525話 地味
「まず服を着て下さい・・・」
「ん?おう・・・何で裸なんだ?」
「知らないですよ。隠すなり着るなりして下さい」
「何を隠すんだ?」
「いや、もう良いです。とりあえず着て下さい」
まだ、だいぶお酒臭いから酔っ払ってると思う。
酔っ払いを相手にする気は無い。
「リビングに服あると思うんで、着て待ってて下さい」
「おう」
「もうご飯にするんですか?」
「え?しないよ?」
「ええっ。だって今っ」
「待ってる間にまた寝るでしょ」
「あー、たしかに・・・」
「そんな事より。折角、火も熾して油の温度も上がったんだから。ガッツリ作っちゃおう」
「あ、はい」
ひたすら揚げていく。
トム君が小麦粉をまぶし、溶き卵に潜らせ、パン粉を付けたのを受け取り油に投入して、頃合いを見計らって油から上げる。簡単に油を切ったらそのままアイテムボックスに収納。
そんな簡単なお仕事だった。
のは最初だけで、ボアファングの肉を切り分けたり、小麦粉をふるいに掛けたり、卵を追加したり、パン粉を作ったり、薪を追加したりと色々とやる事が増えてしまい。
俺もトム君も一切止まる事なく動き続け、熱気が立ち込めているのも手伝って汗だくだった。
「トム君」
「はい。あ、ナギトさん卵をアイテムボックスからお願いします」
「トム君」
「はい。それと、ボアファングの肉もお願いします」
「トム君・・・そろそろ休憩にしよう・・・」
「え?あ、はい・・・」
「ふぅ・・・一旦、ストップで。これが揚がったら休憩ね」
「はい。この途中のはどうしますか?」
「アイテムボックスに入れとけば良いんじゃない?また作ると思うし」
「そうでしたね」
使った調理器具を洗ってから収納しようと思ったが、アイテムボックスに入れてしまえば洗う必要も無い。
良く考えると。いや、良く考えなくてもアイテムボックス便利だな。
地味だけど。
「鍋は収納しないんですか?」
「仕舞っても良いんだけど。熱いままだと怖くない?」
「そうですか?次、使う時に1から温める必要も無いから良いと思うんですけど」
「熱いの忘れてたら怖いし。出す時に高温の油が掛かったら危ないかな?って」
「あー、たしかにそうですね」
「だから、冷めるまで待ってから収納しようと思ってるんだよね」
「なるほど」
「ちょっとブラッドさん見て来て貰って良いかな?」
「はい」
「寝てたら放置で。起きてたら水でも飲ませておいて」
「はい」
その間に俺は薪と火の始末をする。
水を掛けて消そうと思ったけど・・・これこそアイテムボックスに入れておけば毎回火熾しをする手間が省けるんじゃないかと入れてみる。
うん。普通に収納出来た。
試しに出してみると、収納前と同じ様に燃えている。
うん。便利。
地味だけど・・・。
「寝てました」
「だろうね」
起きてたら「腹減った」とか「まだか?」とか絶対に言ってくるはずだしね。
庭で椅子を並べてトム君と喋っていたが陽も傾き始めたのでビリーさんを呼びに行って貰った。
部屋で一体何をやってるのか・・・。
「はぁ~・・・何でまだ裸なのよ・・・」
「1回起きたんで着るように言ったんですけどね」
「トム君」
「はい」
「外に放っぽり出して来て」
「えっ」
「捕まりません?」
「捕まるわね」
「ダメじゃないですかっ」
「でも、目障りでしょ?」
「せめて庭に・・・」
「私の目に付かない所ならどこでも良いわよ」
「トム君。庭でっ」
「はいっ」
「あ、それでね?」
「はい」
「これアイテムボックスで綺麗にしてくれない?」
籠に山積みになった服・・・。
「えっと・・・これって洗濯は?」
「してあるわよっ」
「は、はい」
「アイテムボックス」
綺麗になる様。汚れが落ちる様に念じてから取り出す。
「あんまり変わらないわね」
「まぁ、そうですね」
「じゃあ、次はこっちもお願い」
まだあったのかっ。
さっきと同じ様に念じてから取り出す。
「ど、どうですか?」
「変わらないわね」
「でも、一応は汚れとか落ちてるはずなんですけどね」
「新品にはならないの?」
「それは流石に無理だと思いますよ・・・?」
「なぁんだっ」
流石にアイテムボックスに出し入れするだけで中古が新品になるとかぶっ壊れスキルだと思う。
破れた服が直るって事だよね?
それが食べ物だとしたら。
一口食べた物をアイテムボックスに出し入れすれば食べる前の状態に戻ったり・・・。
Lv.99だから出来ても不思議では無いか・・・。
「洗濯出来るって感じで。壊れたり破れたりしてる物を直したり。古くなった物を新しくするとかも無理だと思います」
「そっか。意外と地味ね」
何だろう。
自分でもそう思う。
そう思うんだけど・・・人から言われると意外と傷付くっ・・・。
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