第二十七話 再び…[交叉]
意識を暗闇の中に沈める。
三国幸利は分かっていた。次は、本物が来る、と。
予想ですらなく、確固たる確信。この胸に確かに伝わってきた物があったのだ。
だから、生かした。それが、暗殺者として甘いかと問われれば、それは否定出来ないだろう。
だが、彼は暗殺者と言う仕事には全くと言って良いほど興味がない。鬼籍院なんてものに所属している理由はただ一つ。
他の者がそれぞれ胸に思惑、理由、野望を秘めているのに比べれば何と単純な欲求だろうか。
強い者と戦いたい。
彼にあるのはただそれだけ。
より強く、より最強に近い者を求め、そしてそれを飲み込む。
それこそが最強により近いと言う己が存在の証明。
何故、強さを求めるかって?
群雲より差し込んだ一条の月光が男の顔を薄闇に浮かび上がらせる。
粗暴さの中にある男臭い顔が歪む。
そして、笑いが弾けた。
すくっと立ち上がる。
手には彼の武器となる何の変哲もない鉄パイプがあるだけ。
つい一週間前と同じビルの屋上。よくあるシチュエーション。
ただ、今日はその時と違い月下流麗とはいかないようだ。
「理由がいんのかよぉ?」
目の前に現れた者に話しかける。
それは静かに、ただ唐突に目の前に降り立った。
理由はいらない。
「いるさ、人には理由が必要だ」
「いらねぇよ。俺は、強くなりたい。もっと、もっと、最強と言う物に限りなく近づきたいんだよぉ!」
交差する視線と言葉。
「男が、強くなりてぇと思うのに理由が」
飲み込んだ言葉を一息に吐き戻す。
「いるってぇのかあああ」
奔る銀線と、振るう銀閃は再び交わった。