390話 海老が2本
「で、何してたんですか?」
「いや、なんだ・・・。ちょっとばかし寝付きが悪くてな」
「あぁ、はい」
「あー、もうっ。これだよこれっ」
「んん?酒瓶ですね。ん?持ち込んでたんですか?」
「違ぇよ。昨日の残りだよ」
「あぁ、まだ残ってたんですね」
「残ってねぇけどな・・・」
「どっちなんですか。って、あぁ、今残りを飲み干したんですね」
「目に見える程も残ってなかったからよ」
「ん?はい」
「そこに水をちょろっと入れてよ」
「はい・・・」
「瓶の中に残ってる酒をかき集めて呑もうとしてたんだよっ」
「いや、必死すぎでしょ」
「我に返って気付いたが。俺もそう思う」
「出来れば、やる前に気付いて下さい・・・」
「はっはっは。そりゃ無理だろ」
「なんでですかっ」
「後悔ってのは、先には出来ねぇんだぜ?」
「くっ・・・何か、上手い事言われた・・・気がしたけど、我を失って後悔する様な。しかも、こんな恥ずかしい事しないで下さいって言ってるんですよ」
「くっ・・・まぁ、だな。で、寝酒をくれ」
「ストレートに来ましたね。しかも、唐突に」
「寝れねぇんだから仕方無ぇだろ?」
「まぁ、昼間寝てましたからね」
「ぐっ・・・」
「って、事で。オーギー刈りよろしくお願いします」
「お、おいっ。マジか?」
「マジです」
「マジかよ・・・」
「まぁ、サボってた分のシワ寄せですから仕方ないですよね」
「サボっては無ぇだろ・・・」
「え?でも、今日働いてないですよね?」
「ま、まぁ、そうだが・・・呑んだんだから仕方無くねぇか?」
「あー、だったら。もうダンジョンではお酒出せないですねぇ」
「おい、待てっ。出してくれんのか?」
「そこは、まぁ。ブラッドさんの働きぶり次第じゃないです?」
「マジかっ」
「マジです」
「なら、やるしかねぇな」
やるしか無いのか。
なんだろ。そんなチョロいブラッドさんが大好きです。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「おうっ」
さてと。
これで、やっと寝れる。
「ところでよ?」
「はい」
「ジョーはどうしたんだ?」
「ジョーさんは街の方ですね」
「ふーん。ビリーとよろしくやってるって訳か」
「なっ・・・」
「ん?」
「なん・・あ、いや、何でもないです」
ただの軽口のはずが、ついさっきの事だから過剰に反応してしまった。
「そうか?まぁ、気は進まねぇが働いて来るとするかぁ」
「お願いしまーす」
ブラッドさんを送り出し。
ダンジョンまでの道のりを休み無しで走って来て、汗もかいたのでもう1度クリーンを掛けてから80階へ下りた。
トム君が寝てるはずなのでライトの光量は抑えめにベッドの元へ行き、靴と靴下を脱いでから大の字になって寝転がる。
ぽよんっ───。
「へっ?」
「おかえりなさいませ」
「えええええええええええええええっ」
「来ちゃった」
「天丼かよっ!」
シーツからひょこっと顔を出し、真顔で見つめてくるアンさんがそこに居た。
「な、な、な、何で居るんですかっ」
「マヨネーズを受け取りに参りました」
「いや、そうだけどそうじゃなくてっ。何でそんな所に居るんですかっ」
「ここぐらいしか隠れられる場所が無かったからでしょうか?」
「隠れなくて良いんですよ・・・」
「分かりました。次回は隠れずに驚かせる方向で作戦を練って参ります」
「いやっ、驚かせなくて良いんですよっ」
「あれをするな。これもするな。ナギト様は意外と束縛されるタイプなのでしょうか?」
「どっからそんな話になるんですかっ」
「ですが、そういったのも吝かではありません」
「・・・・・・あー・・・マヨネーズでしたね」
「はい」
「えっと、お皿に入れて渡せば良いです?」
「はい。こちらにお願い致します」
「はい」
と、アンさんはシーツの中から籠・・・バスケットって言った方が良いかな。を取り出し。
そして、そのバスケットの中から陶器っぽい、喫茶店とかで良く見る砂糖入れみたいのを取り出した。
その陶器の器にマヨネーズをスプーンで掬って移し、アンさんに手渡した。
「ありがとうございます」
「はい・・・」
「それでは失礼致します」
「はい」
アンさんは壁に扉を出現させたが、尋常じゃなくデカい。
この扉の最上部は天井よりも高くにある気がするんだけど、こんなんで開くのか?と思ったら、開くのは向こう側で問題無かった。
でも、デカすぎじゃね?
「次回もご期待に添えるよう精進致します」
「いや、何も期待してないですよっ?驚かせなくて良いですからねっ?」
またまたぁ~。といった感じでアンさんがニコっと笑い。それと同時に扉が消えた。
うん、めちゃくちゃ可愛いな。
普段、無機質とまでは言わないけど無表情だからこそのギャップにやられた・・・。
じゃねぇっ!
あの人、次も絶対に何かやってきますやーん。
疲れてるのに更に疲れた・・・。
いつもお読み頂きありがとうございます。




