538話 レリック加工
「アダマンタイトのナックルは装飾とか一切要らないんで」
「おう、分かってるよ」
「それと、色はそのままでお願いします」
「良いのか?」
「人前で使う事も無いと思いますし」
「ふむ。なら問題無ぇか」
それに、メインはガントだしね。
やっぱりナックルだと不安と言うか心許ない気がしてしまう。
「ところで、ナックルってこの形しか無いんですか?」
「いや?色々あるぞ」
「どんなのです?」
「革手袋とか、そこにプレートをカマしてるヤツとか色々だな」
「そっちの方が安定しそうですね。それは置いてないんですか?」
「ウチは鍛冶屋だぞ?置いてる訳無ぇだろ」
「あ、そうでした」
武器屋とか防具屋ってのはこの街に無いらしく、作った工房がそのままその製品を販売するってのが基本らしい。
商業ギルドはまた別として。
ナイル親方の工房は武器・防具を扱う鍛冶屋。
買った時は知らなかったけど俺が使ってる革防具はナイル親方の弟のバーナード親方のらしい。
バーナード親方の工房は防具を専門とした革の工房。
なので、今回作って貰っている新しい防具。
ダマスカス、ミスリル、革の三層構造の金属部分はナイル親方、革はバーナード親方による兄弟での共作という事だろう。
トニーさんも従兄弟らしいから・・・きっとドワーフみたいな一族なんだろう。
居るのか知らないけど。
「バーナードんトコ行きゃあんだろ」
「え?でも、防具専門じゃないんですか?」
「手袋なんて基本は防具だろ」
「まぁ、たしかにっ」
「ナックル自体、怪我しない為の武器って感じだしな」
「まぁ、そうですね」
「殺傷力が欲しけりゃ、ナックルとかガントじゃなく剣を選べって話だよな」
「トニーさんはナックルにも求めてるみたいですけどね・・・殺傷力」
「言うな・・・。頭が痛ぇ・・・」
「いや、でも。このミスリルのナックルですけど」
「ん?おう」
「トニーさんなら横にナイフ付けるだけじゃなくて、前にトゲでも付けそうな感じなんですけどね」
「アイツなりの美学なのかセンスなのか分からんが何かあるんだろ?分かりたくもねぇが・・・」
「まぁ、トゲまであったら。このミスリルナックルも作り直しでしたけどね」
「だよな」
「ところで、防具の完成って何時ぐらいになりそうですか?」
「分からん」
「え?」
「色を変えるのはまだ良いとして。傷んでる様に見せる加工をすんのは初めてでな」
「あー、はい」
ダメージ加工とかエイジド加工とかビンテージ加工って言われるヤツか。
「今も練習中なんだが、まだ要領が掴めなくてな」
「練習してるんですか?」
「おう。安物の防具でな」
「なるほど」
「使い込んで傷んでる様に見えるが、実際に傷んでたら使い物にならんだろ?これが中々難しくてな」
「中古の見た目で新品の性能って考えると難しそうですね」
「ヘタに傷付けたら、そこが脆くなっちまうからな」
「何か、楽しそうですね」
「何がだよ」
「いや、難しいって言ってるのに楽しくて仕方ないって顔してますよ?」
「何でだよっ。厄介な仕事ばっか持って来やがって」
「えぇー」
「でも、まぁ、なんだ・・・この技術が他のにも流用出来るかは分からんが。新しい事をするってのはいくつになってもワクワクするよな」
「やっぱ楽しいんじゃないですかー」
「うっせぇ」
まぁ、楽しんでくれてるなら何よりだ。
「それじゃあ、完成したら連絡をお願いします」
「おう」
「あ、トム君は何か気になるのあった?」
「えっと、装備じゃないんですけど・・・」
「うん」
「トニーさんってソロなんですよね?」
「ん?あぁ、そうだろうな」
「危なくないんですかね?」
「まぁ、大丈夫じゃねぇか?無茶しなけりゃ死にはしねぇだろ」
「それに、ソロだと持てる荷物も少ないですし」
「もしかして、トム君も潜りたいとか?」
「あ・・・はい・・・」
「トニーさんと?」
「俺、低階層の経験があんまり無くて」
「うん」
「ロックスに入る前もほとんどポーターみたいな感じだったんですよ」
「うん」
「ロックスに入ってからもナギトさん達って皆強いじゃないですか」
「んー、俺以外は?」
「ナギトさんも十分強いかと・・・」
「そうかな?」
「はい。なんで、自分と変わらないぐらいの人と潜ったらどんな感じなのかと」
「あー、周りが強いと頼っちゃうし。緊張感とか責任感ってのは足りなくなっちゃうかもね」
「そうなんですっ。なんで、ナギトさんが良ければトニーさんと俺の2人か、ナギトさんも入れて3人でってのダメですか?」
「あー、一応言っとくが・・・トニーのヤツはああ見えてBランクだぞ?」
「「えっ?」」
「まぁ、ブランクはあるがそれなりにはやれるはずだ」
「それだと意味無いね」
「はい・・・」
人は見かけに依らないと言うか・・・。
Bランクまでいって、それであのヒャッハーな装備を作る意味が分からない・・・。
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