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本日2話目でございます!
どうしよう、初対面のはずなのにいきなりすごいこと言われたよ。
あなたの敵ですって、なかなか聞かないセリフだぞ?
そんな珍しい言葉を言われるほど俺はこの美人さんに何かしたのか?
生まれてから約17年女性に恨みを買わないように心がけてきたつもりだ。
保育園の時は母ちゃんに言われて女の子には優しくしなさいを有言実行。
小学生の時はクラスの女子が重いものを持たないように気を配った。
中学生の時も女子生徒が困っていたら手伝うように心がけていた。
それから高校生になったら農業高校に進んで女子生徒との接点はゼロに近くなったけどな!!
だからこんな色白外国人美人さんに恨みを買うようなことは一切していないと断言できる!
もしや前世の俺が何かしたか!?
覚えていないだけで実は根深い恨みがあるとか!?
流石に俺もそこまではカバーできる自信はないぞ。
現実的に考えて時効だ時効!
そもそも俺の英語の成績で日常会話ができるかどうか怪しいレベルだぞ!
絶対会話の時はボディーランゲージを混ぜる自信がある!
「あと、ここに連れてきた誘拐犯ですよ」
おっとぉ、心の中で葛藤していたら、今度は聞き捨てならない言葉も出てきた。
俺の敵で誘拐犯。
うん、ますます情報が増えて、若干情報過多になってきた。
でも大丈夫俺は冷静。
「………おまわりさーん!この人が誘拐犯でーす!」
農業で鍛えられた筋肉と肺活量を駆使した大声は山の向こうまで響くとじっちゃんに太鼓判を押してもらえるほどの声量。
困ったときは助けを呼べとじいちゃんが言ってた。
多分この時のために教えてくれたんだと思う。
そして白い景色の空間に警察官がいるとは思えないが、無駄だとわかっていても叫ばずにはいられない。
この美人さん、パンドラさんだったか。
自分から誘拐犯と名乗っているのだからこれすなわち事件ってことだろ?
やまびこすら聞こえず、シーンとなってしまった空間に、両手を口に添え大声を出した状態でパンドラさんに背を向けている。
「………」
「ご満足されました?」
「………せめて叫んでも無駄ですって言ってくださいよ」
「叫ばせて疲れたところで説明したほうが色々と都合がいいんですよ」
その結果はお察しだ。
叫んだところで頭に赤いランプを乗せた白と黒のツートンカラーの車が来るわけもなく、優しく生暖かくパンドラさんに背中から声をかけられ、恥ずかし気に振り向くとニコニコと笑顔を見せて駆けられた言葉が余計に羞恥心を刺激してくる。
なにやらこの会話も手慣れた様子で、よくあることだと言われているように聞こえたりもする。
すなわち、俺以外に攫われている人がいるってことか?
「まぁ、誘拐と言っても少々語弊がありまして、正確には今のあなたは魂だけの存在になっている状態で、その魂をこの場に呼び寄せているというわけです」
「………わかりません!」
俺の疑問は積み重なるものなのだろうか。
もしくは俺の言った言葉を聞いててその言葉に合わせて説明してくれているのだろうか?
どちらにしろ意味がイマイチ分からない。
なのでわからない時は聞けという担任の教師の教えに基づき、ピシっと挙手の形で質問してみる。
「簡単に言えば幽体離脱ですね。あなたは今幽霊さんですわ」
「ほうほう、幽霊………って!?俺死んでるの!?ここは天国!?」
「ある意味では天国と呼べる場所かもしれませんけど、一応違います。それと心配されている肉体の方は無事ですよ?今もぐっすり眠っていますし、用件が済んだらきちんと元に戻しますのでご安心を」
しかし、教えてもらった答えにまさかここは天国?と勘違いしそうになったが、どうやらそうではないらしい。
「………えっと、俺は今幽霊の状態で、その幽霊の状態にしたのはパンドラさんで、ここは天国じゃなくて、この状態にした理由はパンドラさんが敵だけど俺に用事があったからで間違いない?」
そして頭の中で理解できた部分だけをかいつまんで聞いてみる。
ただ言っている俺としてもめちゃくちゃな文章になったただ単語を繋げただけの言葉になってしまった。
「はい間違いありませんよ」
その説明でも理解してくれて、間違いないと確認もしてくれた。
じつはいい人なのかもと思って見るが敵だって言われているからなぁ。
本当になんでこの人が敵なんだろう。
とりあえず、その用事を聞いてみるとしよう。
蜜柑の注文とかだったらじいちゃんやばあちゃんに聞いてみないといけないんだが。
あ、もしかして敵って商売敵って意味で敵?
