末永く爆発しろ(百合。第三者視点から)
私の親友三人のうち二人……忠峯晧子と田部はづきは、ちょっと様子がおかしい。
例えば。
「……はづき。ほっぺた、お弁当ついてる」
「え、あ、本当?」
昼休み。四人でお弁当を食べているときのこと。
「こっち?」
「ううん」
晧子は、そっと隣のはづきに顔を寄せ。
「こっち」
ぺろ、と。
頬についた米粒を取った。
自らの舌で。手を使わず。
指摘するでもなく。
長いワンレンの黒髪を耳にかけながら。
己の舌で。
「ありがと、晧」
「ん」
それに対して、はづきは抗議するでもなく、ただ単に礼を述べるだけ。
小首を傾げるようにして。さらり、とミディアムヘアが揺れるが、そこに動揺は見られない。
「「…………」」
私ともう一人の親友……早川唯は、それを呆然と見つめたあと。
「いやいや、アンタらさぁ……」
ハッと我に返り、ツッコんだ。
「ん。何?」
「恥ずかしないんか」
「何が?」
「だから、さっきの……」
「米粒取っただけじゃん」
二人は、どちらも平然とした顔をしており、奇妙な心地を覚えた私たちの方が、まるで可笑しなことを言っているような感じになる。
「いやいや、それでちゅーする必要あるか?」
「んー……必要っていうか」
はづきが、晧子の方を見た。
「ちっちゃい頃からこれだもんね?」
「そうそう。これが、普通だったから。幼稚園の頃から一緒だしね」
晧子も、普通の顔で、普通の声で頷いている。
「いや、普通じゃないから!」
普通の幼馴染は、そんなことしない。
「そもそも、はづきは嫌じゃないの?」
唯がツッコんだ。
「えー?」
はづきは、更に首をかしげて、
「嫌だって思ったこと、ないなぁ……」
言った。
その答えを聞き、晧子は、こちらをちらっと見た。
大して表情は変わっていないように思うが、心なしか目が輝いている気がする。口元も、わずかに上がっているように見えて、音にするなら、
ドヤアアア……
だろうか。
うざいことこの上ない。
「むしろ、これじゃなくなっちゃったら寂しいかな」
ドドドヤアアア……
ドヤ顔がさらなる輝きを放つ。
「ほんっとにその顔、腹立つわ」
やめろ、と言ったところで、「あっ」とはづきが小さく叫んだ。
「晧、図書室、今日がうちらの当番じゃなかったっけ?」
「ホントだ」
やばいやばい、と二人は慌ててお弁当を片付ける。
「それじゃぁねー」
ほどなくして、お弁当をしまうと彼女らはバタバタと教室を出て行った。
昼休みの図書室は、図書委員が当番制で貸借手続きをすることになっている。
「……あの二人ってさ、出来てんのかな」
二人が走り去ってから、私は思わず唯に聞いた。
「さあ、どうだろ」
唯が肩を竦める。
「じゃあ晧の片想いか?」
あいつはゼッテー好きだろ、はづきのこと。
私が言えば、唯は、
「んー」
と窓の外に視線を投げて。
「意外とそうじゃないかもよ」
と言った。
私も、何気なく窓の外を見る。
すると、特別校舎に続く渡り廊下を、バタバタと走っている二人がいた。
晧に手を引かれるはづき。その頬が朱いことに、私も気が付いて。
「両想いかよ」
うざっ、末永く爆発しろ。
思わず、乱暴なお祝いの言葉を零してしまった。
「結婚するなら、せめて就職してからにして欲しいね。ご祝儀的に」
唯がそう言って、ふふ、と笑った。
END.