521話 それでもダメなら押し倒せ
落ちた衝撃で壊れていないか、ズレたりしていないかを入念にチェックしたがどこにも異常は見当たらなかった。
「ふぅ・・・」
「さっきの音は何だ?」
「ひゃっ」
「なんだ?」
「いや、びっくりしただけです・・・」
「そうか。で、さっきのは何だ?」
「石窯の出し入れが可能なのか試してみたんですけど・・・」
「ふむ」
「戻す時にちょっと誤差と言うか・・・」
「落っことしたのか」
「はい・・・あっ、壊れてないですよっ?」
「チッ・・・」
「なんで舌打ちっ!?」
「壊れてたなら、その責任って事でブラッドを背負わせれたのになって思ってな」
「まだ起きないんですか?」
「起きねぇな」
「水掛けたりしてもダメですか?」
「そこまでやんのかよ」
「それでも、ダメなら濡らした布を顔に被せるとか」
「よし、やってくるっ」
10分後ぐらいに見に行こう。
溺れても10分以内に蘇生すれば後遺症の残るリスクは低いって聞いた事がある。
人工呼吸とかは要るだろうから、それはジョーさんにやらせよう。
10分って言ったけど、する事も無いのでリビングに戻ろう。
バシャ───。
「まさか、水ぶっかけて起きないとは・・・」
「押してダメならもっと押せ。ですよ」
「だな」
バシャ───。
「う~~~~ん」
「起き・・・ないですね・・・」
「量増やすか」
「ですね」
ガタン───。
「落ちたな」
「でも、起きないですね」
2回顔に水を掛けられ、ソファから落ちても一向に起きる気配が無い。
「こりゃ起きねぇぞ?」
「そうですね・・・しばらく放っときましょうか」
「いざとなりゃ、足にロープでも括り付けて引っ張ってきゃ良いだろ」
「それでも起きなさそうなのが怖いですね」
「まぁ、流石に起きるだろうが・・・マッパのままだから捕まるな」
「どうしましょう?」
「何がだ?」
「わざわざ暗い中、ダンジョンに行くのも微妙じゃないですか」
「そうか?」
「ダンジョンに寝に戻るみたいで・・・」
「あー、確かにな・・・。戻るの明日で良くねぇか?」
「んー・・・」
「起きた所で酒も抜けてねぇから、どの道今日は使えねぇぞ?」
「あー、そうですね」
「俺もまだ抜けてねぇからな」
「もう1泊しましょうか・・・」
「おう」
ジョーさんは部屋で寝るとの事で、ビリーさんにも伝えて貰う様頼んだ。
俺は・・・トム君の帰りを待とうかと思ったけど、全裸で死んだ様に眠っているおっさんと2人っきりって状況に耐えきれずにトム君を迎えに行く事にした。
「あれ?ナギトさんどうしたんですか?」
「いやぁ・・・もう1泊する事になったんだけど、どうしようかなー?って」
「あ、そうなんですね」
「ブラッドさんも起きないし、ジョーさんもまだ酔ってるらしいから。今、戻っても寝に戻るだけになっちゃうしね」
「なるほど」
「だから、今日はする事なくなっちゃったんだよね」
「たまにはゆっくりしたら良いんじゃないですか?」
「え?結構ゆっくりしてるつもりなんだけど」
「あ、そうか。採集の時もこれでもかってぐらいゆっくりしてましたね」
「いや、あれはメリハリをつけてただけでスキル上げ頑張ってたんだよ?」
「え、そうなんですか?」
「うん」
「ベッドで横になりながらですか?」
「うん・・・」
「ポテトチップス食べながら?」
「う、うん・・・」
「あ、そうだ」
「ん?」
「今日はもう予定無いんですよね?」
「うん」
「だったら、冒険者ギルドで稽古付けて貰えませんか?」
「えっ」
「前よりはレベルも上がりましたし」
「うん」
「ジョーさんに稽古付けて貰って強くなってる気がするんです」
何か、話の流れ的に怖いんだけど・・・。
「前みたいに何も出来ずに終わるって事は無いと思いますし」
ほら・・・。
お礼参り・・・的な・・・?
「ダメですか?」
「いやぁ・・・あんまり冒険者ギルドに行きたくないんだよね」
「あー・・・そうでした。だったら、ホームの庭ででも良いですよ」
あれ?退路断たれちゃった?
「あ、でも。ホームだと木剣とか無いですね」
「流石に普通の剣を使う訳にはいかないしね。また今度にしよ」
よし。これで逃げ切れる。
「でも、大丈夫じゃないですか?」
「え?」
「俺が怪我してもナギトさんが居れば治して貰えますし」
「いや、俺が怪我したらっ?」
「えぇ~、ナギトさんなら大丈夫でしょ?」
「いやいやいや」
「だって、ジョーさんよりレベル高いって聞きましたよ?」
「いや、ほら?俺、元々支援アシだし」
「あー、そうでした」
「だから、また今度ね?」
「はい」
何で、そんな急にやる気に満ち溢れてるの?
いや、トム君は元々やる気満々か。
まぁ・・・今日のトム君はやる気って言うか、殺る気に満ち溢れてる感じだけど・・・。
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