だったらうちの秘伝の肥料の作り方を教えるわけにはいかないな!!
あれでうちは酸味と甘みのバランスをとって卸しているスーパーからはご好評いただいているんだ!!
「それで用事って?」
といい加減冗談を頭の中でたれ流してシリアスっぽい空気に抗うのも限界なようで、いい加減話を進めよう。
「はい、端的に言いまして、この度世界にいる人類を滅ぼそうということになりましたのでその宣戦布告に参りました」
「うん、人類を滅ぼしに………?」
あれ、今この美人さんとんでもないこと言いませんでした?
さっきまで割とのんびりと緩やかな空気を醸し出していたように感じましたが。
「はい、言いましたよ」
「心の声に反応できるんですね」
「しっかりと口にしてましたよ?」
「ああ、なるほど、ということは俺の聞き間違いというわけではなく」
「ええ、私、世界を滅ぼす使者ですわ」
………夢だなこれは。
新年早々変な夢を見たものだ。
世界を滅ぼすって、ノストラダムスの大予言に出てくる大魔王でもあるまいし、西暦2000年は俺が生まれる前に過ぎ去っているっての。
「ちなみに冗談でも何でもなく、来年から滅ぼす予定です」
「え~ここは冗談って言う所だと思うんだけど?」
「その疑いの視線や頭の病気じゃないかって思われているような視線も最早慣れました。嘘でも戯言でも冗談でもありません。私、来年から世界を滅ぼします」
「いや、滅ぼすならなんで今日からじゃないの?一応日本では新年の元旦、初日ですよ?明日から本気出します的に言われても」
言っている口調も表情も真剣なパンドラさんであるが、来年から滅ぼすって、有言実行する気があるのだろうか。
少なくともする気があるのなら今から滅ぼす程度の言葉は言うはず。
「ああ、そういう部分でお疑いになっていたのですか」
だから俺はこの時まで、この女性の存在は夢の存在で、明晰夢を見ていて面白おかしく起きたらじいちゃんたちに初夢はこうだったと語ってやろうと思っていた。
「私がやりたいのは蹂躙ではございませんの」
だからだろう。
ニッコリと笑う表情がこんなにも怖いだなんて初めて知った。
「っ」
「フフフ」
楽しかった時間はおしまいと言われ、俺は矮小な存在だと教え込まれるように、その嘲笑は俺の心臓を握り潰そうと鷲掴みにしてくる。
さっきまで何も感じていなかった。
これが敵意というやつなのか?
わからない。
金縛りにあったように体は動かなくなって、ジワリと汗が流れてくる。
「闘争の果ての滅びこそが私の求める滅び。ただただ、今無力なあなたを一方的に滅ぼすような滅びなんてつまらないじゃないですか」
そしてパンドラさんの言う滅ぼすという行為は過程が重要だと語っているように聞こえる。
実際そうなのだろう。
そうではないと世界を滅ぼすなんて大言壮語につまらないなんて言葉は使わないはずだ。
「私が敗北する可能性がある。それが一番ドキドキしてワクワクしてハラハラするのじゃないですか!リスクがあればあるほどいい!!そのリスクを一つ一つ丁寧につぶしていって、最後に見れる相手側の絶望の表情!!人類が俯きただただ泣き叫ぶだけの光景の末路!それが最高に綺麗で最高に心躍る光景でしょう!!」
理解した。
理解させられた。
この女性が最初に敵だと言った理由を理解した。
この人は危険だ。
だまって放置してはダメな存在だ。
「理解していただけましたか?私が来年から滅ぼすというのはあなた方人類に1年の準備期間、いえ、もがくための猶予を与えるということです」
でも、一体全体どうやって抗えばいい。
この普通ではない女性に。
そもそもこんな摩訶不思議な空間に招くことができるような漫画みたいな技を使える存在に鍛えているだけの高校生に何ができる。
ゴクリと狂気に気圧されてしまった俺の喉が渇く。
つばを飲み込んでも乾いた喉は潤わない。
ただただ、怖い。
無力。
俺は無力という事実をただただ突きつけられている。
悪夢なら覚めてくれと願いそうになる気持ちを抑え込み。
うっとりと悦に浸るパンドラに何か言わねばと心を鼓舞する。
