473話 あれー?
「あのっ・・・」
「うん?」
トム君はかなり思い詰めた表情を崩さないままに話しだした。
「こんなお願いするのは筋違いなのは分かってるんですけど・・・」
「うん」
「アイツ・・・ジョーイを何とか出来ませんか?」
「何とかって?」
「アスガードに居られない様にして、追い出せって事だろ」
「違います、違いますっ。・・・冒険者になる手伝いと言うか・・・」
トム君こそジョーイの事を嫌ってるのかと思ってたけど。
出来の悪い弟って感じで放ってはおけないのかもしれない。
「ロックスに入れんのは無理だぞ?」
「あっ、それは分かってます・・・」
「他のパーティーも紹介出来無ぇ」
「え・・・」
「アイツの事なんざ信用して無ぇし。義理も無ぇ」
「で、でも・・・紹介するぐらいならっ・・・」
「紹介したパーティーでアイツがヘマしたら誰の責任だ?」
「あ・・・」
「当然、アイツの責任だが。紹介した俺にも責任がある。だろ?」
「はい・・・」
「使えないだの、口の利き方がなってねぇだの、逃げ出しただのなら良いが」
「はい・・・」
「アイツの所為で誰かが怪我したらどうすんだ?掠り傷程度なら問題無ぇが、冒険者を引退しないといけねぇような怪我したとしたら誰が責任取るんだ?って話だ」
「はい・・・すいません・・・」
「俺もジョーイの為に何かしてあげる気は無いかな」
「ナギトさん・・・」
「でも、トム君が休みの日とかに稽古つけてあげたりする分には自由だと思うよ」
うん。何か良い感じの事が言えた。
泣かせちゃったから、ちょっと罪悪感もあるんだよね。
「あ、俺は俺で自分の事で精一杯なんで。そこまではする気無いです」
あれーーーーーーーーー。
「ジョーイに稽古つけるぐらいなら自主練してた方が絶対良いですし」
「う、うん・・・」
「簡単に出来るならって思っただけなんで。お時間取らせてすいません」
「う、うん・・・」
「ブフッ・・・」
「「!?」」
「何がそんなに面白いんですか・・・」
「面白ぇだろ・・・ドヤ顔で良い事言いましたーって表情からビックリした顔になって、そっから一気に無表情になったんだぞ?ブフォ・・・」
「あー、もー・・・・食べ終わったならさっさとトム君とルアクでも狩って来て下さいっ」
「おうおう、んじゃトム。準備すっか」
「は、はいっ」
「自由だと思うよ(キリッ)」
「もー、さっさと準備して来て下さいよっ・・・あっ・・・」
「ん?」
「くそうっ・・・」
「どうした?」
「ずっと覗いていた甲斐がありました」
「!?」
そう言いながらダンジョン側からセーフエリアへとアンさんが入って来た。
「いつから居たんですか・・・?」
「相変わらずだったな・・・。からでございます」
「いつだっ!?」
「100階へ帰り。直様79階への扉を潜りましたので、ずっと覗いておりました」
「・・・・・・」
「分かりやすく言いますと。471話の冒頭ぶb「それ以上はいけないっ」」
危ない・・・何て事言い出すんだこの人・・・いや、神様か・・・。
「それでは今度こそ本当に失礼致します」
「はい。信用はしないですけど」
アンさんは恒例のどデカイ扉をくぐって行ったけど、気は抜けない・・・。
「恐ろしいな・・・」
「はい・・・」
「いや、マジで恐ろしい事に気付いちまった」
「え・・・はい・・・何ですか・・・?」
「何時見られてるのか分かったモンじゃねぇから、気を抜けねぇだろ?」
「はい・・・」
「でもな?」
「はい」
「気ぃ張ってる時は見てねぇんだよ。きっと」
「あぁ・・・はい・・・」
「見てても出て来ねぇって方が正しいかもだがな」
「厄介だ・・・」
「完全な後出しジャンケンだからな」
「ですねぇ・・・」
「っつー事で、ナギト」
「はい」
「俺等の心の平穏の為に常に気ぃ張ってろ」
「無理ですよっ」
「頼むっ」
「無理ですって・・・」
「それか、極力反応しない事だな」
「基本、不意打ちですからねぇ・・・」
「まぁ・・・無理か・・・」
「はい・・・」
「それに、あのねーちゃんは反応しなけりゃしないで悦ぶからな・・・」
「八方塞がりってヤツですね」
「さっさとビフロストに行くしか無ぇな」
「着いて来たらどうします?」
「そん時ゃアレだ」
「何かあるんですか?」
「諦めろ。詰んでる」
「いやいやいや、何か無いんですかっ?」
「無い。トム準備に行くぞっ・・・って、居ねぇな。俺も準備しに行って来るわっ」
「あ、ちょ・・・」
逃げやがった・・・。
まぁ、アンさんへの対策はいくら練ったところで簡単に飛び越えて来るからなぁ。
予想の遥か斜め上を・・・。
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