。
「ゴクリ」
それと比べて新品同様の真新しさを見せつける救世主の証とパンドラが呼んでいた白いスマホを恐る恐る電源を入れる。
「!」
電源が入ったことでビクリとしてしまう。
「落ち着け、落ち着くんだ俺。スマホなんだから電源くらい入ってもおかしくはないだろう」
寝起きなのにここまで頭がはっきりしているのは日ごろの早寝早起きの成果だけではない。
明らかに異常な光景に興奮している俺がいる。
俺がつかっているスマホよりも起動時間が短く、メーカーのロゴも表示されることもなく。通常の画面が映る。
「パスワードとか暗証番号とか設定しなくても………大丈夫か」
本当だったらその画面に行く前にパスワードとかでロックを解除する必要があるのだろうが、その必要がないことはすでに俺の中に刻み込まれていた。
この救世主の証は完全に俺専用の端末として起動しているらしい。
俺以外に電源を入れることも、画面を操作することもできず。
俺の手元から離れて10秒もすると俺の魂に収納される仕組みになっているらしい。
「できる機能は………これだけか?」
紛失対策としては万全の体制を敷いている救世主の証であるが、その画面に映る光景はいたってシンプル。
青い表示画面に、白いアイコンのアプリがたった1つ表示されている。
通話機能も、メール機能も一切ない。
たった一つ。
これだけあればいいだろうと言わんばかりにそれが堂々と表示されていた。
「………」
そしてそのアプリの内容も教え込まれている俺は、男は度胸だと心の中で叫び、力強くそのアプリのアイコンをタッチする。
「………ガチャ?」
そして知識にある通り、そのまま行けばゲームのステータス画面のようなものが表示されるはずなのだが………
「えっと、なになに。今日から始まる救世主生活。破滅へ向けて進んでいるあなたの人生にスタートダッシュを………」
表示されたガチャガチャ。
中央にTAPと表示され、その奥にガチャポンの筐体が写し出されている。
こんなのモノは知識にない。
おそらくあのパンドラという存在がわざと教えなかったのだろう。
「押すか」
ここで悩んでいてもしょうがない。
この進むには押すしかないのだ。
それに貰える物はしっかりともらう主義だ。
一応ソシャゲの類はいくつか遊んでいる。
このどんなものでもガチャを回すときはワクワクする。
「………ゴクリ」
わざとらしく唾をのんでしまう。
一体何が出てくるのか。
「いざ!南無三!」
仏教徒ではないが、なんとなく言ってしまい。
そのままの勢いでタップする。
そうすると妙に凝った演出でガチャのハンドルが回り、1周したタイミングで丸い球体が出てきた。
「お!金色だ!これ絶対いい奴だろ!!」
そして出てきた色のカプセルに俺は歓喜する。
レア度の段階がわからないから何とも言えないが少なくとも外れということはないだろう。
ついつい興奮が上がってきてしまうが気にせず、ドキドキする気持ちのままそのカプセルが開くのを待つ。
『称号 才覚者 を手に入れました。
金 10キログラムを手に入れました』
そして機械音声のような女性の声がスマホから聞こえてきたと思うと、ボスンと俺が今座っているベッドに重い音がした。
「え?」
そこに現れたのは銀色のジュラルミンケース。
よく映画とかの闇取引とかに使われたりするあれだ。
結構大きめのそれは俺の部屋では違和感をバリバリ感じさせる。
救世主の証片手にぽかんと見ること数秒。
「え?金?かね?」
いきなり現れたことに驚きが隠せず、俺は表示された文字とジュラルミンケースを交互に見て10キロという単位から見て円の方ではなく、金属の方の金だと理解した。
「………」
恐る恐るジュラルミンケースに手を伸ばし、そっとケースのロックを外し、ゆっくりと開く。
「本物?」
ジュラルミンケースの内側は赤い布のようなものでコーティングされていて金が傷つかないようになっている。
その中央には綺麗に整然とならぶ黄金の輝きが見えた。
全体を見渡して、その黄金に刻まれた刻印と、さらに書類らしきものが見えたのでそっとつまんで書類だけを取り出してみる。
「………本物だ」
鑑定書と書かれたその書類は刻印された番号に従ってその金が本物であることを示している。
カタカタと震える手で枕元にあった自分のスマホに手を伸ばして、震える指で今の金の相場を調べると。
「1グラム8000円」
愕然とした声がこぼれた。
目の前にあるジュラルミンケースの中身はとりあえず8000万円の価値があるということ。
「………」
現実味がなくとも現実であることがわかってしまった。
あの白い光景で出会った女性は夢でも幻でも俺がこんな女性と出会いたいなという歳相応な妄想でもなく現実だとわかった。
「………じいちゃぁああああああん!!!!」
わかってしまった俺は慌ててジュラルミンケースをひっつかんで大声で起きているだろうじいちゃんのもとに駆けだした。
居ても立っても居られない。
どたどたと築年数がかなり立っている木造家屋の廊下を走り、階段を駆け下り、明かりの灯り朝からの正月番組のテレビの音が漏れる居間へと駆けこむ。
「じいちゃん!!」
ガタンとこれをやったらいつもなら怒られるような勢いで扉を開き、なだれ込むように居間へと入るとお茶を飲むために湯呑をもった御年70歳にしては筋肉質なじいちゃんがいた。
台所にはばあちゃんの後姿も見えるが、事情を話した俺にとってはじいちゃんのもとに駆けよる。
