北風とチョコレイト
けんけんぱ、けんけんぱ。寒い時にはこれに限る。
けんけんぱ、けんけんぱ。跳躍を繰り返していると、自然と体が暖かくなる。
けんけんぱ、けんけんぱ。眼前ではペットのジョンが "まる" とか "まるまる" とかをアトランダムに描いてくれる。
けんけんぱ、けんけんぱ。けんけんぱ中は何も考えなくとも良いのが性に合っている。小難しいことは嫌いなのだ。
けんけんぱ。けん。
かくん、と電池が切れたようにジョンが動かなくなった。
どうしたのだい、ホラ、チョコレイトをあげようね。
この声にもジョンは地に這いつくばって動かない。
大好物のチョコレイトだ、ネ、そうだろう。後生だから、ネ。明日の新聞にでも乗ったら大変だ。
私はジョンの "まる" でしか進めない。最後の "まる" から動けない。ジョンにチョコレイトを渡そうと手を伸ばせど届かない。
動かずにいると割合風があることに気づいた。寒くなってきている。
ジョン、ホラ、ダメじゃあないか、君はこのチョコレイトを食べて立ち上がってくれるんだ、ネ、そうだろう?
ジョンはもう何も言わなくなった。何も動かさなかった。
振り向くと高町だった筈の瓦礫からこちらに向かって『けんけんまる』が連なっており、それはまるで抗えない鎖のように思われた。