「っ」
だけど口が開かない。
いや開いている。
喉が怯えて声を出すことを拒否しているんだ。
心が大人しくしていろと行動を否定してしまっているんだ。
「なので!」
そんな俺の葛藤など気にせず、いつの間に取り出したのかわからない速さで、ピシリと扇子を突きつけられる。
その扇子の色も黒一色。
扇子の先端を見つめ黙るしかなく、そっとずれた先にあったその狂ったように喜ぶパンドラの表情を俺は黙って見るしかなかった。
「ただ怯えるしかない無力なあなたにも無駄に抗うための力をあげます」
突きつけられた扇子がスッと下げられ、今度は女性が一人持つには少々大きめの黒い箱をパンドラはどこからともなく取り出して見せる。
「パンドラの箱、私の名前の代名詞にもなっている代物。この箱が解き放たれた際に最後に残ったものをご存じでしょうか?」
それは俺でも知っている有名な話だ。
様々な絶望がふりまかれる中、その箱の中に残ったモノは。
「………希望」
絞り出すようにかすれた声で出せた声。
「正解ですわ」
答えを言うまでじっと待つつもりに見えたので答えてみれば、ニッコリと綺麗な笑みを見せて正解だと褒めてくれる。
しかし、さっきの狂った姿を見てしまった後では、最初は綺麗に思えた笑顔にもうすら寒さを感じる。
「ですが、その希望は実は残されたのではなくあえて残していたと言ったらどう思われます?」
そんな俺の感想など気にしたそぶりも見せず、その黒い箱に手を突っ込みそしてゆっくりと何かを引き出す。
「希望あってこその絶望だと、絶望するためにはやはり縋れるものがなければなりませんものね?」
「………スマホ?」
それは白いスマートフォンだった。
色も形も、なんら変哲もないただの白いスマホ。
「あなた方現代の人類に合わせて用意しました。私からの唯一の餞別ですわ。これはパンドラの箱から取り出された希望の一欠けら」
それを手渡すのではなく、ギュッと俺の胸に押し付けてくる。
思わず一歩退こうとするが、それよりも先にそのスマホが俺の体の中に溶け込む方が早かった。
「!?」
「慌てなくとも大丈夫、害はないですわ。何せそれは希望。人類に害を及ぼすものではないですもの」
さっきまでの恐怖は何だったのかというくらい素直に動いた俺の体は溶け込んでしまった白いスマホの行方を探るべくペタペタと体を触ってみるが、どこに行ったか分からないくらい違和感がない。
異物を受け入れたというのに体に変調はない。
「今あなたの魂に植え込んだのは救世主の証と私が名付けた力です。使い方に関しては一緒にあなたの魂に植え込んでおいたのですぐに理解できると思いますわ」
「使い方って言われても………!?」
ここまでの流れ全てが異常だとわかっているのに。
それがおかしいことだとわかっているのに、パンドラに言われた通り、使い方と考えただけでさっき植え込まれた力の使い方が手に取るようにわかった。
わかってしまった。
「それと同じものを1万人分、世界中にばらまきましたわ。ここから先の選択はあなたの意思一つで決まります。私の言葉を信じる信じないも自由。信じて他の救世主と協力するもよし、敵対するもよし。信じず何もしないのも良し。世界が滅びるその日まで好き勝手に生きてくださいまし」
そのことに戸惑いつつ、これで要件は終わりだとパンドラは話を締めくくろうとしている。
実際夢から覚めようとしてる感覚がある。
こちらの質問には一切答えないと言わんばかりの態度に焦る。
「私としては、盛大に抗ってくれることの方が楽しませてくれるのでうれしいですわ」
待てと言いたいがその別れに抗うことはできず、さっきまで自由に出ていたはずの声が出ない。
「では、次に会う時はあなたと私は敵同士。有意義な闘争を期待していますわ」
聞きたいことも聞けず、本当に用件だけを切り出し、パンドラと名乗った恐ろしい女性は白い景色の中に消えていった。
1日目連続投稿2話目いかがだったでしょうか?
楽しんでいただければ幸いです!!
今日はもう1話投稿する予定です!!