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第2作品目の投稿でございます。
皆様が楽しんでもらえることを祈って、誕生日に投稿させていただきます!!
【舞台挨拶】
そこはただ一人が立ち尽くす舞台。
周囲に誰もおらず。
ただ一人の女性がそこに立っているだけだった。
「さぁ!さぁ!今宵皆様方にご覧いただくのは正しく、この世界の趨勢を決める大事な一幕!!」
その女性は誰もいないのにもかかわらず、まるでそこにいる観客に届けと声を響かせた。
「この舞台の黒幕は後にも先にも私ただ一人!!」
喪服のような漆黒のドレスを身に纏い、身振り手振りでこれから話す内容は重要であると大仰に振舞い注目を集めようとする。
そしてそんな振る舞いをしつつ、感極まるかのように笑顔を見せつつ涙を流す女性は、この舞台の展開をどう思っているのか。
彼女の役割は女優であり監督であり、あるいは演出者。
「私パンドラがこの世界の終末への除幕を担当させていただきます!!」
誰に向けてかわからない仰々しくわざとらしいお辞儀。
「では皆さま、これより来る舞台の演出を老若男女、人も獣も神も関係なく存分にお楽しみください!!これより開幕!開幕でございます!!」
彼女は一体何がしたいのか。
誰もいな空間。
誰もいない客席。
では、このメッセージは誰に向けたモノなのか。
それを知れる者はおらず。
そして知る方法はない。
わかるのはただ一つ。
「序章 白と黒の救世主の開幕でございます!!」
誰もいない空間で、彼女はただひたすら涙を流しながら笑っていたその事実だけだ。
【舞台挨拶 終】
これは夢だと思える現実味のない光景が目の前に広がっていた。
「え?ここは」
ただただ白い景色に白い地面だけが広がる空間に俺の声が響く。
ただただ広い見たことも聞いたこともないような空間
声もはっきり聞こえるが、どこかぼやけているようにも聞こえる。
辺りを見回した時に感じる体の動きもわかる。
ついつい手が頬に伸びギュッと握ると、ジワっとした痛みがしっかりと頬に感じる。
「痛い。なら夢じゃないよな!」
それなら夢じゃないと断言したが、すぐに理解した現実に。
「………だったらここはどこだぁ!!」
絶叫することになった。
頭を抱え、え?えっ?と混乱する頭を必死に冷静に保とうとする。
「落ち着け、落ち着くんだ俺。こういう時は直前に何をしていたかを思い出すんだ。いや、その前に自分のことを確認したほうがいいのか?」
突如として寝間着姿のまま知らない場所に連れ去られてしまい、何をすればいいんだと考えが先走り、落ち着けと口走るも一向に落ち着ける気がしない。
それはそうだ。
一体全体、ここはどこなんだと説明すらなく連れてこられたのだから。
「よし!訳が分からなくなったときは開き直るんだってじいちゃんが言ってた!なら開き直ればいいんだな!ここはどこかわからない!それでいい!」
だがそんな時にこそ役立つのが先人の知恵!
具体的に言えばじいちゃんの知恵だ!
思い出したのは育ててくれたじいちゃんの言葉。
夕食時の昔話で語ってくれたじいちゃんの自慢話、何とかなる精神。
それを実践してみたが。
「………いやよくないよなぁ!?じいちゃん!俺、もしかして誘拐された!?」
だけど、その先人の知恵はどうやら俺にとっては逆効果だったらしい。
余計に混乱を招く結果となったような気がする。
いや本当にここどこ?日本?もしかして。
「俺死んじゃったぁ!?ここってもしかして天国!?」
自分でも訳の分からないことを言っているような気もするが、的外れではない気もする。
だって何ないし、何か不思議な空間だし、もしかしてここが天国?
「嘘だろ、俺、まだ彼女もできてないのに」
俺、仁義千翔享年17歳、彼女いない歴イコール年齢って。
「………んな簡単に死んでたまるかぁ!さすがに普通に寝て死ぬなんてわけわからないし、そこまで不健康な生活を送ってない!むしろこちとら現役農業高校生、早寝早起き当たり前の今どきの高校生にしてはおかしいって言われるくらい健康な生活を送ってる!!飯だって無農薬野菜とか食って元気だぞ!まだまだ俺は若い!」
小学生のころから子供は風の子を地で行く生活を送ってきたのだ。
インフルエンザが蔓延した時だって、俺一人だけ健康だったと自慢できるくらいに頑丈であると自負している。
ヒグマと素手で喧嘩をして生き残ったことのある近所のゲンさんにも健康優良児だと太鼓判を押されたほどの現役バリバリの農業高校の学生の健康体舐めるな!