「なんじゃ、新年早々から騒がしい。まずは挨拶じゃろ千翔。ほれあけましておめでとう」
「あ、あけましておもでとう!って挨拶してる場合じゃないんだじいちゃん!大変なだよ!」
「なんじゃなんじゃ、そんなにあわてて冬眠してた熊でも起きてきたか?」
俺の必至な形相にじいちゃんも何かあったとわかってくれて、湯呑をおいて俺と面と向かって座ってくれる。
「ほれ、まずは茶でも飲んで落ち着け。落ち着かんことには話もできんじゃろ」
そして急須の中に入っていたお茶をちゃぶ台の上に常備されている湯呑に注いで俺に渡してくれる。
それを受け取り、一口飲むと少し渋いが、慌てていた俺にとっては一息つくにはちょうど良くようやく落ち着くことができた。
「ありがとう」
「落ち着いたか?」
「うん」
流石じいちゃん。
年の功は伊達じゃない。
どっしりと構えて動じないじいちゃんに聞かれた俺は、どれだけ慌てていたのかようやく理解した。
たしかにさっきまでの状態じゃうまく説明もできない。
「千翔、何が起きたか話せるか?」
「うん」
けれど、今なら話すことができる。
「実は」
そして俺は話した。
夢の中であったこと、そこで出会ったパンドラの事。
そこで感じたことと、そしてついさっき手に入れたジュラルミンケースのことを。
「………」
「………」
身振り手振り、とにかく伝わるように真剣に話したつもりだ。
世界が滅びるかもしれないということは俺にもにわかに信じがたいことであるが、信じないとは断言できない。
こうやって出所不明の金が現れてしまったことで、あり得るかもしれないという事実も現実味を帯びてきた。
「どう思うじいちゃん」
「う~ん」
自分じゃどうすればいいかわからない。
だからこそ、真っ先に相談役に選んだのがじいちゃんだ。
小さいころに両親を事故で亡くし、そこから引き取って親代わりをしてくれた頼れる祖父。
将来はじいちゃんの経営している蜜柑農園を引き継ぎたいと思えるほど大好きな祖父だ。
だけど、信じてくれるかどうかは正直不安だ。
実際に見た俺でもまだ信じ切れていないような妄想の話。
それを見てもいないじいちゃんが信じられるかと腕を組み悩む姿のじいちゃんのみて不安が増す。
一応、ジュラルミンケースを渡して中身の金も見せている。
「世界が滅ぶかぁ」
そう言って、ポンとジュラルミンケースを閉じるじいちゃん。
「そいつぁ一大事じゃな」
そしてうんと頷き膝を叩いたじいちゃんは立ち上がり、居間にかけてある外行きようの上着を羽織り始める。
「ばあさんや、ちと猟友会の連中のところに行ってくるわ」
「はいよ、お雑煮はどうします?」
「後で食べるからワシの分も餅とっていてくれよ」
「わかってます」
仕方ない人ですねとそんな行動に対して疑問にも思わず、同意してくれる姿は長年連れ添った夫婦だからか。
何も聞かず当たり前のように行動しているじいちゃんとばあちゃんに俺はつい。
「信じてくれるの?」
と聞いてしまう。
俺でもまだ信じ切れていない。
だけど、そうなるかもしれないという曖昧ない可能性で不安でいっぱいな俺の言葉にじいちゃんは何言っているんだこいつと呆れた顔を見せた後に。
「何言っておるんじゃ。大事に育てた孫が真剣に言っているんだ。それだけで信じられるわ」
その夫婦関係とまではいかないが、10年以上育ててくれたじいちゃんの言葉は暖かく俺の不安を拭い去ってくれた。
「ほれ、千翔。お前がこんと話が始まらんじゃろ。さっさと顔洗って出かける準備をせい」
「ああ!」
そのことがうれしくなり俺は再び部屋に戻るために走りだす。
「おっとっと!その前に」
だけど冷静になってようやく思い出して、2階に上がる前に少し寄り道を。
廊下に出るのではなく、廊下を渡り、今の向かいの部屋に入る。
「父ちゃん母ちゃん、あけましておめでとう。今年も見守っててくれよな」
そこで線香を1本たててしっかりとお参りする。
そこにあるのは俺の両親の仏壇。
ムッとした表情の親父と、ニッコリと笑う母ちゃん。
対照的な写真だったが、俺の中の両親の顔も似たようなものなので俺にとってはいつも通りの表情の2人。
「今年が始まったばかりだけど、なんか来年世界が滅ぶっぽい。それどうにかするために俺頑張るから」
ただの高校生に何ができるか。
その可能性はすでに与えられた。
この力が盤上をひっくり返せるのかはわからない。
未知数。
それしかわからない。
パンドラに植え込まれた心臓部分に手を添えて、これで何ができるか考える。
「精一杯生きるから!」
けれど冷静になって救世主の証の使い方がわかるだけで、何ができるかまではまだ見ていないことに気づく。
「とりあえず、頑張るから!」
締まらないなと思いつつそれしか言えないのだから仕方ないと笑いつつ最後にもう1回手を合わせて仏間を後にする。
〝がんばれ〟
〝がんばりなさい〟
その時なんとなくだが、子供のころから聞けていなかった親父たちの声が聞こえた気がした。
振り返って見たら、いつもの顔ではなく、少しだけ優しく笑ったような写真に見えた。
瞬きすればそれも元通りになり、気の所為かとも思ったがパンドラのような存在もいるのだ。
これぐらい不思議なことがあってもおかしくはない。
「ああ!頑張る!」
だからこそこの返事であっていると思う。
ここから始まる何かの一歩目は。
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