表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/30

第二十話 加速[追憶]

余計な装飾は要らない。

ただ、一直線に胸を突く。

真嗣は短刀を差し出した。

「そこまでだよ、真嗣」

刃は北条の白衣に触れるか否かと言う距離で止まった。

伸ばしかけた腕を、横から掴まれる。

何時の間にかすぐ横に現れた士月が真嗣を止めていた。

次の瞬間、殺人的な程の士月の蹴りが強かに北条を捉えゴミ屑のように吹き飛ばす。

吹き飛び、後、地面に倒れこんだ北条はぴくりとも動かない。

「殺してどうする気だい。気絶させるだけでいい」

圧倒的な殺意は矛先を変え、士月に向いた。

「どけ、俺の邪魔をするな」

「落ち着くんだ、真嗣。いつも仕事をする時のように…」

真嗣の目を見据え、窘めようとした士月は咄嗟に後ろに飛び退く。

黒髪が何本がはらりと落ちる。掠めたのは光の如き閃光。

「俺はいつも通りさ、士月。だから、俺の前に立ち塞がるな」

やはり、笑みとともに告げる。両の手に握られるのは、新たな殺戮の刃。

「殺すぞ」

今の一閃に躊躇いはなかった。

それが何よりその言葉が嘘でも何でも無いと証明している。

「真嗣、僕は君の味方だ」

静かに口にする言葉。だが。

士月がつい最近そう告げた時と今の真嗣の反応はあまりにも反応が違っていた。

真嗣はその時の叫びが幻であったかのように、ねっとりとした笑みで笑い飛ばす。

「前に進む俺の答えは」

笑みが消える。

「この快楽の先にある」

この世の全てを殺すような憎悪を士月は肌に感じた。

だが、一歩踏み出そうとした真嗣から乾いた音が響く。

真嗣の手にあった短刀が地面に落ちていた。

糸が切れたかのように、がくりと膝を着く真嗣。

「くぅ…」

間髪入れずに士月は真嗣の側に駆け寄った。

「大丈夫かい?」

「あ、あぁ。俺は」

「今はゆっくりと休んだ方が良い。後始末は僕に任せて」

支えるように抱き起す士月を真嗣は拒絶した。

よろめきながらも、それでも自らの足で立ち、血に濡れた惨殺の舞台を降りるために、屋上の出入り口である扉の方へ向う。

屋上を後にした真嗣の後ろ姿を、僅か目を細めて見ていた士月は呟く。

「血に呑まれ始めた、いや、加速し始めた、の方が正確かな」







どうやって此処までたどり着いたのか、良くは覚えていない。

けれど、真嗣がマンションの自宅がある階まで来ている事に間違いはなかった。

身体的なダメージはほぼ無いと言っても過言ではないのに、体が鉛のように重い。体重が何十倍にも膨れ上がったかのようだ。

それでも、そんな言う事を聞かない体を引き摺り、やっとの思いでここまでたどり着いたのだ。

エレベータを出たところに少し広い空間がある。

その毎日見る変わらない光景に安心感を覚えたのか、思わず膝から力が抜けた。

何時だったか。

ぼんやりする意識の中で思い出す眺め。

その日も彼は此処に倒れかけていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