47話 交渉
置き手紙に商業ギルドに来てくれって書いてあるけど、どこにあるか知らないんだよね。
と言う事で、冒険者ギルドで商業ギルドの場所を聞き向かう事にした。
場所は大通りを進み金の稲穂亭を少し過ぎた所にある東西を結ぶ大通りを西に行くと商業ギルドがあるそうだ。
どうやら方角によって大体の住み分けがされているらしく、西は貴族や商人など金持ちが多く住むエリアらしい。西に行く事がなかったので貴族様にお目に掛かる機会がなかった訳かと納得する。
そして、西に進む程にたしかに建物も豪華になり、ヘタに目立って貴族などに目を付けられない様にとコソコソしながらキョロキョロと周りを伺いながら商業ギルドを目指したのだが当然の様に逆に目立っていた。
目的の商業ギルドは一目見てすぐに分かった。この街で見た建物は大抵が木造、もしくは石造と木造の合わせたような作りの物だったのだが商業ギルドは外観が完全な石造で、しかも石を切り出してそれを積み上げた様な形ではなく1階から3階まで継ぎ目も見えず表面も滑らかで尚且つ真っ白だったのだ。
「おぉー、めちゃくちゃ稼いでそうだな」
残念な感想だが確かに儲けているのであながち否定できない。
見上げたまま呆けている訳にもいかず感想もそこそこに商業ギルドの扉をくぐる。
まず受付カウンターへ向かい、そこで書き置きを見せると3階にある会議室へと案内された。
案内してくれた職員さんが会議室の扉をノックし会議室へと入る。全員の視線が俺に集まり既に帰りたい気持ちでいっぱいになる。
「すいません、何かお呼びが掛かったみたいなんですけど・・・」
「はぁ~。ナギトこっちじゃ」
と溜息混じりにメディン婆さんが横の席を勧めてくれた。
失礼します。と勧められた席に掛けながら周りを見回すと商業ギルドの偉いさんっぽい人が3人席に掛けていて、その後ろにも職員さんが数名立っている。その中には昨日メディン婆さんからの言伝を伝えてくれたマリオンさんも居る。
「こやつがウチの従業員のナギトじゃ」
え?従業員なんですか?住み込みのバイトぐらいに思ってたんだけど。まぁ、似たようなモンか。
「はい。メディンさんの所でお世話になってますナギトです」
「君があのオセロというゲームを考えたらしいじゃないか」
「あ、はい。そうですね」
「いやぁ、あれは中々素晴らしいね。単純かつ奥が深い。あぁ、自己紹介がまだだったね。私が商業ギルドのギルドマスター、ダグラスだよ。よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
「隣に居るのがサブマスターの・・・」
「ダンと申します。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「マネージャーのクリスです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
と紹介が続いたのだがギルマスにサブマスにマネージャーにと全員役職持ちで偉い人が上から順にここに居るんじゃないかって感じだ。
「それで、あの・・・。俺がここに呼ばれたのって・・・」
「あぁ、いくつか確認したい事や聞きたい事があってね」
「・・・はい」
「ナギト君はメディンさんに色々な情報を提供する対価として給料を貰っているのかい?」
「そうですね。店の手伝いとかもしますしトリーネの手伝い?みたいな事もしますけど、そんな感じですかね」
「ふむ、なるほど」
「あの・・・それが何か・・・?」
「確認は今ので終わりだよ」
「はぁ」
「他にもまだオセロのようなゲームを思いついてるらしいけど、それはオセロにも匹敵するような出来のゲームなのかな?」
「うーん。実はこの国に来てまだ日が浅くて、この国にどんなゲームがあるか知らないので似てるのがあったりするかもなんですけどオセロにも負けないような出来だとは思います」
「なるほど。それを今ここで簡単に説明して貰ったりは出来ないかな?」
「ダメじゃ」
「メディンさん、私はナギト君に聞いているんですよ?」
「こんなに人が居る所で情報を引き出してどうするつもりじゃ?」
「あぁ、それもそうですね。私とサブマスター、マネージャーを除いて退室するように」
「それだけじゃ足りんじゃろ?」
「もちろんですよ。ここで見聞きし得た情報は口外も利用もしないよう誓約書にサインもします」
「まぁ、そんな所じゃろうかの」
何か俺、完全に置いてきぼりなんですけど・・・。
「マリオン、すまないけど誓約書の作成頼めるかな」
「かしこまりました。作成が済み次第お持ち致します」
「お願いね。それじゃあ皆会議室から出ていくように」
「「「はい」」」
一気に人が居なくなり、にこやかだけどピリピリした空気が漂っている。俺も空気だけど・・・。
全員無言のままどれぐらい時間が流れただろう。
コンコン───。
「どうぞ」
「失礼致します。誓約書の方はこんな感じでよろしいでしょうか?」
「うん。仕事が早くて助かるよ」
「いえ、それでは失礼致します」
「メディンさんも確認して下さい」
「ふむ。まぁ、問題ないじゃろ」
「それではサインを済ませますね」
と、3人が順番にサインしていき、それをメディン婆さんがまたチェックする。
「これでようやく準備が整いましたね。お話いただけますか?」
良く分からないままに追い詰められて逃げ場が無くなった様な心境だけど、何がどうなっているのかも分からないし気にせずそのまま話せばいいか。と、目を瞑り深い溜息を吐くと共に覚悟を決めた。
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