62話 再戦
俺は今トリーネと2人で工房に向かって歩いているのだが、心の底からトリーネがオセロに興味を示してくれた事に感謝している。
ミルフェイユを出た瞬間に思い出したのだ。工房の場所を一切覚えていない事を。
帰り道は覚えている、だが行きは親方に引きずられて行ったせいで覚えられなかったのだ。
正確に言うと帰り道もうろ覚えだ。
だからトリーネには感謝している。そして、それがバレないようにトリーネの動きに細心の注意を払い曲がるタイミングを伺っている。
「ナギトって工房に1回行ってるのよね?」
「え?うん、行ってるよ」
「なんで道覚えてないの?」
バレとるーーーーーー。
「え?何が?」
「だって、顔は前を向いてるけど目だけキョロキョロしてるし、曲がる時もワンテンポ遅れてるから」
「いや、行ったけど途中までは親方に引きずられて行ったからイマイチ把握出来てないんだよね」
「ふ~ん。帰りも引きずられたの?」
「帰りは1人だったけど・・・」
「だったら覚えられるじゃない。もしかして方向音痴?」
「じゃ・・・若干?」
「方向音痴なのね」
「かな・・・」
「それであんまり色んな所に出歩かなかったのね。やっと理解できたわ」
「いや、やる事も色々あったし忙しかったから・・・」
「そうね。そうゆう事にしておくわ」
そうこうしている内に目的の工房に着いた。後ろ姿でも分かるガタイの良さは親方だと思い挨拶をする。
「おはようございまーす」
「ん?おうナギトか。おはようさん」
「将棋について細かく伝えるようにメディンさんから言われて来たんですけど、どうすればいいですか?」
「そうだな。まずは俺とオセロで再戦しながらでも教えてくれ」
「いや、まだハマってたんかいっ」
「大分やり方のコツを掴んできたからな。このあいだみたいに一方的にはやられないぞ」
「まぁ、それは別にいいですけど。あ、あとトリーネが見学したいそうなんですけどいいですか?」
「あぁ、別にかまわねぇぞ」
「メディンの孫のトリーネです。よろしくお願いします」
「邪魔しなけりゃ好きに見学してな」
「トリーネはオセロに興味あるみたいなんですよ」
「何?俺と勝負するか?いや、まずはナギトとやってからだな」
「だから、ハマりすぎですよ親方」
という訳で、まずは俺と親方がオセロで勝負する事になり。トリーネには観戦して貰う事になった。
続けて2戦やったのだが親方が角に固執する戦い方をするので中央をそっくりそのまま俺が埋め尽くして勝利を収めた。
「くそう。もう1回だもう1回」
「次はトリーネとやってみたらどうです?トリーネ、ルールは大体分かった?」
「うん、とりあえずやってみたい」
「よし、嬢ちゃんかかってこい」
1戦目は親方の圧勝、2戦目はかなり際どい勝負だったがそれでも親方の勝利で終わった。
「親方、そろそろ将棋について説明したいんですけど」
「もう1回お願いしますっ」
「いくらでもかかってこい」
うん、知ってた。でも何だろう、ここまで無視されるといっそ清々しい気持ちになる。
何か新しい悟りを開きそうになった時、工房の奥から声が聞こえてきた。
「親方おはようございます」「はよーっす」「おはようございまーす」
「ナギトさんいらしてたんですね」
「フィリップさんおはようございます」
「おはようございます」
「あぁ、オセロのやつか」
ゴン───。
「いってぇ」
「ボビー。お客様に対して失礼ですよ」
「でもよぉ、兄貴ぃ」
「弟弟子が失礼致しました」
「いや、気にしてないんで全然大丈夫ですよ」
「でもよぉ。コイツ、ラルフと年も変わらねぇだろ?」
ゴン───。
「いってぇ」
「はぁ~。お客様に対して失礼だと何度言えば分かるんですか?」
「じゃあ、何て呼べばいいんだよぉ」
「普通にナギトさんとお呼びすればいいんですよ」
「ナギトって呼び捨てにして貰っていいですよ。俺が18で年もそんなに変わらないと思うんで」
「馬鹿な弟弟子の所為で申し訳ございません」
「いやいや、そんな気にしないで下さい」
「一応、紹介させて頂きますね」
「はい」
「私が1番兄弟子のフィリップで24歳です。そして、この馬鹿がボビー。そして、1番下のラルフが14歳ですね」
「ナギトです。よろしくお願いします」
「もっと下かと思ったら俺の1個下だったんだな」
「あー、くそう!もう1回だ!」
「いくらでも相手になりますよ」
まだやってたよ・・・。
「将棋の説明に来たんですけど、どうすればいですかね?」
「そうですね。私が伺っても宜しいですか?あの様子だと親方は仕事にならないと思いますので」
「ですね・・・。それじゃあフィリップさんお願いします」
フィリップさんは2人に指示を出して作業に向かわせ。俺はフィリップさんに、トリーネと親方がオセロをやっている横で将棋の説明をしていく。
ルールの説明はせずに、盤の大きさや駒の大きさと形。そして、材質等の説明をしていく。
指した時のパチンって音、あれ好きなんだよね。
説明が終わった後、トリーネが南門周辺の散策に付き合ってくれるのか心配なんだよね。
「私はオセロやってるからナギト1人で行ってきなさいよ」とか言われそうでマジ怖い。
そんな事を考えながらフィリップさんに将棋の説明をしていった。
実はそんな理由から行動範囲が狭いのでした。
べ、べ、べ、別に作者の都合で狭かった訳じゃないんだからねっ。
広げるのが面倒臭いとか全然思ってないんだからっ。