急病で急死なんて断じてあり得ない!!
来る日も来る日も、潤いのない男の空間で毎日、毎日農作業を繰り返している十代の体がそんな軟であってたまるかぁ!
女子との付き合いという潤いを手に入れるまで死んでたまるか!!
崩れ落ち四つん這いになっていたが、様々な未練が俺を引き留め、やる気に満ち。
「俺はまだ生きる!!いや死んでないけど!とりあえず生きる!」
一念発起。
両手を掲げ、気合を入れ込むことでようやく冷静に考えることができる準備ができたと思う。
「いや、生きるとなるととりあえず飯とか水の確保とか、その前に110番通報か?いやこの場合はレスキューだから119?いや現在地の確認が先か?」
若干混乱は残っている気もしなくはないが、それでも訳の分からないまま混乱しているよりはいい。
何をすべきか、とりあえず目標を掲げてみればおのずと道は見える………はず!
「ん~わからん。見渡す限り白い地平線の彼方。本当にここは地球ですかと言いたいくらいに天も地も白い。ワンチャン、アブダクションされた可能性すらあり得る」
しかし、見渡す限り見えるものがない。
いや、白い景色は見えているんだが動くモノどころか、建物すらないとなるとどうすればいいんだと言いたくなる。
寝ている間に宇宙人に拉致されてしまったと言われた方がまだ納得できるような光景だ。
「ん~でも、寝る前は普通に布団に入って寝たから、へんな模様とかUFOを呼びだすようなおまじないとかしてないぞ?」
そこで昨日は大みそかの特番を見て日付が変わって年越しそばを食べて自室のベッドに入って眠ったことを思い出してみる。
いたって普通、何らおかしなことはない。
「体も………変な改造とかされてないよな」
そのことを思い出せば、次はボディチェック。
常日頃の農作業で鍛え上げられた肉体の腕や足に力を籠め、密かに自慢であるシックスパッドの腹筋を確認し満足した辺りで体には異常がないことを確認する。
「問題なし!多分!」
医者ではない俺の勝手な自己診断であるが、それ以上に調べようがないので保留とするほかない。
元気な声で問題ないと腰に手を当て大きな声で宣言した後に同量の声量で多分と付け加えたのは念のための予防線。
自身の体に問題となればいよいよ動き始めないといけないなと、再度周囲を見回すが、改めて何もないことを再確認するだけに終わる。
「ん~それにしてもわからない。なんで農家生まれの俺を誘拐する必要がある?そもそもうちのじいちゃんやあのじいさんたちが敷地内に不審者を侵入させるとは思えんし、しがない蜜柑農家の孫攫っても意味ないんだと思うが、身代金でうちの蜜柑でも要求する気か?」
それなら素直にスーパーで買えよと心の中でツッコミを入れつつ誰も反応してくれない寂しさを感じる。
段々と冷静になってきたが、誘拐という線を考えれば考えるほど、何の意味があると頭の上にクエスチョンマークが浮かんでしまう。
「わからん。本当に訳が分からん」
作物泥棒イコール無償労働者と豪語するご近所の筋肉老人集団がゴゴゴゴと擬音を背景に立つ姿を思い浮かべつつ、自分の立場を客観的に見てみるも、誘拐する意味が理解できない。
身代金など払えるはずもないし、実は隠れた血筋みたいな設定もない………はず。
「親父は消防士で母ちゃんは看護師………うん、誘拐する意味がないな。うちの土地はひいじいちゃんから始まった蜜柑農家だから由緒正しいってわけじゃないし」
中学の頃に交通事故で亡くなった両親のことを思い浮かべても誘拐されるような恨みを買うような人物ではなかった。
無口でも少しユニークな父に天然交じりの優しい母、思い出の中の両親と一緒に住む祖父母の話からしても両親は善人だったはずだ。
「?????」
増々わからなくなった。
どの方向から見ても誘拐という結果には結びつかず、結局はここはどこだという話に戻る。
なぜ寝て起きたら知らない空間にいるのか、そもそも起きた時の特有の眠気もなかったので本当に起きたのかすら怪しい。
しかしここまで明確に意識があると夢である可能性は低い。
「ん~、んん~んんんぅ?」
唸り、必死になって頭を捻る。
「考えろ、考えるんだ俺。偏差値はそこまで高くはないが、低くもないはずの脳みそをフル活用しろ!あとでバナナで栄養補給するから!」
馬鹿ではないがそこまで賢くない頭はこの不可思議な現象に対して明確な解答を導き出す結果には至るまでの努力をするが。
唸ること数分。
バナナ1本分のカロリーを消費したのではと思うくらいに頭を働かせ、いよいよ頭から蒸気でも出てくるんではないかと知恵熱を起こし始めてようやく考えるのをやめる。
「ここがどこかわからないこととなぜ俺がここにいるかわからないことがわかったな!!」
元気よく今までの時間の無駄であったことを宣言して見るがそれで解決する兆しはない。
「わからないなら、人に聞くのが一番ですよ?」
「なるほど名案だな!!」
本当にどうしようと悩む間もなく、なぜか隣から声が聞こえた。
って。
「声だ!?」
「はい!声ですよ」
我ながらかなり早い反射神経で体が反応したと思う。
左耳から聞こえたから思いっきり体を左に向けると、先ほどまで誰もいなかったはずの場所に1人の女性が立っていた。
「誰ですか!?あ、その前に俺の名前は仁義千翔です!あ、日本語通じます?」
その見た目はこの白い空間に落ちた一滴の墨汁のように黒一色のドレスを身に纏った白金の長い髪を持った女性。
青い瞳に白い肌。
全身を黒色でコーディネイトされていて、日傘すら黒一色とは逆にそんなファッションなのではと思ってしまう
見るからな日本人ではない容姿の女性に、とりあえずじいちゃんに教わった通り自己紹介から始めて見たが、よくよく考えると相手は外国人。
日本語が通じるか?
「最初に私の方から日本語で話しかけているので大丈夫ですよ?それと自己紹介ありがとうございます。ジンギ・ユキト君」
と思った俺の疑問は思い返してみれば日本語で話しかけられているのだ。
日本語がわからないわけがない。
「あははははは」
少し恥ずかしくなり、照れて頭を搔いてしまう。
相手が美人の女性であるのならなおのことそうだ。
学校では男女比率9対1でほぼ男だけの環境。
私生活では平均年齢が60歳を超える山沿いの限界集落に住んでいるため、一番年の近いのは3軒隣の出戻りおじさんで猟銃マニアの橘さんだ。
そんな橘おじさんでも今年でたしか38歳。
俺とは20歳以上離れていることになる。
そんな環境で育って、女性とこうやって真正面から話す機会などほぼほぼなかったらついつい緊張してしまう。
落ち着け落ち着くんだ俺。
さっきとは別の意味で緊張し始めてしまっているような気がしなくはないがそれはそれ。
ちょっと誘拐されてラッキーだなと思いつつある。
なにせ将来的にじいちゃんの農家を継がないといけないのだ。
嫁さんは必須。
チャンスは逃すなってじいちゃんは言ってた。
「それと」
「はい!」
女性の話は真摯に聞けというのはばあちゃんの教え。
話を聞く体制は万全と、背筋を伸ばしまっすぐとその綺麗な顔を見る。
あ、本当にシミ一つない綺麗な顔だ。
目が合い、ニッコリと微笑みかけられるだけで女性に免疫のない俺には毒のように体に染み渡り、顔が熱くなるような気がしてくる。
「私が誰かという質問なのですが」
「はい!教えてくれたらうれしいです!」
前のめりすぎか?なんて思いつつも、この衝動は抑えられない。
こんな美人な女性との出会い一生に一度しかないような気もする。
焦らずじっくりいけ。
もし名前を教えてもらえたら、次は蜜柑は好きですかと聞いてみようか?
いや、まてまて落ち着け俺。
そんながっつくような言い方は女性に嫌われると、2軒隣の昔はモテモテだったと自慢してた千代さんが言ってた。
ここは落ち着け。
相手の好みを聞く時は、まずは受け身になれだ。
女性の話をしっかりと聞く男はモテると千代さんが言っていた。
実戦経験はないが、近所の爺さん婆さの長話を聞くのにはなれている俺にはそんなことは朝飯前だ!
さぁ!
名前も知らない美人さん!
俺に話を聞かせてくれ!
「私の名前はパンドラ、あなたをここに招き入れた。あなたの敵です」
どうしようじいちゃん、ばぁちゃん。
知らない美人さんに敵対されてしまったよ。
今日は残り2話ほど投稿する予定です。
是非とも、今作もよろしくお願いいたします!!